第29話 紅茶とメリー

「キハネ様、そちらにいらしたのですね。紅茶のお好みを伺い忘れていましたので、いくつかご用意させていただきました」

メリーがテーブルにティーカップを置いていた。私はコーヒーより紅茶派なのだが、前の世界の紅茶と同じものはあるだろうか。

「今は春ですので、ファーストフラッシュのダージリンがおすすめです。ミルクティーがお好みでしたら同じくファーストフラッシュのアッサムもご用意しております。さっぱりしたものを好まれるのでしたら二月に採れたニルギリもございます」

私があまりにカルチャーショックが少ないので驚いていると、メリーは困惑し始めた。

「もしかして、キハネ様のいらした世界では紅茶はないのでしょうか? でしたらコーヒーも……。いえ、どのようなお飲み物の準備もして見せます!」

私は慌てて誤解を解こうと試みるが、なんせアオちゃん以外、特に自分のこととなるとうまく話せない。

「いえ! その紅茶は好きです。ですが、その、私のいた世界と、あの、だから、同じものがあったので、嬉しくて……」

メリーは困った顔で聞いてくれる。伝えたいことはあるのに、言葉にならない。混乱する頭を必死に巡らせて言いたいことが要約できた。

「ミルクティー、好きでしゅ!」

噛んだ。困らせていることがわかっていた。だからできるだけわかりやすく誤解がときたかったのだが、盛大に噛んだ。

恥ずかしくて俯く。メリーは優しく話しかけてくれた。

「お砂糖、好きですか?」

ゆっくり優しく話しかけてくれるメリーに、混乱とか羞恥心とかが落ち着いた。

――大丈夫、メリーさんはちゃんと私の話をきてくれる。

そう思うと、私は先ほどより幾分か穏やかな心で言えた。

「甘いもの、好きです」

「では少し多めにお砂糖を入れますね。私、ココアを入れるのも得意なのです。機会がございましたらぜひご用意させてください」

メリーの入れてくれたミルクティーは、香りの良い落ち着く味だった。


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