第13話 しょっぱい卵焼き

朝、アオちゃんはリビングにいなかった。いつものように、アオちゃんの作ったお弁当がダイニングテーブルに置いてある。朝ごはんも一緒だ。

私が「アオちゃんの卵焼き好きだなあ」と。そう呟いた日から、毎日違う味付けで作ってくれる卵焼き。金曜日はいつも、私が一番好きだと言った甘い卵焼きのはずだ。

手を合わせて、アオちゃんに「いただきます」と呟く。今日は金曜日のはずなのに、卵焼きはしょっぱく感じた。

一人でいつもの道を歩く。高校生になってからは初めての一人登校だった。

中学生の頃に喧嘩をした時は、その日のうちに話し合って和解した。アオちゃんが「約束ね」と和解案を出したのだ。

私にはどうしたらいいかなんてわからない。本当に、私はアオちゃんがいないと何もできない。

私はアオちゃんを見る周りの目が私のせいで変わらないように分厚い伊達メガネをかけた。アオちゃんとの約束を破らないように前髪を伸ばして顔を隠した。

この中に私の意思はあっただろうか。アオちゃんはそれを望んでいたのだろうか。どれもアオちゃんに聞かなければわからない。私はアオちゃんとは違うから、言ってくれないとわからない。

――いや違う。

アオちゃんだって、私が考えていることを言わないとわからない。だから今もこうしてすれ違っているのだ。

――私はただでさえアオちゃんといると迷惑をかけてしまうから、せめてアオちゃんの邪魔にならないようにしたくて黙っていた。アオちゃんにはこんな醜い姿を見せたくなかった。これはアオちゃんのせいじゃない。私が悪かった。ごめんなさい。

そう言えば、きっとアオちゃんは許してくれる。

そう思った頃、教室にたどり着いた。

「遠海さん、蒼乃のいる場所、知らない?」

彼女は昨日、アオちゃんと屋上に来たクラスメイトの高野さんだ。教室の扉を閉めながら答えた。私もちょうど気になっていることがあった。

「アオちゃん、今日は私よりも先に家を出たようです。そういえば昨日、アオちゃんを屋上へ連れてきたのは高野さんですか?」

キョロキョロと廊下に視線を向けて、高野さんは答える。こんな私にも普通に接してくれるとは、さすがにアオちゃんの友達の質は高い。

「最近、遠海さんが高橋さんたちに呼び出されているのを見ていたから。高橋さんたち、あまりいい噂を聞かないからもしかして、と思って。それより、蒼乃のスクールバックはあるのに姿が見えないの。もしかしたら最近、過激なファンがいる先輩によく声をかけられているから、もしかして、悪いことに巻き込まれたんじゃ……」

そこまで聞いて私も最近の様子を思い出した。

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