第27話 心配



開口一番にラッシュが言った。


「なんかあいつ変くね?」


あいつ、というのはリンの事だ。それに対しコクエがいう。


「やっぱりそうよね。明らかに元気がないっていうか、最近は死人みたいな顔してるわよね」


「だよな?目にも生気がないっていうか……どうしたんだろ。急に変になったよな」


任務で会った時に感じた違和感。リンの様子がおかしいことに皆気が付いていた。それで急遽ラッシュとコクエと僕で集まり相談することとなった。


「リン、きっとなにかあるんだよ」


「お、ウルカ、もしかしてなにか知っているのか?」


「リンは、なにかと戦ってるんだ。ひとりで」


「戦ってるって……なにとだよ?」


「それはわからないけど」


「ええ……」「なによそれ」


「でも、きっとなにか大切なモノのためにだと思う。だって、じゃなきゃあんな風に命までかけて強くなれないよ」


僕は実はリンの秘密を知っている。彼女が毎晩どこで何をしているのか。それに気が付いたのは最近だけど。きっとずっと前から強くなるためにダンジョンで戦っていたんだと思う。


「もしかして、なんか危ねえことしてるのか?それ、とめなくて大丈夫?」


「リンは止められないと思う。昔から頑固だったでしょ」


「あー……まあ、そうだな。確かに。おとなしそうな顔してかなり頑固だった。で、なにしてるんだよ?リンは」


任務中、ダンジョンの中でリンに言われた言葉をふと思い出す。「また戻ってきた。ウルカのおかげだ。必ずみんなを救って見せるから、心配しないで」「え?」「私がここにいるのは君のおかげだありがとう、ウルカ」あれがどういう意味なのか。ずっと引っかかっている。


リンは心配するなと言っていた。でも、無理だ。人の抱えられるものには限界がある。


(だから、手遅れになる前に詳しい話をリンから聞き出さなければ)


彼女を助けるために、知っていることを二人に打ち明けて協力してもらう。


「リンは……夜にダンジョンで訓練しているんだ」


「「え?」」


「リンの様子が変わった日、覚えてる?」


「ああ、まあ。あの【デビルオーク】と戦った日からだよな?」


「そう。あの日から僕、リンの変化が気になってて。彼女には悪いと思ったんだけど、追跡スキルをつけていたんだよ」


「「え」」


あ、ひかれたる気がする。まあいい些細なことだ。僕は話を続ける。


「それである日を境に夜中、出かけるようになったんだよね。多分そこがダンジョン」


「いやまてまて、ダンジョンって24時間見張り番がいるだろ。入れるわけなくね?」


「もしかして村のダンジョンじゃない違うダンジョンってこと?」


僕は首を振り否定する。


「ううん、村のダンジョンだったよ。別に入れる場所があったんだよ」


「「えええええ!?」」


目を丸くして驚く二人。僕は説明を続ける。


「僕とカムイはその入口の場所を知っている。入りはしなかったけれど」


「ん?じゃあなんでそれがダンジョンの入口だってわかるのよ」


「カムイは鼻が良いからね。そこからダンジョン特有の匂いがしていた。それに覗いてみると見覚えもある場所だったし」


「見覚えがある場所?」


「そこ【デビルオーク】のいた部屋だったんだ。天井に穴が開いてて、そこから入れるようになってた」


「……マジかよ。そこから一人でダンジョンに潜っていたのかよ」


「二日前くらいまでは二人で潜っていたよ。クロウデスって人とね」


「え、それって……この間魔獣に殺されてたって人?って、あ!!そうか、だから」


コクエが気が付いた。そしてラッシュも。


「ダンジョンの魔獣に殺された形跡があったって言ってたよな。……そういうことか」


ラッシュが立ち去ろうとする。


「どこに行くんだい?」


「リンを止める。いつあいつもクロウデスのようになるかわかんねえからな」


ラッシュの気持ちはわかる。けど、リンは言ってもたぶん止まらない。


「……命か」


コクエがそうぽつりと言った。


「そうだよ。リンの命が掛かっている。止めに行くぞ」


「どうしてリンはそこまでして戦うのかしらね。って……あ、そうかそれが大切なモノか。でもその大切なモノってなんだろう」


「それ、今考える話か?止めてからでも聞けばいいだろ、リンから」


「はあ、これだからラッシュは……」


「ため息!?」


「リンの気持ちを考えるのは大切よ。ちゃんと相手の立場になって考えないと無駄に争うことになる。分かり合うために大切なのは、相手を理解すること。昔、おじい様がそう言っていたわ」


「……確かにそうだね。ラッシュ、いったん落ち着こう。その調子だと話し合いにはならない」


ラッシュは足をとめ戻ってきた。むすーっとした表情を浮かべていたがちゃんとわかってくれたのだろう。コクエが頷き話を続ける。


「でも、そうね。たしかに、そうかも。リンが何を大切にしているかはわからないけれど……あたしも、自分の大切なモノのためになら命をかけれるわね」


「コクエの大切なモノ?」


「ふふん、特別に教えてあげましょうか」


「うん」「もったいつけんなよ」


コクエはラッシュに指をさす。


「え、おれ!?」


そして次に僕を。


「!」


「あとはリンね。あんたたちがあたしの大切なモノよ」


微笑むコクエ。ラッシュが照れながらそれにこたえる。


「そ、そんなの俺だってそうだ。俺もお前らのこと、大切だよ」


「……僕も、そうだ。命をかけられる」


「うん、そうね。知ってた」


ラッシュが言う。


「そうか、もしかしたら、そういう事なのかもしれないな。あいつが強さを求めている理由……大切なモノってのは、村の人たちなのかも」


「うん。僕たちの答えはでた。たとえこれが的外れなモノだったとしても、彼女を止める理由にはなるだろうし真実を問う理由にもなる」


「よっしゃ!リンをさがすぜ!!」


「いや、待って。今行ってリンを問いただしたところではぐらかされて終わると思うから」


「え、じゃあどうするんだ?」


「言い逃れのできない場所で聞く。今夜、また集まろう」



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