第10話 貴羽の秘密

彼女たちは、おそらく私と仲良くしたいのではなく、“アオちゃんと居たいが私が邪魔”な人たちだ。

中学校から一緒にいればよくあることだ。確か中学校時代は、私が彼女たちをうまくかわせなかったために、アオちゃんを泣かせてしまった。

高校ではなんとか仲良くしようと試みているが、約一年。未だに関係修復のとっかかりすら掴めないでいる。

「遠海さんさ、どう言うつもりで高嶺さんといるの?」

高圧的な声を出す彼女は、高橋さん、だったか。

どう言うつもり、と言われても。アオちゃんの友達だから。アオちゃんが好きだから。言い出せばキリはないが、どれも違う気がする。とはいえ、私にはその気持ちを言う勇気はない。アオちゃん絡みでなければ。

「一緒にいることに理由が必要ですか」

イラついた伊藤さんが声を張る。

「こう言うことされたくないなら少しくらい見た目とか努力したら?」

と言う彼女も、アオちゃんと比べれば月とスッポン。いやアリと月くらいの差はありそうだ。これは人を傷つける言葉なので、言わない。伊藤さんを傷つけたいわけではない。

「遠海には無理だろ。あんだけ高嶺といるのに運動も見た目もダメじゃん」

勉強は山田くんよりできるので引き合いには出さないようだ。努力はしているのだから、そこを言われれば怒りも湧くもの。アオちゃんにも手伝ってもらっている以上、下手な成績は出せない。アオちゃんとも一緒にいられなくなる。必死も必死だ。

高橋さんと伊藤さんと、鈴木君と山田君。

彼ら四人はいつもアオちゃんに話しかけているメンバー、の横で声をかけるタイミングを伺っている人たちだ。

「アオちゃんに伝えておきます。みなさんがアオちゃんとーー」

彼ら彼女らの気持ちもわからないでもない。折衷案でアオちゃんと話すきっかけを、と思ったのだ。彼ら彼女らの陰で人をいじめるような性格は、アオちゃんはすぐに見抜いてしまうだろう。けれどそれを決めるのは私ではない。彼ら彼女らにチャンスを与える、と言うのはおこがましいができることはしてあげたい。あげたい、もやはりおこがましい。私はそっと手助けができればそれで。

「そう言うことじゃねーだろ!」

しかし、彼ら彼女らの癇に障ったようだ。山田君が私をドン、と突き飛ばす。また私は何かを間違ってしまったらしい。

こう言う人たちは、行動に難があれど根っこの気持ちは変わらない。私と同じだ。

――綺麗な花に近づきたい。

中学の時もそういう人たちが拗らせて私に突っかかってきたのだ。中学の時はどうにもならなかったが、今度こそは。そう思っている。

「遠海がいると高嶺さんが迷惑だって言ってんの!」

伊藤さんが苛立ったように言った。

――アオちゃんはそんなことを言ったことはない。

と言おうとして、ようやく理解した。中学の時に、和解できなかった理由を。

彼ら彼女らは私がアオちゃんといることが嫌なのだろうが、それだけではなく、アオちゃんと話したいがそれができないことの八つ当たりしているのだ。その比率は私の反応で左右され、私の先ほどの発言で、八つ当たりに大きく傾いた。

今度は高橋さんが手を挙げていた。

ここは大人しく殴られて、彼ら彼女らが満足する反応を返せば良いだろう。

「貴羽!」

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