第36話 因縁
そろそろピンチになるかもと思って、『ダブルバースト』と『ヒーリングレイ』を付与した『漆烏』を飛ばしておいてよかった。ラッシュの腕も斬られたてだったからくっついたし。
「ありがとう、リン」
「ううん。『エアリアルヒール』」
回復魔法を皆にかけ、疲労を回復。
「リン、ご、ごめん……あたし」
狼狽するコクエ。そして放心状態のウルカ。ラッシュが死んだと思ったんだ無理もない。
「ううん、誰のせいでもないよ。少しまってて」
――ガルドラは倒せた。今はダークネスドラグーンへ姿を変えるため空へ浮かんでいる。今のうちに残りの魔族をできるだけ屠る。
『魔弾』を撃ちつつ、『ダブルバースト』で強化した『マジックバースト』、ダガーで攻撃し倒していく。何百、何千と見たこいつらの動き。例え目を閉じていたとしても殺せる。
「ワウ!!」
「カムイ!!」
駆け寄ってきたカムイ。次々と襲い来る魔族を牽制し、攻撃チャンスを演出する。
「ありがとう」
「ワン!!」
☆
「なあ、コクエ、ウルカ。俺、思うんだけどさ」
二人をここで引き留められなかったら、この戦いは終わる。
「多分、逆の立場だったら俺もショックで動けなくなったと思うよ。だからそのまま立ち上がれなくても俺は責めない……」
脚が震える。手を震わせる。今までとは違うリアルな死線が恐怖を生む。でも、自分の死よりも怖いモノがある。
「でもさ、リンが戦っている。俺たちの死を何度も目の当たりにしたあいつは、もっともっと辛かったはずだ……それこそどこで折れても不思議ではなかっただろう。けど、ああしてまだ戦ってるんだ」
――兄貴、力を貸してくれ。
「だから、俺も戦う。……戦おうぜ」
☆
――全部投げ出したい。あたしはもう戦いたくない。
(……死ぬ事より、残される怖さ……)
もう、おじい様が死んでしまった時のような思いはしたくない。
「コクエ、行こう」
ウルカが手を差し伸べてくる。
「怖い」
彼女はしゃがみこみ、あたしの手を取る。
「僕も……怖いよ」
触れているウルカの手はあたしと同じく震えていた。
「あ、あたし……もう戦えない、立てない……」
がちがちと歯が鳴る。
「……ごめん、あたしは……」
あたしはうつむいた。するとウルカの手は離れ、立ち上がった。
「わかった。安全な場所に隠れてた方がいい……これ」
ウルカはあたしの落とした杖を渡し頭を撫でる。そしてリンとラッシュのもとへ駆けて行った。
黒い烏が飛んできて目の前に降り立った。
これって、リンの……。
(リンは、ちゃんと見てくれてる……なのに、あたしは)
☆
――あと3体。
ラッシュ、カムイが来てくれたおかげで殲滅がスムーズになった。あと一分で追加の魔族が現れる。それまでに、全て倒しきらなきゃ。
「リン、ラッシュ、カムイ!!」
ウルカが飛び込んでくる。鉈を使いラッシュのフォロー。ウルカに気を取られた【鎧竜兵】の頭に『魔弾』をぶち込んだ。あと1体。
しかしその時、巨大な竜が舞い降りた。
『さあ、続きと行こうか、死神よ』
――!!
ダークネスドラグーンがラッシュ達を見ている。
『仲間、か。……少々うっとおしいな』
――そうだったのか!!
奴の喉奥に魔力が集中した。口から真っ赤な炎が見えた。
(!?、こいつ、追加された魔族兵がいるのに……一帯を焼き払う気か!?)
ラッシュの魔法盾でも防ぎきれない!!
「――逃げろ!!」
――ズドオオオオンン!!!!
紅蓮の焔が夜空を照らす。
轟音をたてダークネスドラグーンが後方へ吹き飛ばされた。
「コクエ!!」
「……どう?あたしの『紅蓮砲焔』は……!」
7つの焔が全てヒット。巨大な体をもつ黒龍だがその威力に耐えられず、数十メートル吹き飛ばされた。
「リン!!」
呼ばれた名に応えるよう、俺はダークネスドラグーンへと向かって行く。
「皆、もう少しだ!!全員で生き抜こう!!」
「「「おおおー!!」」」「ワン!!」
さあ、最終フェーズだ。
――『漆烏』をダークネスドラグーンへ飛ばす。
『!?』
――ボゴオオオンン!!
再び巨大な焔が奴の顔を襲った。付与されていた魔法はコクエの『ファイアブレイク』だった。
『……これは炎系の魔法……!貴様、なぜ……白魔道士ではなかったのか』
「白魔道士だよ」
――『魔弾』
放たれた魔力の塊は躱される。そしてカウンターで奴の爪が横なぎに振りぬかれた。しかしそれはダガーでパリィし、俺は攻撃を受け流す。
『今の攻撃スピードにも対応できるのか……ますます興味深いな、リン』
「そりゃ光栄だ」
軽口叩いてる場合じゃないのはわかっているけど、少しでも思考を回す時間も欲しい。なんせこいつはまともに倒したことがないからな。一撃必殺のチートスキルはあるが、外した時点でゲームセットになりかねない。
こいつは一度見た攻撃に対応してくる。だからこそ、ここまであれは使っていなかったんだからな。
(コクエのおかげで皆からこいつを引き離せた……あとは、俺がこいつを倒すだけ)
あっちは大丈夫だ。前半戦で皆は戦い方を学習した。ここまで来たら、もう信じるしかない。
――さあ、ここで終わらせよう。お前との因縁を。
俺は杖とダガーを交差させ構えた。
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