第20話 想い
「それは、本当……?」
ウルカは頷く。
「ああ、本当だよ。それにそんな危険な場所は見つからないほうがいい。他の犠牲者が出ることを阻止したいのは皆同じだろうし」
「けど、村の皆は今回の事件の真相が知りたいはず。ウルカの一族総出で探せばすぐに見つかってしまうんじゃ」
「そうだね。僕らのパートナーである白狼は鼻が利く。だからこそ僕にはその対策ができるのさ」
「なるほど、そうか」
「そして事件の真相だけど、確かに突き止めるまで皆は止まらないだろう。だから見つかってしまうまでの期間を延ばす」
「……できるの」
「僕とカムイならできる。でもよくて3日、短くて1日かな」
(1日……いける。あの扉の向こう、その先へいき高レベルの魔獣を死に物狂いで狩りまくる)
ふと俺は昔参加したオンラインでのTA大会を思い出す。あの頃は必死だった。自分のプレイヤースキルを証明するために、腕を魅せられる舞台があればなんにでも出た。
今も……いや、あの頃以上に必死だ。この腕に村の皆の未来がかかっている。だからやれる、俺なら。
「リン。君はまだ何かを隠してるね」
「……!」
「あ、違う、聞き出そうとしてるわけじゃなくてね。君がそうして頑なに口に出さないのには何か訳があるんだろう。だから聞かない。でもね、その真剣な表情と眼差しが物語っているんだ……君の抱えているモノが、とても大きいという事を」
「……うん」
「でも、言えなくてもいい。なにか役に立てることがあったら何でも言ってくれ。僕はあの日、ダンジョンで君に救われた。あの暗く深い洞窟の奥、もう二度と会えることはないと思っていた母さんに、オウカに会わせてくれた。君は僕の抱えていたモノを解決してくれたんだ。だから僕も君に何かしたい……させてほしい」
ウルカの熱が伝わってくる。彼女は普段、冷静沈着で大人びたイメージの少女だ。だからこそこの熱のある言葉が、嘘のない本当の想いなのだとわかる。
「わかった。行こう」
俺たちは残りの雑草取りに取り掛かった。
☆
草むしりの作業が終わり、ウルカと共に洞穴まで来た。
「これが、あのダンジョンへ通じる入口」
夕暮れ、捜索隊が解散したタイミングを見計らい俺とウルカはこの場所へ来た。
「どうかな……うまく隠せる?」
「うん、大丈夫」
そういうと彼女は持ってきたリュックから何かを取り出した。それは大きなラックのようなもので、草や苔の装飾が施されていた。
「これで穴を覆って隠すってわけか……なるほど。確かにこれならここに洞穴があるなんてわからない」
「でしょ。けどこれだけじゃちょっと不安だよね。この付近に白狼を連れた人間がきたら穴から漏れでている魔力に匂いで気づかれてしまう。だから、そこを僕がなんとかする」
「どうやって?」
「一族の捜索隊は明日から投入されるんだけど、それに僕が参加する。そして僕をここら辺の担当にしてもらって、誰も近づかせないよう誘導する」
「できるの……?」
「ふふん。僕を侮ってもらっては困るよ。こう見えて一族で天才狩人と呼ばれた女だ。それくらいわけないよ。ただ、それでなんだが……」
「?」
「僕は明日からの任務に参加できなくなる。捜索は日中に行われるからね」
そうか、なるほど。でも俺としては捜索隊にウルカがでてこの場所を守ってくれる方が安心できるしありがたい。
「任務は私に任せて。あまり危険なとこにはいかないようにするし、時間で戻れるよう配慮するよ」
ウルカは仲間想いだ。少しでも安心させてあげよう。それがこの場所を守ってくれる彼女へ俺ができる唯一できることだ。
