第30話 優しいメイドさん

メリーと穏やかに、そして静かに話をしていると、マリーが奥から出てきた。

測ったかのように、ミルクティーが空になったタイミングだった。

「キハネ様! 入浴の準備が整いました。恐れ多いのですが、ネグリジェと明日お召しになられるドレスの準備のため、サイズを測ってからの入浴になるのですが、よろしいでしょうか?」

確かに、初めてきた世界で自分ピッタリの服があるわけもない。

それに、アオちゃんと私は高校の制服でここにやってきた。街を眺めた時もそうだが、こんなに短いスカートを履いている女性は一人もいなかった。

「靴のサイズも細かく計らせていただきます。あ、そちらのお召し物はしっかりこちらで管理させていただくのでご心配には及びません!」

「あ、えと、はい。よろしくお願いします」

服を脱がされ、身体中隅々までサイズを測られる。下着の文化も同じで助かった。トイレもしっかり洋式だったのはありがたい。

なんとかサイズ測定が終わり、ゆっくり浸かろうとバスルームへ促された。

「メガネ、お取りしますね」

マリーがメガネに手をかけた。

「だめ! あ……」

私が過剰反応したのは一目瞭然で。マリーはしまった、と戸惑いや緊張の表情だ。メリーは穏やかにマリーと私をたしなめる。

「メガネはそのままの方がよろしいでしょうか?」

私はなんとか言葉を発した。

「私、そのメガネを外したら歩けない、ので。入浴は自分でします。ま、前の世界は、自分の身体は、自分で洗う文化でし、て……」

マリーとメリーは目を合わせて、何やらアイコンタクトをとると、先ほどの私の対応は嘘だったかのように穏やかに話を合わせてくれた。

「では、入浴前と入浴後のお着替えのみ、お手伝いさせていただきます。こちらの世界は、貴族様のお着替えはご自身では難しいものですので」

マリーが話し。

「また、慣れないことがございましたら、何なりとお申し付けください」

メリーが微笑む。

私は信じられないものを見る目で見てしまい、メガネと前髪で見えないとはわかっていても視線を逸らした。

「では失礼致します」

「失礼致します」

二人がバスルームから出て行こうとするのを、思わず呼び止めた。

「あの!」

自分でも自分の行動が信じられず、何が言いたいのか考える。

二人が、私に優しいのはアオちゃんが聖女で、聖女が私を聖女と対等に扱えと言ったからだろう。でも、それ以上の優しさや気遣いを感じてしまうのは、なぜだろうか。

「わ、私は聖女ではないようですし、お二人がここまで気を使っていただけるような人間ではありません。な、なので、その。私の、行動に不満があったら、その全然、おっしゃっていただいて構いません。というか。その。私はすでに、おふた、りに失礼な態度を、とってしまっているので」

私は裸で何を言っているのだろうか。

マリーとメリーに視線が合わせられなくて俯くが、それでもやはり二人の反応が気になってチラリと前髪の隙間から覗いてみる。

マリーとメリーは笑っていた、楽しそうに。どういうことかわからず動揺が隠せない。

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