第10話 抜け穴


ゲームにはイベントバトルというものがある。よくあるパターンとしては後に倒すべきボス敵が現れその強さを主人公に誇示し倒すべき目標として設定する、なんていうものがある。

大抵はその強敵にはHPが設定されておらず、されていてもそれが削り切れず倒せないように設定されている場合が多い。


前に挑んだ時は、取り巻きの魔獣は何体か倒すことができた。ボスも同じく攻撃を当てた時にダメージ表記が出ていたので、HPはある。問題はそれが削り切れるものなのか……。


(そこはもう考えてもしかたがないな)


ゲームの進行としてはこうだ。

1.ダンジョンでのチュートリアルバトル。→2.村での暮らしを通じ基本操作や世界観を学ぶ。→3.魔族が攻め入ってきて村が滅ぶ。→4.主人公は魔王を倒しに冒険へ。


(俺は今2のとこにいる)


この期間に、まずはまともに戦えるようにレベルを上げる事、そして武器を手に入れる事が必須だ。

後6日でその日が来る。それまでに何とか……最低でもレベルだけでも60くらいまでにしておきたい。


俺はファントムグリズリーの亡骸を片付けるために近づき考える。


(ファントムグリズリー……レベル15か)


レベリング……村の外には魔獣はいる。それらを狩ることで経験値は手に入るが、いずれもレベル3~15くらいの低級魔獣。しかも昼間は村で選出された憲兵が門に立っていて出ることができず、狩に行けるのは夜中だけ……そんな短い時間と低い経験値では満足にレベルを上げることはできないだろう。


(ほんとは村のダンジョンに行ければ一番いいんだけど)


ダンジョンの方は門番が一日中張っている。任務以外で入ることは不可能だ。


(任務でダンジョンへ入ることができるのはあと3回)


任務中にまた迷ったふりをして下層に行くか……?いや、ダメだ。そうなればまた皆は俺を探しに来るだろう。あの時みたいに危険な目に合わせたくはない。


(……あれ?これって結構詰んでね?)


【魔眼】があるから最悪、武器は低級のモノでもいいかと思ったけど、レベルを上げられないのはかなりヤバい。

相手の行動パターンを知っていたとしても、大きなレベル差があるとその動きを視認することすら難しくなり、あっという間に殺られるだろう。せめて動きについていけるくらいのステータスは欲しい。当てにくい【死門】を狙うとなればなおさらだ。


――ガサッ


「!」


ファントムグリズリーが現れた木々の奥から聞こえた音。反射的に俺は杖を構えた。


「誰?」


俺が問うと、木々の間からひょっこりと一人の男が顔を出した。


「いやあ、はは。強いねえ嬢ちゃん……魔獣を一発で仕留めるだなんて、流石は特別任務を与えられるだけあるねえ」


その顔には見覚えがあった。村の路地裏でいつも酔いつぶれている浮浪者。話しかけると情報をくれるいわゆるお役立ちNPCだった。

歳は40代くらい……ぼさぼさで伸びっぱなしの白髪。無精ひげと眠そうな目。着ている服はボロボロの黒いコートで片手には酒瓶が握られている。


(なんでこの人がこんなところに……?)


「えっと、まあ。……あの、あなたはなぜここに?」


「いやあ、女の子が一人で夕暮れの丘に歩いていくのを見たからさあ、心配になってねえ。途中で特別任務の君だとはわかったがさすがに一人じゃあ心配になるってものさ」


心配なのに影から見ているだけだったのか?なんか胡散臭いな。着てるものと酒瓶のせいもあるけど。


「そうですか。……それじゃ、私この魔獣を片付けるので」


そういって処理しようとした時、浮浪者は酒を一口飲みこういった。


「なあ、嬢ちゃん。あんた、金ほしくねえか……?」


「金?」


突然何を言い出すかと思えば。いや、金は欲しいけど。ポーションとか買いだめもしときたいし。怪しむ視線を向けていると、彼はヒヒッと笑い話を続ける。


「実はこの村にはよぉ、めちゃくちゃ稼げる場所があるんだよ。ただ、危険な魔獣が多くいてなあ。けどあんたのような腕利きがいればかなり楽に稼げると思うんだよ」


危険な魔獣が?この村でそんな場所あったか?いや、けど……それが本当の話なら願ってもないことだ。程度にもよるがその魔獣を狩ってレベリングができる。


「えっと、その話はホントですか?私もこの村に14年いるけど、そんな場所聞いたことないんですけど……もしかして、騙そうとしてます?」


「いやいやいや、そんなことはしねえよ!まあ、こんななりの奴に急にそんなこといわれても信用できねえか。なら実際にその場所に案内してやる……ついてきな」


彼はニヤリと笑い山奥へ親指をさした。ついて行ってみるか……俺の方が強いだろうし、いざとなれば逃げることはたやすい。危険はそれほどないだろう。


「あ、そうだ……俺の名はクロウデウスってんだ。よろしくな、嬢ちゃん」


「私はリンです」


「ああ、知ってるぜ。あんたら特別任務のリン、ラッシュ、コクエ、ウルカは有名人だからな」


「……そうですか」


ならなんで嬢ちゃんって呼ぶんだ。別にいいけども。


「それとよ、俺に敬語はいらねえぜ。これからパートナーになる、いわば運命共同体なんだ。報酬も金も全て対等にいこうや」


いや、まだパートナーになるとは言ってないんだけど。そんなこんなで草木をわけまるで獣道のような場所を進むと小さな洞穴が見えた。俺の身長くらいの穴で、中から魔力がこぼれ出て立ち昇っていた。


「覗いてみな」


言わるがまま俺は中を覗き見る。


「……え?」


そこはある部屋だった。光る青いクリスタル。積み上がっている白骨化した遺体。見覚えのある光景。


「もしかしてここ……」


「おう、その通りだ。ここは村のダンジョンに通じる洞穴なんだよ」


マジか……!!



――これはボス部屋の天井に空いた僅かな空洞だった。



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