【即死チート付き白魔道士】前世で死ぬほどプレイしていたVRMMOへTS転生し最強に。
カミトイチ@SSSランク〜書籍&漫画
第1話 転生
「……あれ?」
見上げた天井にある大穴。仲間三人と一緒に来この洞窟で、どうやら上の階層から落ちてしまったようだった。
「嘘だろ」
じんじんと痛む尻をよそに、惚けながら暗い穴を見上げている俺。そして何が起きたのかをゆっくりと理解する。
「俺、転生してたのか……ネトゲの世界に」
ここまでの流れ、大穴から落ちるという展開は……俺が生前プレイしていたラスドリというネットゲームのチュートリアルと同じだった。
そう、ここはフルダイブ型VRMMORPG、【LAST DREAM】通称ラスドリの世界。そのが美しく、リアル。さらに高性能AIで作られたNPCはまるで生きているかのようで、種族も豊富。魔物の種類、多くのダンジョンやPVPコンテンツ等であらゆる角度でゲーマーを魅了した。全世界6000万人がプレイしていた大型の大人気MMOである。
……何度も訪れたこのダンジョン、それに村の風景、仲間の顔、何もかもが同じだった。
(この世界に生まれてからここまでの記憶はある。村の娘として産まれ、14歳になる今までこの村で暮らしてきた記憶が。けれど、今思い出した。俺はもともと男だったことを……)
前世は34歳の男でブラックな会社に使われ体を壊し辞職。その帰りに暴漢に襲われていた女性を庇って……そして刺され死亡した。なんとも悲しい最期だが、あれが夢ではないことを鋭く痛む腹部の感覚が記憶している。
(けど、ありえるのか?ネトゲの世界に転生しただなんて……何がどうなったらそんなおかしな展開に……)
しかし懐かしいな。このネトゲ、もうサービス終了して何年にもなるんだが。まさかこうして再びこの世界に来られる日が来るとは。
俺はこのラスドリをベータテストからサービス終了までずっと遊んでいた。それこそまるでこの世界で生活していたレベル。12人推奨の高難度レイドをソロでクリアしたり、世界ランク4位までのぼりつめたりと……まあ、要するに廃人とよばれる域の人間だった。
だからこそ、この世界には思い入れがある。転生していると分かった今も、動揺しているものの嬉しさの方が勝ってさえいた。
「しかし凄いな。あたりまえだけど、この床のざらつきも、薄暗さも何もかもがラスドリよりリアルだ……いや、それどころか、この落下してぶつけた尻の痛みや、洞窟内のカビ臭さ、じめついた風はゲームでは体感できなかった」
フルダイブゲームは専用のギアと呼ばれるヘッドセットを被ることで世界に入りこむことができる。しかしそれはあくまで視界や聴力に情報を伝達しているだけで、触感や嗅覚に作用することは無かった。
フルダイブと銘打っときながらもそこ止まりだったのは、おそらく安全性の問題。誰もが夢見た世界は夢のままとなり、このタイプのゲームが主流となった。
(だからこそ、俺は今わくわくしている!)
糞みてえな前世だったからな。生まれ変われたうえに、それがこのラスドリの世界と来た日にゃ楽しまずにはいられねえ。たのしむぞー!
