第28話 部屋の探索

どこからか声がして夜景へ視線を向ける。どこにも声の正体と思えるものはない。そもそもここは階段をかなり上がった位置。人がいるとしたら横の部屋。もしくはバルコニーのどこか。しかし先ほど見たが、ここの横の部屋はおよそ声の届く距離ではない。大声を出したら別だが、先ほどの声は囁く程度。バルコニーは広いとはいえ、誰かいれば気がつく。だが、不思議とその声に恐怖心はない。気にすることをやめて部屋へ戻った。

私は寝室のベッドを確認しなければならないのだ。

寝室は落ち着いた藍色の壁紙。想像を裏切らないキャノピーベッド、いわゆる天蓋付きベッドだ。

四隅に柱が立っていて、カーテンが付いているタイプではなく、天井から吊り下げられていて、頭の部分を丸く覆う形だ。カーテンの中にはライトもついていて、ここでの読書も捗りそうだ。読書の趣味はないけれど。

主寝室の横に二つ、扉を見つけた。開けてみると、一つはかなり広いドレッシングル―ムだ。先ほど見たドレッサーは飾りというか、部屋の主人の趣味用で、パーティーなどがある時はここで着替えるようだ。ここにドレスがないあたり、どこかに衣装室があるのだろう。

さらに横は書斎となっていた。本棚はかなりの蔵書数を誇る。日当たりや机の位置も考えてあり使いやすそうだ。文字は前の世界と同じ日本語のようだ。

机に時計とカレンダーのようなものを見つけたので見てみる。

時間は、二十二時を指している。カレンダーは日めくりと月間が置いてある。今日は前の世界と同じ、四月三日になっている。しっかり曜日まで書いてあった。時間感覚が前の世界と同じで安心した。

扉へ向かいがてら本棚のタイトルをなぞっていくと、どれも娯楽小説だ。ロマンスものが多そうだ。

時々、見たことのない文字も見える。初めての世界だ。見たことのない言語や文化は少々怖いが、学んでみるのも楽しそうだ。本棚を眺め回したので書斎を出た。

そろそろ探検も落ち着いたので主寝室を出る。

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