第14話 予知


姿の一変したネシレイア。薔薇のような花を咲かせ、雄叫びを上げた。


(あれは第二形態……という事は残りHPは四割程度か)


依然戦ったデビルオークも第二形態が存在したが、あの時は【死門】を突くことで形態変化をさせることなく即死させ倒した。


第二形態は当然さらに難易度が上がり、時間制限が付く。手早く的確に、より効率的にダメージを与えていかなければならない。ソロプレイヤーの腕の見せ所だな。


ボウ!!とネシレイアの体の花から赤い花粉が噴出する。瞬時に俺は本体に接敵する。鞭による攻撃を的確に躱し、『エアマジック』で弾きつつ至近距離に至る。激しい攻撃にさらされつつも近づいた理由。


――ボゴオオオオンンンンン!!!!!!


地響きと轟音。さっきまで俺のいた場所が炎の海になっている。そう、この赤い花粉は火薬のような性質を持ち、爆発を引き起こす。さっきまでの要領で安置に避難したところでその場所ごと吹き飛ばされるので、回避することはできない。3つ目の初見殺し。


(第一形態のときに近距離はヤバいと思わせ思考に刷り込んでおきながら、第二形態では近距離が一番の安置になる……この魔獣デザインした奴は性格ヤバすぎるだろ!まあ、それを楽しんでる俺もヤバいけどな!)


目まぐるしく変わっていく状況、その刹那の時間でスキル魔法のキャストリキャストを計算し、攻撃を重ね躱し、回復を織り交ぜ耐え、効率よく全てを回していく。ぎりぎりになるHPと尽きかけるMP、全ては計算の上だがリアルに命がかかっているとなると心臓もより激しく脈打つ。


(MPの自然回復量と消費量、何事もなくこのペースで進めばリミットまでにネシレイアを殺れる!)


ズズズ、とまた一回りネシレイアの体が膨張する。第二形態になってからゆっくりと膨れ上がっている体は、体内で構築した魔力による熱エネルギーが暴走しているため。

それが限界に達するとネシレイアはボス部屋の全てを巻き込み大爆発を起こしゲームオーバーとなる。


(第二形態に移行してから15分で爆発するはず。弱り具合からしてあとわずかで殺せるはずだけど……あと五分か。ううむ、どきどきしますねえ)


と、その時。ネシレイアは断末魔を上げ力なく地に伏し、沈黙した。


「……ふう、おわったぁ」


俺はもう大丈夫だとクロウへ手を振った。しかし彼は腰が抜けてたらしく動けないと泣きそうなひきつった笑みで返す。


――

【ステータス】《称号》深淵ノ死者

《名前》リン《ジョブ》白魔道士

レベル:42

HP:689/970

MP:260/1310

筋力:168

魔力:688

精神:209

俊敏:568

詠唱:360


《装備:武器》

R12『碧石の法杖』攻撃力(物):208 攻撃力(魔):910

《装備:防具》

R13『闇子の外套』防御力(物):109 防御力(魔):128

《スキル》

★【魔眼】:消費MP――

☆『魔弾』:消費MP30

☆『ダブルバースト』:消費MP×3

《魔法》

☆『ヒーリング』:消費MP15

☆『ヒーリン・ガ』:消費MP30

☆『エアマジック』:消費MP5

☆『マジックバースト』:消費MP20

☆『エアリアルヒール』:消費MP20

☆『ホワイトガード』:消費MP15

☆『ヒーリングレイ』:消費MP150

――



うん、よしよし……順調にレベルが上がっている。装備も手に入ってるし今のところ申し分ないな。


『碧石の法杖』は19層の隠し部屋で発見した中々のR(レア)12の武器だ。これでしばらく武器は更新せずに戦うことができる。

防具もダンジョンに入る前にクロウがくれた『闇子の外套』があるし装備の面では心配ないな。

まあ、欲を言えばそろそろ装飾品も欲しいけど……詠唱速度アップとかの。


そんなことを考えつつ魔獣の遺体からドロップ品を探す。魔獣の肉体は大部分を魔力で構成されている。その為、特定の部位以外は死ぬとダンジョンに分解され消えてしまう。


「よっし、こんなもんか」


『赤い腐葉』×3『赤い腐蕾』×2『赤い命玉』×1


回収できたネシレイアの素材はこの三種。どれもかなり高価な素材だ。中でもこの『赤い命玉』は一つで一軒家が建つと言われるほど。他の素材と組み合わせることで強力なレア武器も作れる代物で、この素材を求めてダンジョンへ来るプレイヤーは多かった。



(これで作れる武器の一つ、SR14『ルベウスダガー』はいつかほしい。ダガーでありながら全ジョブで装備が可能……勿論この白魔道士でも。これがあれば魔族との戦いもかなり楽になるんだけどな)


けど現時点で作るのは不可能だ。ストーリーが進み王都へ行けるようにならないと。レベルの高い武器を作ってくれるNPCは王都にしかいない。ついでにいうと王都までの道中にある中級ダンジョンの秘宝も素材に使うからな。……王都に行けたとしても時間が足らない。


「しかし、信じられねえな……こいつを一人で狩っちまうなんてよ」


クロウがネシレイアの亡骸を見上げながら言った。


「嬢ちゃんはどうしてこんなにつええんだ?天性のセンスってだけじゃねえ。さっきの戦いもこいつがどう動くかあらかじめわかっていたような動きだった……まさかそれも勘だっていうんじゃねえだろうな?」


