第13話 貪欲の【ネシレイア】


――重々しい扉を押し開けると焼け焦げた臭いが鼻孔をついた。おおよそ学校の体育館ほどあるボスエリア。あたりはデビルオークの部屋とは違い遺体の山という事は無く、無数の草花で覆われていた。その奥に体を丸め眠っている巨大な魔獣。


見た目は一言でいうと巨大な芋虫。しかしただ大きい芋虫というわけではなく、体中に蔓が巻かれ、その隙間から蕾が顔をのぞかせている。


「ギギギギ……」


招かれざる客人、もしくは待ちに待った食事である俺たちに魔獣、貪欲のネシレイアは目覚め体を起こした。


「……こいつは、ヤバすぎるな……」


クロウの笑みがひきつる。ここまでにも強力な魔獣とは何度も相対した。そのたび彼は注意を引き付け見事な身のこなしでほんろうし、いくらかの余裕があるように見えていた。

けれど、今のクロウにはそれは無く、恐怖と不安の色が強く表れていた。


(……ネシレイアのレベルは45。恐怖するのも無理ないか)


俺のレベルは38。うん、ちょうどいいレベル差だな。


「クロウ、こいつは私一人でやる」


「……おう、カウントしてくれ。タイミングあわせてひきつける……って、え?」


戦闘に入るため身構えていたクロウはこちらを二度見して時が止まったかのように固まる。そして手をこちらに向け、待てと言った。


「嬢ちゃん、いくら強いお前でもありゃ無理ってもんだ。デビルオークの比じゃねえ魔力量だぞ……!!それにあの体を見ろ、どんな攻撃がくるかもわからねえ。ここはゆっくりでいいから二人で奴の行動パターンを覚えたほうがいいだろ」


「でもそれはクロウが危険すぎるよ。初見殺しがあったらその時点で死ぬし」


「そりゃそうだが……二人とも死ぬよりはいい」


クロウはそういい俺の眼を見据えた。その瞳の色に、本気で言っていることが分かった。

俺が子供だからなのか、特別任務隊のメンバーだからか……理由はわからないけど、いざとなれば本当に俺を生かそうと身を投げる。そんな想いが目に宿っていた。


(……なら、なおさら死なせられないな)


「クロウ」


「なんだ、考え直したか……?」


「俺は大丈夫だ」


奴のモーション、行動パターンすべてが頭に入っている。むしろこのレベルの敵となるとソロのほうが動きを読みやすい。それに……俺はこの【LASTDREAM】が終わり、それからこの類のゲームをプレイしてない。10数年近くの、かなりのブランクがある。この村をあの魔王軍の魔族から守るにはあの頃の勘と動きを取り戻さなければならないんだ。だから、これは俺にとっても必要なソロレイドなんだ。


「……お前」


「クロウ、一つだけお願いがある。そこの壁際ぎりぎりで待ってて」


クロウが返事を返すよりも早く、俺はネシレイアへと向かう。


(まずは動きになれること)


――ドゴオオオオオ!!!


轟音。とてつもないスピードで右の壁へと頭から突っ込んだネシレイア。初見プレイヤーはだいたいがこれで瀕死クラスのダメージ、もしくは死亡する。いわゆる初見殺しだ。

しかしそれを知っている俺は右へ回り込むようなフェイントをいれ壁の方へと突進を誘導。瞬間、逆へ一歩移動し、杖を構え詠唱を始める。


はたから見ればネシレイアが勝手に横の壁へ突っ込んだという奇妙な光景に映るだろう。しかし奴の攻撃条件を把握すればこうした誘導し思い通りに動かすことも容易い。


(少しでもタイミング悪かったら死ぬけどね……!)


ヒュオッ!!


ネシレイアの体に巻き付いていた無数の蔓がほどけ鞭のように襲い来る。その瞬間俺の詠唱が完了し、それらを吹き飛ばす。


「――『マジックバースト』」


全ての蔓を吹き飛ばしさらにネシレイア本体をも吹き飛ばす。重たいからだが床から浮くほどの威力。

しかしただの『マジックバースト』ではこんな威力は出ない。これには重ねて使用したスキルが関係する。白魔道士レベル37で覚える『ダブルブースト』

これはMPを300消費する代わりに、一度の詠唱で3発分の魔法効果を放つことができるという物。


MP消費が激しく詠唱の時間が増すという弱点がある代わりに、攻撃魔法の破壊力は魔弾を超える威力にまでなる。


(……まあ使って当たらなかったらMP大損するし、リキャストも魔弾より遥かに長いんだけど)


見た感じ今ので本体HP2000は削れたかな。たしかネシレイアの触手が一つHP2000で本体が60000だったか。触手を吹っ飛ばして本体に2000も入ったと考えると、結構いいダメージがはいったな。


そうこうしているうちにネシレイアは体中から黄色の粉を噴射、あたりに散布し始めた。これは吸い込むと麻痺する花粉。

紫、黄、青の花粉を一定時間ごとに切り替え周囲に撒くのがこいつの一番の特徴であり、レベルのわりに難易度が高いと言われる所以だったりする。


俺は周囲を見渡し素早く移動する。実はこの花粉攻撃、逃げ場のないように見えて花粉の当たらない安置が存在する。それは色によって変わるのだが、黄色が色的に一番見づらくわかりにくいため死亡率が高い。

いや、黄色の花粉を吸いこむと麻痺するだけで死ぬわけじゃないんだが、問題はこの種類の花粉を撒いた後の攻撃。


――ドオオオオオンンン!!!!


信じられない程の跳躍。高い位置から降ってくるネシレイアのプレス攻撃だ。麻痺したプレイヤーを狙って繰り出されるこの攻撃、威力は即死級。

今現在、俺のHPが780あるけど、たぶんあのプレスの威力は1000ダメくらいあると思う。あたれば確実に床の味を知ることになる。これが初見殺しその2だ。


再び鞭の攻撃が襲い来る。どんどんと繰り出される様々な攻撃を見切り、わずかだが本体へとダメージを与えていく。


(……こいつは【魔眼】を使わずに倒す。それくらいできなきゃ村を守るなんて不可能だ)


――遠くで呆然と立ち尽くすクロウ。


クロウはこの壁際から動くなと言われた。しかしいざとなれば身を呈してでも救おうと考えていたのだが、それは不要だと最初のリンの動きだけで知ることとなった。

どういうわけか敵の攻撃をあらかじめ知っていたかのような行動。そして一切無駄の無い攻撃。


(……強い強いと思ってはいたが、ははっ。こいつは、紛れもなく……化け物だな)


自分よりも二回り以上も年下の少女。かつて魔王軍迎撃に際して召集されたことのある国の冒険者部隊、その一隊よりも戦闘力のある少女の戦いぶりを見て彼はこう思った。

誰かを救える奴ってのはこういう、圧倒的な鬼神の如き化け物なんだと。



――ネシレイアが大きく身を震わせる。その瞬間、体中の蕾が開花し真っ赤な花を咲かせた。





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