しかしそんな俺の思いとは裏腹に彼女はきょとんとした顔でこういった。
「ああ、それに関しては何も心配してないよ。君は強いからね。こちらの事は気にせずラッシュとコクエを鍛えてやってくれ」
「……うん、わかった」
ウルカは柔らかく微笑んでいた。
――その後、ウルカと別れ家へ。夜中、ダンジョンへと出る準備をする。
赤く輝くダガーを腰に差し、リュックを背負う。今日でレベル70付近まで上げてみせる。そう意気込み、俺は部屋のクリスタルへ触れ、祈りを捧げ、今日も屋根を降りた。
明るい月夜が変わらずに照らす、あの場所へ。
被せられた巨大なラックを除けてロープを取り出す。年季の入った鉤爪を岩の窪みへかけ降りる。ぼんやり光るクリスタルの灯り、暗く広がるその先へ私は走り出した。
濁る泥溜まり、上から突き出る樹木の根、崩れた通路。あらゆる場所に彼の影がちらつく。揺れるコートが翻り、囮になるため魔獣に向かって彼が飛び出すたび心強さと共に不安や心配に胸をかられた。けど、その背中は大きく見えた。俺を守ろうとしていることが伝わってきた。
(そうだ、たぶんクロウは……)
『お嬢ちゃん今日の夕飯はなんだった?ちゃんと食ってるのか?』『疲れてねえ?菓子でも食うか?』『嬢ちゃんは友達はいるのか?ああ、特別任務の……そうかそうか。え?いやなんでもねえよ』そんな他愛のない話が頭の中で再生され心が揺らぎどこかが痛む。時折見せる優しい眼差し、緩んだ口元。
『――ねえ、クロウには家族はいないの?』
『……家族。まあ、いた時はあったかな』
『いた時は?』
『俺は失敗した男、【烙印者】だからな。唯一の生き残り、ある戦争でおめおめと逃げ帰った卑怯者、世間ではそう評されているのがこの俺さ。勿論この村でも忌み嫌われてる……そんな奴が家族とか絶対嫌だろ』
『え、そう?』
『そうだよ。後ろ指さされる人生なんて、嫌だろう。俺が家族ならそいつを恨んで憎むし、帰ってきてほしくは無いね。……それに嫁や娘はもう長いことほったらかしだ。合わせる顔もねえ』
『ふーん、そっか。クロウは意地っ張りなんだね』
『……おまえ、今の話きいてた?』
『うん、聞いてたよ。だからさ、わかるよ……私は帰ってきてほしかったから』
『……』
『私のお父さんは魔王軍との戦争で命を落としたんだけど、今の話をきいて思ったんだ。例え汚名を着せられ、誰に何を言われようと、私は逃げてでも生きて帰ってきてくれる方が良い。……もし私がクロウの娘だったらそう思うよ』
『……はっ、お嬢ちゃんみてえな強ええのが娘だったら俺は自分が恥ずかしくて逆に死んじまうぜ』
『そんなことないでしょ。まあ、いつか会いに行ってあげなよ。お父さんなんでしょ?守ってあげられるのはクロウだけだよ』
『……ああ、まあな。わかってるさ』
――巨大な扉の前に着く。どこかの城の扉のような見た目。俺は目を閉じ、心を落ち着かせる。そしてゆっくりと扉を押し開けた。
奥の方、整列する白銀の騎士達。左右に6体ずつ並び、その奥に大きな玉座に騎士王が座す。両脇には赤と青の大剣が立てかけられている。床には赤いカーペットが縦横無尽に敷かれ、天井にはいくつものシャンデリアが吊るされている。あれは魔法騎士の魔力備蓄器でもある。
ゴゴゴゴゴゴゴ、と大きな音と共に後ろの扉が閉まっていく。
俺はルベウスダガーを鞘から引き抜き右手に持つ。左手には杖を握り、二つを交差させ敵を見据える。
(……君の守った大切な人を、今度は俺が守り抜くから)
「――『魔弾』」
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