第17話 ソロで
「嫌だぁ!絶対かえらないもん!!」
村のはずれ、木陰に隠れていた少女。俺は彼女を家へと連れ戻してほしいという依頼……つまりお使いクエストをこなしていた。
休日である今日、お使いクエストをたくさんこなして気が付けばもう昼過ぎ。道具やの屋根裏修理、脱走した犬の捕獲、おばあちゃんのお使い、そしてこの家出少女を連れ戻すクエスト。
「でもロカちゃん、体に障るからうち家で安静にしてないと」
「もうずっとお家から出てなかったし、いいでしょ少しくらい!どうせ私の病気治んないし!リンちゃんみたいに外を自由に散歩したいもん!」
ふい、と顔をそむけるロカ。確かに彼女の気持ちはわかる。数年前に不治の病と言われる『魔毒病』と呼ばれる病にかかった。これは魔力による病で、普通の人よりも魔力による毒素をためやすい体質によって発症するらしく、数年で亡くなると言われている。とはいえ不治の病と言われてはいるけど、薬による魔力分解で治療、耐性をつけることができるのだ……が、しかしその薬は『抗魔剤』と『魔力中和薬』というもので、どちらも恐ろしく貴重で高額。王都で手に入れられるらしいけど、金銭面的に難しいだろう。
(彼女の家には父親がいないって話だし、母親だけで稼げる金額ではない……もうどうにもならないんだよな)
「ね、わかってくれるでしょ?リンちゃん」
「わかるけど……でもその病気は外に出てると悪化してしまうんだよ?私はもっともっとロカちゃんと生きていきたい。一緒に居てほしいよ……だから帰ろう」
俺がそういうと彼女の瞳が潤み涙が溢れた。
「ふっ、うあ、わああ……うぇえええん」
逃れられない死の恐怖。毎日その影に怯えいつ来るかもわからない死に、彼女はどれ程のストレスを抱えているのだろう。
どうにかしたいけど、薬を手に入れられる金もない。あったとしても王都へ行くことはできない。いけば村を救えなくなる……。
連れ戻し、家へ送り届けると母親からお礼のポーション(大)を貰った。
俺がお使いクエストをこなす理由にこれがある。道具屋では買えないアイテムの入手、そしてクエスト完了での経験値獲得。無数にある村のお使いクエストでは報酬がおいしくすべてこなした時の経験値は馬鹿にならない。ダンジョンに入れない平日ではこれが最も効率のいいレベリングだ。
(まあ、村のためになにかしたいって気持ちも大きいけど)
「やあ、リン」
次のクエストへ向かう最中、ウルカに声をかけられた。
「ロカの家に行ってたのかい?」
「うん。また家からいなくなってお母さんが探してたから」
「ああ、またか。……しかし僕らも覚悟を決めねばならないね」
「覚悟?」
「数日前、ロカのお母さんが言ってたんだ。病魔の進行速度がはやくてね。医者によればそろそろ限界かもしれないと……ほら、数日前に意識不明にもなってたろう。体中に魔素が回っているんだって」
確かに、そうだ。けどおかしい。前にプレイしていた時はそんな話なかった気がするが……いや、ストーリーに興味がなかったから覚えてないだけかもしれないけど。
「……もってあと二日だそうだよ」
その一言を聞いた時、体がずしりと重くなった気がした。
(そうか。どの道……間に合わない話だったんだ)
無数にあるゲームのシナリオ。その中には悲劇的な結末へと至るものは少なくない。これもこの広い世界にあるその一つなんだろう。
「どうにもできないのかな、僕らには」
ウルカの問いに俺は答えられなかった。ただ、うつむくことしか。
――
【ステータス】《称号》深淵ノ死者
《名前》リン《ジョブ》白魔道士
レベル:51
HP:1200/1200
MP:1630/1630
筋力:189
魔力:828
精神:269
俊敏:668
詠唱:465
《装備:武器》
R12『碧石の法杖』攻撃力(物):208 攻撃力(魔):910
《装備:防具》
R13『闇子の外套』防御力(物):109 防御力(魔):128
《スキル》
★【魔眼】:消費MP――
☆『魔弾』:消費MP30
☆『ダブルバースト』:消費MP×3
☆『ファントム』:消費HP1/3
☆『キュア』:消費MP15
《魔法》
☆『ヒーリング』:消費MP15
☆『ヒーリン・ガ』:消費MP30
☆『エアマジック』:消費MP5
☆『マジックバースト』:消費MP20
☆『エアリアルヒール』:消費MP20
☆『ホワイトガード』:消費MP15
☆『ヒーリングレイ』:消費MP150
――
夜、二つの満月を眺めながらステータスを確認する。いつもの待ち合わせ場所にクロウの姿は無かった。
少しの時間、待ち続けたが彼が姿を現すことは無く。宝ごと消えた彼はもう帰ってこないのだと予感した。
(……まあ、お宝は別にいいか。クロウはそれに見合う働きをしていたし。にしても急に消えたな)
このゲームでは何かしらの要因でNPCが唐突にいなくなることは多い。最初からその覚悟はしていた。だからもしこういう事態になったとしても特別なにも感じないと思っていた。最初からその覚悟はしてたし。
しかし実際心はそうならなかった。現にいま想像以上の喪失感と寂しさに俺は戸惑っていた。今まで現実社会でもゲームでもソロで戦い続けていたから知る機会がなかった事もあるのだろう。いつも遊んでいるフレンドが突然いなくなるってこんな気持ちなのかな……。
「……行こう」
俺はダンジョンへの洞穴を潜る。二人ではなく、ソロで。
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