「え、うん、勘だよ」


「マジかよ!?」


前世のことを話すわけにもいかないからねえ。苦しいけど、勘ってことで通すしかないよなぁ。


「嬢ちゃんがもう少し早く生まれてりゃなあ」


「もう少し早く……?」


「……いや、なんでもない。すまねえ」


もう少し早く生まれていたらなんだっていうんだ?それ以上は語らずクロウは追及を避けようとするように話題を変えた。


「ところで、この魔獣から出たその赤い宝石。それ、何につかえるか知ってるか?」


「……さあ」


知らないふりをした。戦闘面は特殊任務についていて腕がたつってことでいいとして(よくないけど)、流石に知識面、これから武器や装飾が作れるなんて知っていたらおかしいからな。この村でレアリティの高い装備品の製造法なんて知ることができる場所は無い。

高レベルの魔獣をソロで倒しておいて今更感はあるけど、あまり変な奴に思われたくはない……。

クロウはそれをきいて一瞬怪訝そうな目をしたが、「そうか」といい話を続ける。


「この宝石は王都で一度だけ見たことがある。こいつはな、『赤い命玉』って呼ばれる武器の素材になるもんなんだよ」


あ、あと装飾品にもなるよ……と、言いいそうになり踏みとどまる。あぶね。


「そんでな、その作られる武器ってのは、ダガー、ロングソード、アックスの三種なんだ。どれもが固有のスキルを宿していて高値で取引されているすげえもんでよぉ、しかもそれに加えその三種は専用ジョブ以外も装備が可能だって代物だ!どうだ、すごくねえか!?」


「おお、おー」


この世界では基本的に武器はその専門のジョブでしか性能を発揮しない。つまり、白魔道士なら杖が専用武器で魔法を扱えるが、杖の代わりにロングソードをもったとしても魔法をうてないし勿論剣技も発動しない。たとえ装備できるステータスがあったとしても適するジョブでなくては無意味なものになる。


しかしあの『赤い命玉』から作られる武器三種は違う。専用ジョブ以外でも装備しスキルや魔法が使用できる。


(まあ、ぶっちゃけ魔力補正とかの面を考えると、魔法職で物理武器を装備するメリットはほとんどない。武器スキルを使用するのに持ち替えて使う位で、メイン武器にはならない……普通は)


「嬢ちゃんはダガーに興味があるんだったよな?こいつから作れるダガーは嬢ちゃんでも装備して使えるんだぜ?欲しいんじゃねえか?」


「まあ、そんなのがあるなら……興味はあるかな」


「だよなあ!うんうん」


そりゃ正直喉から手が出るくらいほしいよ。でも無理なことも知ってるからな。ちょっとひねくれた返答をしてしまった。ていうかなんでクロウ嬉しそうなんだ?あれか、自分のメインジョブに興味持ってもらえてる気がして嬉しいのか?


「さて、そろそろいい時間だな」


クロウは胸ポケットから懐中時計を取り出しそういった。


「今何時なの?」


「もう少しで5時になるぜ」


「マジで!?やば!」


お母さんが部屋に様子見にくるのが6時くらいだから早く戻らないと!


「よし、急いで帰るぜ嬢ちゃん!」


「うん!」


それから猛ダッシュでダンジョンを駆け抜けた。クロウは酒浸りの中年のような風貌だが体力は結構割とあるみたいで、デビルオークの部屋まで15分くらいで戻ることができた。

彼の持ってきた鉤爪付きのロープで天井の穴から脱出。俺→お宝の入れたカバン→クロウの順で外へ出た。


「よしよし、上出来!上出来すぎるくらいだぜ!ありがとな、嬢ちゃん!!」


「ううん、こっちこそ」


「あ、そうだ。このお宝なんだけどよ、どうする?」


「どうするって?」


「いやほら、嬢ちゃんの家にもってかえっても邪魔になるんじゃねえか?親にでも見つかってどこで手に入れたか聞かれたら厄介じゃねえか?まさかダンジョンいってましたなんて言えねえだろうしよ」


「まあ、確かに……」


隠しておくにも場所がないし、それも見つかるリスクが付きまとう。入手した素材類をどこに置いておくかなんて考えてなかったな。

思案しているとクロウがこう提案してきた。


「だからよ、俺が預かっておくぜ?」


「!」


「それなら全部解決、心置きなく家で生活できるだろ?大丈夫だ安心しな、ちゃんと俺が保管しておくからよ」


「……パクる気じゃないよね?」


「な!?!?そ、そんなわけねえじゃねえか!!変な言いがかりはやめてよね!!嬢ちゃん!?」


驚愕の表情を浮かべるクロウ。いや、ちょっとした冗談のつもりで言ったんだけど。その反応は……おかしいだろ。

ジト目で疑いの目をむけていると、クロウは焦りながら胸元から再び懐中時計を取り出しわざとらしくいった。


「あ、あーっ!!やばいぜ嬢ちゃん!!時間がもう、あれ、やばーい!!今日って嬢ちゃん任務の日だから準備しないとまずいんじゃ!?」


「げ、そうだった……!」


「ほら、はやくいったいったー!!こっちは俺にまかせて!!」


「うん、まかせた!……パクらないでよー!」


「!?、あ、あたりめえじぇねえか!!」


こうして俺は若干の不安をかかえつつ家への帰路へ。まあ、べつに盗られたところであの穴さえ入ることができれば問題ない。村を守るのが一番の目的で、あくまでレベリングすることが最優先。金は二の次だ。



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