「メニュー!」
俺は手を宙にかざしメニュー画面を表示させようと呼びかける。メニュー画面とは、開くと「アイテム」「ステータス」「装備」「セーブ」等の機能一覧が見られる機能で、プレイヤーがコールすることで呼び出せるゲームのシステム画面だ。しかし、それが一向に現れない。
「……あれ?」
しかしメニュー画面は現れず、俺は虚空を見つめ固まる。もしかしてそういうゲーム的なシステムはこの世界では無いのか?と首を傾げた。
しかしゲーマーの習性とでもいうのだろうか。試せるものは全て試さなければ気が済まない。もう一つのシステム画面をコールした。
「こっちはどうかな?ステータスオープン」
――
【ステータス】《称号》深淵ノ死者
《名前》リン《ジョブ》白魔道士
レベル:5
HP:80/80
MP:120/120
筋力:12
魔力:32
精神:16
俊敏:13
詠唱:23
《装備:武器》
N1『魔力の杖』攻撃力(物):7 攻撃力(魔):21
《装備:防具》
N1『魔道士の外套』防御力(物):11 防御力(魔):18
《スキル》
★【魔眼】:消費MP――
《魔法》
☆『ヒーリング』:消費MP15
☆『エアマジック』:消費MP5
☆『マジックバースト』:消費MP20
――
「おおお?でた!」
透明感のある四角い画面。そこに白い文字で表記された俺の能力値。懐かしいな。本来は青い画面なんだけど、設定で黒にかえたんだよな。あー懐かしい。
えーと、どれどれ……白魔道士は初めてやるからな。魔法をちゃんと理解しておかないと。
俺は魔法に指をさす。するとその魔法についての説明が別窓で現れた。
☆『ヒーリング』対象一体のHPを回復する。回復量小。
これが基本の回復魔法。回復量が小とあるけど、実はこういうのは使い手の魔力に依存するのでレベルが上がって魔力の数値がふえれば回復量も増える。
☆『エアマジック』対象一体を吹き飛ばす。威力0。
これは要するに敵をノックバックさせる技。ヒーリングが間に合わない時に敵の攻撃を阻止するのに使うと解説動画で見た。ネットのまとめサイトでは使えない魔法ナンバーワンとか言われていたが、俺にはそうは思えない。
☆『マジックバースト』対象一体に聖属性ダメージ。威力大。
こちらも同じく、威力は魔力依存。その為、威力大とあるが大したダメージは出ない。せいぜい黒魔道士の初期魔法、ファイアよりも弱い火力。キャストもリキャストも重いが、しかしこれがあるおかげでこのヒーラージョブでもソロで冒険を進めることが可能。初期の白魔道士、唯一の攻撃魔法だ。
「まあ、回復魔法があるのを考えれば妥当か。バランス調整上手いんだよなこのゲームの運営……さて、確認終わり。次は実戦だ」
俺はざらついた岩の地面に手をついて立ち上がった。その際に自分の纏う白い外套に気が付く。裾を縁取る朱色の模様。波をうったそれは命を運ぶ血液を表し、ヒーラーであることをさしている。
「この白魔道士の服装良いよねえ。テンション上がるわ」
周囲を見渡せば、道が前後へと通っている。洞窟内だというのに完全な闇にはならず薄暗いのは、一定間隔で通路脇に露出しているクリスタルの魔力光によるものだ。
この二方向、どちらに行ってもチュートリアルモンスターが出てくはず……っと、でた。
ふと闇の中現れた黒い影。現れたのはリトルオーク。豚の鼻に鋭い目つき、体は俺の半分くらいのサイズなのに、大きな棍棒を担いでいる。
「ぐるるる……!!」
低い唸り声。強烈な獣臭と明確な敵意。
「おお、すげえ迫力……やっぱりゲームとは違うな。けどこっちから攻撃をしかけないとかかってこないところはチュートリアルだな」
俺はリトルオークに指をさす。すると、黒いウィンドウが現れる。
☆【リトルオーク】レベル5
「敵の情報もでる、と」
まあ、レベルしかわからないけど。情報開示スキルか魔法があればいろいろとわかったんだけど、この白魔道士サブキャラだしな。仕方がない。
「さて、いこうか」
俺はリトルオークへと杖を向け、『マジックバースト』を詠唱する。キャストバーが現れ、そのゲージが満たされると、リトルオークへ光が収束し「ボン!!」と弾けた。
「グゴッ!?」
吹き飛び床を転がるリトルオーク。俺はさらに『エアマジック』を放ち吹き飛ばした。再度『マジックバースト』を使用するため、時間を稼ぐ。
態勢を立て直すリトルオーク。ガン!と棍棒で床を打ち付け怒りをあらわにし、こちらへ向かってくる。
