第29話 秘密の作戦
俺は全てを打ち明けた。これまでの魔族との戦い。いつそれが起きてどう村が滅んでいくのか、自分の経験した全てを事細かに。
「そうか、なるほど。魔族の親玉であるダークネスドラグーンを相手しているとその隙に兵が村へと進軍してくるのか」
「……うん。ダークネスドラグーンはかなりの強さで放っておくことも出来ないし……何度か兵を全滅させてからダークネスドラグーンと戦うっていうプランを立てたんだけど、それも駄目だった」
「どうして?」
「ある程度兵を倒すとダークネスドラグーンの出現が早まって結局同じことになった」
「ならその兵を俺らが相手すればよくないか?」
「出来たら助かるけど、もしかしたらダークネスドラグーンがそっちに行くかもしれない。それに兵自体もなかなかの強さで、止めること自体結構難しいと思う」
「なるほど。じゃあやっぱりそれに対応できるレベルになることが最低ラインだね」
ウルカがダンジョン下層への扉を見た。皆はすでにここに来た時点で任務用の装備をしていた。おそらく俺が先に進んでいた場合追って来ようとしていたのだろう。だから今からダンジョンの奥へと進む準備はできている。
「わかった、行こう」
俺たちは11層の扉を開いた。
11層~20層へと進んでいく。エンカウントした魔獣は100体以上。皆のレベリングを目的としているため逃げることはせず、その全てを撃破して進んだ。その戦闘も皆の戦闘経験を積ませることも目的としていたため、俺はほとんど手を出すことはしなかった。
ラッシュ、コクエ、ウルカ、カムイ。皆のレベルは推奨レベルに達していないため、勿論幾度も全滅の危機に陥ったりしていたが、そのたび俺がヒールでカバーし事なきを得た。ヒーラーでよかったなと心底思った。
「危なかったぁ!!もう少しで殺されるとこだった!!リン、ありがと!!」
「ううん。ラッシュ良い動きだったよ。どんどん良くなってる」
「おお、マジで?リンにそういわれるとやる気出てくるわ!!」
このゲームではジョブで役割が決まっている。敵の攻撃を引き付ける『タンク』敵を攻撃する『アタッカー』そして味方が攻撃を受けた際、回復する『ヒーラー』
ラッシュは戦士でありその役割は『タンク』になる。一番頑丈な戦士は敵の攻撃を引き受け耐え、味方が攻撃されないようにする需要な役割である。彼がもし耐えきれずやられてしまえば『アタッカー』のコクエ、ウルカ、カムイへと攻撃が向かいパーティーは全滅してしまう。
(……そして『ヒーラー』はその『タンク』が耐え続けられるようにヒールをしてHPを回復させるのが役割だ。けど)
魔族との戦闘では俺はダークネスドラグーンの相手をするから、おそらく皆のサポートはできない。だからヒーラー抜きで耐えられるようになってもらわなければならないんだけど、それには『アタッカー』の火力も重要だ。
敵の殲滅が早ければそれだけタンクに入るダメージが少なくなる。そうすればアイテム等での回復で済む。
でも、だからこそ……もしかしたらという気になっている。
もしも皆があの軍勢を食い止める力を得たなら、俺はダークネスドラグーンに集中することができる。そうなれば、もしかすると村を守り切れるかもしれない。
(それにはレベルを上げて戦闘経験を積んでもらわなければならない……襲撃がある日までに間に合うか?)
