第23話 開戦


「まって、カムイ!!ダメだってぇ!!どこへ行くんだい君はぁ!?」


「ん?……うぉ!?なんだぁ!?」


門へと走り出したカムイ。門番の横をするり通り抜け外へと飛び出していく。


「いやまてまてまてーい!!」


「申し訳ない!!カムイが、僕の白狼が外に……連れ戻しに行っても!?」


「え、いや、もう外は暗いし……君はハクロウ一族の娘のウルカだろう!夜の外がどれだけ危険なのかしっているよな!?いくら君でも今外へ出ることを許すことはできないぞ!」


「けど、あの子はカムイは僕の唯一の家族なんだ!もしこれで帰ってこなかったら、僕は……ひっく」


でたー!ウルカの伝家の宝刀、泣きまね!!


「あ、まて!泣くな!……え、えーと、分かった!ちょっとここでまっていろ!俺が連れ戻してくる!!」


「!、ありがとうございます!カムイを、お願いします……!!」


外の闇の中へ走っていく門番。腰に付けたランタンを揺らしながらカムイとの追いかけっこが始まった。その隙に俺は門を通り外へ。ウルカとすれ違った一瞬、視線が合い頷く。


(……ありがとう、ウルカ)


真っすぐに魔族がいるであろう場所へ向かった。強力な魔族の群れだ、遠くにあってもそれだけの連中が集まる場所ならすぐに感知できる。

広がる木々の中、森林の中に魔力による転移門ができている。


巨大なブラックホールのような暗い穴。そこから次々と魔族が出てきていた。


(もう既に20体くらいは居るな……)


黒い鱗に覆われた龍神族の魔族【ブラックリザードマン】レベル32。

幾重にも重なった剣の鎧を纏った呪い騎士【ヘルブレイド】レベル36。

竜の死体を纏う一族【鎧竜兵】レベル42。

霧の国の邪神を崇める霧人族【エビルスモッグ】レベル52。


これからまだいろいろ出てくるな。さっさと今いる奴らだけでも消しておこう。


――俺はここの中でスキルを起動させる。『ダブルバースト』さらにルベウスダガーの固有スキルを発動させた。


(……力を借りるよ、クロウ。固有スキル『月影』)


姿が闇に溶け気配も消える。ルベウスダガーのみに宿る隠密スキル。


ダガーと杖を握りしめ俺は魔族の群れを輩出しているゲートへ近づく。主を待っているのか出口でうろうろとしている魔族。俺は杖を向け、唱えた――


「――『魔弾』」


――ドゴオオオオオオオオンンン!!!!


『グギャアアア!?』


『ナ、ナンダ!!!!?』


『ナニモナイトコトカラ、魔力弾ガァ!!?』


『ナンニンヤラレタァ!?』


『テ、テキガイルノカ!?』


――混乱する魔族たち。


巨大な魔力の塊が場にいた魔族を複数巻き込みゲートの中へと吸い込まれた。願わくば向こうにいた魔族にも当たっている事を期待し、近くにいた【ブラックリザードマン】の首をダガーで刈る。鮮血と共に舞った首。それが地に落ちる前に別の魔族へ駆ける。


(『魔弾』に直撃し瀕死になっている奴らから狩っていく……!!)


過去の戦闘経験が生きているのか実にスムーズに十数体を屠ることができた。


『イタ!!ソコニイルゾオオオ!!』


見つかり怒涛の勢いで向かってくる。傍にいた【鎧竜兵】の振り下ろした大鉈をダガーでパリィし鎧の隙間に刃を滑り込ませる。ブシュウという血が流れ地に伏した。


『ナ、ナン……ナンダコイツハァ!?ツエエエエ!?』


『キ、キイテネエゾ、コンナノガイルナンテ!!』


戸惑う魔族たちを他所に俺は次々と接敵し死体の山を築く。そろそろ追加が来るな。場にいた魔族を全て屠り、ゲートへと杖を向け詠唱を開始する。


――『マジックバースト』


現れた魔族の影に光弾が炸裂……したのだが、それは見事にガードされてしまった。


「【ガルドラ】!!」



「ほう。俺を知っているのか、人間」


「ああ、知ってるよ。だって俺はお前に会いに来たんだからな」


二メートルはあろうかという長身、身長以上の長さのある尾。全身は黒く禍々しい魔力に覆われていて、顔も青く光る眼しか見えない。


「……そうか。俺の名は人間界には出回ってはいないと思っていたんだがな。どこの回し者だ?王国十二騎士か、S級冒険者か……お前は誰だ?」


王国十二騎士もS級冒険者もこの国で最強クラスの力を持つと言われている。俺を一瞥しただけで強さを感じ取ったのか。


「そのどちらでも無いよ」


「……ではなぜお前は我らと戦う?」


「お前がそこの村に攻め入ろうとしているからだ。俺はそれを止めに来た」


「……ああ、お前はあの村の人間なのか」


「そうそう。だからさ――」


――ドスッ


「!!?」


ガルドラの背後。背に刺さるダガー。忍び寄った俺は奴の【死門】を貫いた。


「――ここで、死ね」


「ぐ、がはっ、なん、だと……!!?」


先ほどまで会話をしていた目の前の俺が霧散し消えた。あれはスキル『ファントム』で造り出した幻影。ガルドラの魔力を感じた瞬時に『ファントム』を使用し、ルベウスダガーの固有スキル『月影』を使用し闇の中に潜んだ。

今の奴との会話は【魔眼】でガルドラの【死門】を探るための時間稼ぎ。


(間違いなく【死門】には突き刺さっている……さあ、どうなる!?)


ガルドラは魔王城で再戦することになるボス。その時の戦闘の記憶を思い返してみても第二形態は無かったはずだ。だから、システム的に殺せない限りこれで死ぬはず。


その時、不意にゲートが閉じ、ガルドラがその場に倒れこんだ。そこには全身の魔力が剥がれミイラのような魔族が残った。それは竜人族のような肉体をしていて死後何年も経過しているような印象。


魔族が通っていたあの転移ゲートはおそらく彼の能力だったのだろう。それも閉じ、向こうにいたであろう残りの魔族もこちらへはこれなくなった。


「……終わったのか」


俺は腰をその場に落とし、空を見上げた。



――ズズズ、ズ――



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