あっという間に距離を詰められる。しかし、すでに溜まっていた『マジックバースト』のキャストバー。振り下ろそうとしていた棍棒は俺へと当たることなく、顔面が吹き飛ぶ。
宙へと舞う棍棒がゴンと床へ落ち、倒れたリトルオークも動かなくなる。
「ふう、戦闘チュートリアル、クリアっと……ステータスオープン」
――
【ステータス】《称号》深淵ノ死者
《名前》リン《ジョブ》白魔道士
レベル:6
HP:100/100
MP:110/160
筋力:18
魔力:45
精神:21
俊敏:19
詠唱:28
《振り分け:10P》
《装備:武器》
N1『魔力の杖』攻撃力(物):7 攻撃力(魔):21
《装備:防具》
N1『魔道士の外套』防御力(物):11 防御力(魔):18
《スキル》
★【魔眼】:消費MP――
《魔法》
☆『ヒーリング』:消費MP15
☆『エアマジック』:消費MP5
☆『マジックバースト』:消費MP20
――
よしよし、レベルが上がった。そんでこれね、振り分けポイント。レベルが上がると各ステータスに任意で振ることができるポイントが貰える。これはレベルアップの他にも特定のお使いクエストやダンジョンをクリアすることで入手することができる。
俺はこれを必ず『俊敏』に振るようにしている。このステは回避率にも影響があるとされていて、接敵するのにかなりつかえる。
そう、接敵。え、ヒーラーなのに敵に近づいていいの?そう思われただろう。まあ、それはそう。普通、ヒーラーといえばパーティーの生命線であるがゆえに後方で支援をするもの。敵に近づくなど言語道断だ。野良などでやればたちまちブラックリスト入りになるだろう。
だがしかし俺はソロプレイヤー。普通にヒーラーをするつもりはない。というよりも、そもそもこの白魔道士のキャラクターを作ったのもあることを試したくて作った。
(まあ、作ったはいいがすぐにサービス終了しちゃって試せずじまいだったんだが……はあ、運営があんなことになったせいで)
や、それはもういい。とにかく、神様か誰かは知らないがこんないい機会を与えてくれたんだ。存分にやりたいことをやろう。
俺はステータス画面のスキルにある【魔眼】を指さす。
★【魔眼】対象にある死に直結するポイント【死門】が視認できる。深淵ノ死者のみが所有するユニークスキル。
このゲームには最難関クエストとよばれるコンテンツがある。それはフルパーティーである12人でもクリア率0.00001%、約6組という鬼畜クエストで、熟練のプレイヤーであってもクリア困難なものだ。
しかしそれをクリアしたもの(アカウント単位)にだけ与えられる唯一無二の報酬がある。
それがこのユニークスキル【魔眼】である。ソロクリアではユニークスキル、パーティークリアでは武器、防具が先着順であたえられる。
そしてこれはジョブによって変わり、シーフでクリアした俺が与えられたのが【魔眼】だった。
(いやあ、われながらよくクリアしたもんだ。ゲーム内の財産を全て投入した五時間の死闘……大学の入試より真剣に勉強したもんなぁ。苦しかったし発狂しそうになったけど、たのしかったな)
って、話がそれた。そう、この【魔眼】でやりたいこと。それは完全なソロプレイ。
さっき高難度クエストをクリアするにあたり全財産を投入したと言ったが、そのほとんどが回復アイテムや装備武器で消えた。パーティーで戦えばヒーラーがいるからいいけど、俺のようなソロだと回復手段はアイテム等に限られる。だから金が恐ろしいほど消えていく。
しかし、ああいう高難度がリリースされるたびにあれほどの金を使わなければならないのか?いや、それは勘弁だ。他にも武器の強化や様々なことに金は使う。もったいない。そう思った俺はこのヒーラーを作ることを決心した。
このゲームにおいてはユニークスキルというものはアカウント共有であるため、新たにキャラクターを制作した場合にも引き継ぐことができる。
(まあ、そんなユニークスキル持ちなんて、数千万いる【LASTDREAM】でも10人いるかいないかだけど……)
とにかくそんなわけで俺は自分で回復できて敵を殺すことができる、ユニークスキル持ちの白魔道士、【魔眼のヒーラー】を作ってみたのだ。
「さてさて、上で俺の帰りを待っているNPCには悪いけど、【魔眼】がこの体でちゃんと使えるか確認しときたいからな……奥に行って魔物で試そうか」
そうして俺は少し下の下層を目指し歩き始めた。
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