第17話 駆けつけてくれるのは、いつも

睨みつけると、センパイはあからさまにイラついた。頬が引き攣っている。

「お前、睨んでんじゃねえよ!」

今にも張り倒さんばかりだ。大声に耳がキーンとする。

「一発入れたら反省するんじゃない?」

笑い声がするが、目はかなり据わっている。

「せっかくならおキレイな顔を傷つけてやろうよ」

「いーね! 誰からいく?」

一番よく喋るセンパイが手をあげた。

「うちからで良い? この女に彼氏取られたんだよね」

「あんた彼氏いないでしょ〜?」

「いーのいーの。理由なんてなんでも」

暴力の恐怖なんて、私は知らなかった。

振り上げられる手。

ああ、貴羽はこの恐怖にも一人で立ち向かっていたんだ。こういうことが昨日の一回だけではないのは一目瞭然だ。

なのに、この恐怖も知らないで、私、貴羽に酷いことを言ってしまった。

ぶん、と音が鳴る。

恐怖も高まった。

都合が良すぎる、それでも一番に私が助けを求めるのはーー。

――貴羽!

パン!

乾いた音が鳴るけれど、私の頬に痛みはない。代わりに私の身体に影がさす。私よりも低い身長だ。

「アオちゃんに手を出さないでいただけますか、先輩」

いつもの高めの声とは違う。低い声で唸るような貴羽の声だ。私を庇うときにいつも出す、安心する声。

「ホントに来るんだ。高嶺の番犬」

「今日は一緒じゃないって聞いたんだけどな」

笑うセンパイはそれでも余裕そうだ。

「アオちゃん、行きましょう。朝礼に間に合わないかもしれません」

私に見せるいつもの穏やかな声。柔らかい笑顔だ。

「なに逃げようとしてるの? これからじゃん」

退路は阻まれる。

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