第5話 ルービックキューブ

けれどこのままでは、貴羽はきっと周りに嫌われてしまう。

貴羽はしっかり者といえば聞こえはいいが、妙に神経質というか、完璧主義のような気質があった。その気質は、いい方向へは向かない気がしていた。いちいち言い間違いを訂正したり、ちょっとした悪戯を注意されたらイラつくのは当たり前だ。貴羽はそのことをイマイチわかっていない。

私は貴羽に気がつかれないように一つずつ説明するようにした。本来は両親の仕事だろうが、貴羽の母親は今は確か……イギリスだったか。父親は一体どこへ飛んでいるのか見当もつかない。

園児の半端な考えの結果。小学校に上がる頃には、性格は逆転。卑屈で自己肯定感の低い子になってしまった。

でも、私の大好きな貴羽の根本は変わらない。貴羽が嫌われる方が嫌だから。嫌われるどころか、私以外に友達ができなかったのだけれど。申し訳なく思いながらも、私に何かあると駆けつけてくれる貴羽が私は好きだ。今は貴羽に自信をつけることを目標にしている。少しでも貴羽が嫌われないように。私の根本も、未だ変わらないのかもしれない。

貴羽は昔から自分の話をしない。だから私が聞かないと答えてくれないのだ。

そんなことを理解し始めた私は、いつも持っているルービックキューブについて聞いた。

「貴羽ちゃんはどうしていつもルービックキューブを持っているの?」

貴羽のそばにはいつもボロボロで、色が剥げ始めたルービックキューブがある。そのことに疑問を持ったのだ。

園児くらいの子供なら、ぬいぐるみとかおままごとセットを持っているのでは、と思っていたのだ。

「おとーさんとおかーさんがくれたおもちゃなの」

私は首を傾げる。お父さんとお母さんが渡すおもちゃが、ルービックキューブとはイカれているとしか思えない。いや、きっと他にももらったおもちゃがあるはずだ。その中のお気に入りが、ルービックキューブなのだろう。

「それがお気に入りなの?」

クレヨンを握りしめて、絵を描きながら今度は貴羽が首を傾げた。

「他におもちゃがないの。蒼乃ちゃんに教わるまで他におもちゃを知らなかったの」

私は、幼いながらに貴羽の言葉を聞いて悲しくなった。

「でもね、このルービックキューブが上手にできると、帰ってきたおとーさんとおかーさんが褒めてくれるの。だから、お家にはこれがあれば良いの」

なんと言えば良いのかわからなくて、それでも声を出した。

「貴羽ちゃん」

「あ、でも、蒼乃ちゃんと遊ぶなら、幼稚園がお休みの日に、君江さんとおもちゃを買ってくるね」

クレヨンを置いて、ニコリと笑った。

その顔を見て、これ以上何かを言うのではなく、これからを見ようと思い直した。

「私も一緒に買いに行く!」

次の土曜日。君江さんと私、貴羽の三人で、おもちゃを見に行った。

私も、知育玩具以外のおもちゃをゆっくり見るのは初めてだった。貴羽は何をどう遊ぶのか、しきりに君江さんに聞いていた。

ショッピングモールの中のおもちゃ屋さん。私と遊ぶ用におままごとセットの同じシリーズを一通り。そして貴羽は自分用にパズルをいくつか買った。

おままごとセットは大荷物になるので、宅配を頼んだ。パズルの入った買い物袋を君江さんが持ち、お昼を食べて帰った。

おままごとセットを不気味そうに見て、遠目に観察する貴羽の話を君江さんから何度か聞いたことを今も覚えている。

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