第36話 因縁


そろそろピンチになるかもと思って、『ダブルバースト』と『ヒーリングレイ』を付与した『漆烏』を飛ばしておいてよかった。ラッシュの腕も斬られたてだったからくっついたし。


「ありがとう、リン」


「ううん。『エアリアルヒール』」


回復魔法を皆にかけ、疲労を回復。


「リン、ご、ごめん……あたし」


狼狽するコクエ。そして放心状態のウルカ。ラッシュが死んだと思ったんだ無理もない。


「ううん、誰のせいでもないよ。少しまってて」


――ガルドラは倒せた。今はダークネスドラグーンへ姿を変えるため空へ浮かんでいる。今のうちに残りの魔族をできるだけ屠る。


『魔弾』を撃ちつつ、『ダブルバースト』で強化した『マジックバースト』、ダガーで攻撃し倒していく。何百、何千と見たこいつらの動き。例え目を閉じていたとしても殺せる。


「ワウ!!」


「カムイ!!」


駆け寄ってきたカムイ。次々と襲い来る魔族を牽制し、攻撃チャンスを演出する。


「ありがとう」


「ワン!!」





「なあ、コクエ、ウルカ。俺、思うんだけどさ」


二人をここで引き留められなかったら、この戦いは終わる。


「多分、逆の立場だったら俺もショックで動けなくなったと思うよ。だからそのまま立ち上がれなくても俺は責めない……」


脚が震える。手を震わせる。今までとは違うリアルな死線が恐怖を生む。でも、自分の死よりも怖いモノがある。


「でもさ、リンが戦っている。俺たちの死を何度も目の当たりにしたあいつは、もっともっと辛かったはずだ……それこそどこで折れても不思議ではなかっただろう。けど、ああしてまだ戦ってるんだ」


――兄貴、力を貸してくれ。


「だから、俺も戦う。……戦おうぜ」



――全部投げ出したい。あたしはもう戦いたくない。


(……死ぬ事より、残される怖さ……)


もう、おじい様が死んでしまった時のような思いはしたくない。


「コクエ、行こう」


ウルカが手を差し伸べてくる。


「怖い」


彼女はしゃがみこみ、あたしの手を取る。


「僕も……怖いよ」


触れているウルカの手はあたしと同じく震えていた。


「あ、あたし……もう戦えない、立てない……」


がちがちと歯が鳴る。


「……ごめん、あたしは……」


あたしはうつむいた。するとウルカの手は離れ、立ち上がった。


「わかった。安全な場所に隠れてた方がいい……これ」


ウルカはあたしの落とした杖を渡し頭を撫でる。そしてリンとラッシュのもとへ駆けて行った。


黒い烏が飛んできて目の前に降り立った。


これって、リンの……。


(リンは、ちゃんと見てくれてる……なのに、あたしは)




――あと3体。


ラッシュ、カムイが来てくれたおかげで殲滅がスムーズになった。あと一分で追加の魔族が現れる。それまでに、全て倒しきらなきゃ。


「リン、ラッシュ、カムイ!!」


ウルカが飛び込んでくる。鉈を使いラッシュのフォロー。ウルカに気を取られた【鎧竜兵】の頭に『魔弾』をぶち込んだ。あと1体。


しかしその時、巨大な竜が舞い降りた。


『さあ、続きと行こうか、死神よ』


――!!


ダークネスドラグーンがラッシュ達を見ている。


『仲間、か。……少々うっとおしいな』


――そうだったのか!!


奴の喉奥に魔力が集中した。口から真っ赤な炎が見えた。


(!?、こいつ、追加された魔族兵がいるのに……一帯を焼き払う気か!?)


ラッシュの魔法盾でも防ぎきれない!!


「――逃げろ!!」


――ズドオオオオンン!!!!


紅蓮の焔が夜空を照らす。


轟音をたてダークネスドラグーンが後方へ吹き飛ばされた。


「コクエ!!」


「……どう?あたしの『紅蓮砲焔』は……!」


7つの焔が全てヒット。巨大な体をもつ黒龍だがその威力に耐えられず、数十メートル吹き飛ばされた。


「リン!!」


呼ばれた名に応えるよう、俺はダークネスドラグーンへと向かって行く。


「皆、もう少しだ!!全員で生き抜こう!!」


「「「おおおー!!」」」「ワン!!」


さあ、最終フェーズだ。


――『漆烏』をダークネスドラグーンへ飛ばす。


『!?』


――ボゴオオオンン!!


再び巨大な焔が奴の顔を襲った。付与されていた魔法はコクエの『ファイアブレイク』だった。


『……これは炎系の魔法……!貴様、なぜ……白魔道士ではなかったのか』


「白魔道士だよ」


――『魔弾』


放たれた魔力の塊は躱される。そしてカウンターで奴の爪が横なぎに振りぬかれた。しかしそれはダガーでパリィし、俺は攻撃を受け流す。


『今の攻撃スピードにも対応できるのか……ますます興味深いな、リン』


「そりゃ光栄だ」


軽口叩いてる場合じゃないのはわかっているけど、少しでも思考を回す時間も欲しい。なんせこいつはまともに倒したことがないからな。一撃必殺のチートスキルはあるが、外した時点でゲームセットになりかねない。


こいつは一度見た攻撃に対応してくる。だからこそ、ここまであれは使っていなかったんだからな。


(コクエのおかげで皆からこいつを引き離せた……あとは、俺がこいつを倒すだけ)


あっちは大丈夫だ。前半戦で皆は戦い方を学習した。ここまで来たら、もう信じるしかない。


――さあ、ここで終わらせよう。お前との因縁を。


俺は杖とダガーを交差させ構えた。



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