☆【ラッシュ】レベル26。戦士。
☆【コクエ】レベル25。黒魔道士。
☆【ウルカ】レベル32。賢人の狩人。
☆【リン】レベル54。白魔道士。
今レベリングしている11層~20層は敵のレベルが20~30。最優先は皆のレベリング。もう少しここらで狩りをするか。
ラスト一日で俺が30層ボスを単独で倒して終わりって感じかな。
そうすればギリギリ皆のレベルも40には乗るだろうし。
「……今日はこのくらいで帰ろう」
「ん?もう帰るのか?」
「そりゃまあ帰らないと。もう朝方だし」
「そうだね。騒ぎになってあの洞穴が見つかったらまずい」
その言葉でふと思い出した。そういえばあの洞穴、いずれ見つかるんだよな。何度か見つからないように色々細工してはみたけど、見つかるまでの日にちが短くなることはあったが伸ばすことはできなかった。
(……残り2日か)
「ねえ、思ったんだけど」
コクエが手を挙げた。
「任務でもここまできて修行しない?」
その言葉にハッとする。確かにそれができれば効率はかなり上がるし、襲撃の日にまで目標のレベルに達する可能性が高くなる。しかしそれには問題が一つ。
「確かにそれはそうだけど、村長たちに無茶苦茶おこられるぜ?ここまで来たら余裕でタイムリミット過ぎるだろうし……」
「何よ、ビビってんのラッシュ?これは村の存亡がかかってるのよ?そんなの気にしてる場合じゃないの。わかる?」
「まあ、そうだけど……いや、いちいちむかつくな。言い方が」
「まあまあ、落ち着いて。二人の言い分は間違ってはないよ。リンはどうかな?任務でもここで経験値を稼いだ方が良いと思うかい?」
本当なら村長に魔族の件を話してダンジョンを使わせてもらうのが一番いい。なんなら何度か村の大人たちに協力を仰ごうとしたこともある。しかし、いつもまともには取り合ってくれず逆に不穏なことをいう俺を不気味がり、ダンジョンから隔離されたりと散々な目に合った。
(あまり派手に動いたら不審に思われるかもしれない……)
「いや、やめておこう」
「えええ、なんで!?」
「もしそれで深い階層に行ってることがバレたらダンジョンに入ること自体が難しくなるかもしれない」
「あ、そっか」
「じゃあ休みの日はどうだろう?」
「いや、難しいと思う。ほら、クロウデスが亡くなって皆がこの洞穴を探しているだろ。ウルカには捜索隊でこの場所に誰も近づかせないようにしてほしいから」
「ああ、そうか……」
「え、なになに?どういうこと?」
「一昨日に村人が亡くなっただろ。あれはクロウデスってひとでダンジョンの魔獣にやられてたんだ。だからダンジョンへ通じている場所があるんじゃないかって大人たちが捜索してるんだ。僕はリンに頼まれてその捜索を攪乱している」
「ああ、なるほど……ふーん」
ちなみにいうとウルカが捜索隊へと加わる日が一日ずれ込んでいたりする。何度か試した結果、そこで加わらなくても洞穴が発見されるリミットへの影響がないことが分かった。その為、昨日はダンジョンで一緒だった。なるべくなら皆と一緒に過ごした方が良いからな。
「まあ、でも残りの日にちは少ないしな。多少の無理はした方が良いかもな」
「そうだね。半端な戦力だとむしろリンの足を引っ張ってしまう」
「…‥あ、ならいっそこのままダンジョンに籠る?」
「「「え?」」」
コクエのセリフに皆が一斉に彼女の顔を見る。
「どうせこのダンジョンの洞穴は見つかるんでしょ?もういっそのことその日までここにいたほうがいいんじゃない?どうせダンジョンの中になんて誰も探しに来ないしね」
確かに。危険なダンジョン、上層ならまだしも11層~にはおそらく誰も踏み入らない。そして丸二日もここでレベリングすれば皆かなりの強さになる。
「……まあ、それもそうか。っていうかそもそも俺たちが強くならなきゃこの村自体おしまいだしな。そう考えると二日間行方をくらますなんて別に大したことじゃないか」
コクエの言葉にラッシュが頷く。
「僕も賛成かな。リン、どうだろう。一度だけやってみないかい?もしもこれで何かしらの失敗があれば次に活かせばいいし……何かしらの希望が見つかるかもしれない」
希望があるかもしれない。何の根拠もない彼女の言葉が不思議となぜか受け入れることができた。
(……そうだ、失敗じゃなく、希望を探しに行く……これはそのための)
「うん、わかった。やろう」
俺たちは初めての家出を決行した。
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