第6話 いつもの夜
――私はね、貴羽がいてくれたから、一人じゃなかったんだよ。
そう言っても、きっと貴羽は否定するだろう。
――アオちゃんがいてくれるから、私は一人じゃないんですよ。
そう言う。絶対。
誰も私たちを知らない世界で、私と貴羽の二人で、新しい人生を歩みたいと思うのは贅沢な話だろうか。
「アオちゃん、もうすぐお風呂が沸きますよ」
私が貴羽の家に置いている私物の中から、パジャマを持ってパタパタとリビングへやってきた。
「ありがとう貴羽。急いで入っちゃうね」
「いえ。ゆっくり入ってください」
貴羽の敬語も私の影響だ。厳しいことを言う貴羽の印象が少しでも和らぐと思って提案したのだが、今では気弱な印象を強めている。
「敬語、使わなくてもいいよ」
パジャマを受け取りながら言ってみる。いつものやり取りなので、返答はわかっていた。
「この方が楽なので、気にしないでください」
分厚い丸メガネをいじりながら、俯く。少しして、上目遣いで苦笑い。
「じゃあ、お風呂行ってくるね」
手を振って見送る貴羽。私は、私がしてしまったことが悪かったのではないか。そう思うことがよくある。しかし私が貴羽を変えなかった時のことはわからない。もしかしたら私が何もしなくても、貴羽はこうなっていたかもしれない。
そんなことはわからないけれど、少しでも貴羽が良い方へ進むように手助けをしていくしかない。純粋で素直な貴羽を悪いものから守ってあげられるのは、私しかいない。
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