第4話 蒼乃から見た出会い
貴羽と二人で、私が作った新玉ねぎのスープを食べた。貴羽がお風呂を沸かし、私がダイニングを片付ける。私が先にお風呂に入っている間に貴羽が洗い物を終わらせる。ここに入り浸るようになった頃に自然と役割分担がされた。
貴羽の家は、広い。父親はパイロット。母親は外交官。二人がどこで知り合ったとか、どうやって結婚したか。貴羽は知らない。
お金はもらっているらしいが、何も教えられていなかった貴羽は、君江さんに買い物代を渡す以外に使わなかった。
中学生になるまで、貴羽はこの無駄に広い家で一人だった。遊びもろくに知らないで。
「家族が家にいるって、どう言う感じですか?」
初めて家族の愚痴を貴羽にこぼしたとき、ポカンとした顔で言われた。
私が家にいたくないという理由もあるが、貴羽に誰かといるという気持ちを知ってほしかった。それに幼い時の私が貴羽に救われたように。だから私は貴羽とこの家に帰ってくる。
宿題は二人で。主に私が貴羽に教えながら済ませていくのだ。けれど、きっと貴羽に私は必要ない。
少しぼんやりして見える貴羽を見ると感慨深い。初めて貴羽を見た時、私はかなり心配したものだ。貴羽は覚えているだろうか。私と貴羽が初めて出会った時のことを。
私と貴羽が出会ったのは幼稚園の時。私立の小学校に進むための私立の幼稚園だ。
貴羽は特殊な容姿と性格で、周りから遠巻きに見られていた。
園児が一人でルービックキューブをして黙々と遊んでいたら、それは異様な光景だろう。
それ以外にも、間違った言葉遣い、間違った知識、間違った行動を取る子を見つければ、保育士さんも園児も関係なく訂正する。それでは嫌われても仕方がない。けれど私の母親は「なんて賢い子なの!」と初めて私に友達と遊ぶことを許してくれた。
「貴羽ちゃん。私とお友達になってください!」
初めて許された友達。私はドキドキしながら話しかけた。
「ともだち?」
貴羽は友達を知らなかった。私が説明すると、頷いた。
――この子、一人で大丈夫だろうか。
友達を説明すると、貴羽は私の説明通りに振る舞った。
私がいじめられれば、走って庇いにきてくれる。
「少しでも成績が落ちたら、蒼乃とは関わらないで。あなたの面倒だってもう見ないから、そのつもりで」
と言う両親の発言も気にしないで私といてくれる。
明るくて、正義感が強くて。私はすぐに貴羽のいいところを知った。
不安になったものだ。私が“友達”と言ったから、“友達”の説明通りに振る舞っているだけなのでは、と。だから勇気を出して聞いてみた。園児にしては頑張った、と自分でも驚く。
「貴羽ちゃんはどうして私を守ってくれるの?」
友達だから、と言われたら「友達をやめよう」と言って、貴羽から“友達”と言われるように努力をしよう。そう思っていた。
「蒼乃ちゃんが好きだから」
前を歩いていた貴羽がキョトンとした顔で振り返る。あまりにあっさり言われた。あっさりしすぎて、「こいつ何言ってんだ?」と言わんばかりの表情になっていたと思う。貴羽にとっては当たり前のことだったのだろう。そんな反応に驚いたからか、嬉しかったからか。思い出してもあの時の気持ちがなんだったかはわからない。
「そっか!」
私の顔を見た貴羽は、未だかつてなく驚いていた。あの顔は再びお目にかかったことがない。もう一度くらい見てみたい気もするけれど。
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