第12話 二人の喧嘩

四人は教師に連れられて行った。うちの親は私に興味はないから学校側の処分で済むだろう。唯一、この学校は非常にクリーンで、金を積もうがしっかり罰せられることが可哀想なところだ。

私は特に彼ら彼女らに何かを求める気はない。しっかり学校側が罰することがわかっているし、受け流せなかった私にも一因はある。

が、アオちゃんはそうではない。

「貴羽。前にも言ったよね」

教師に呼び出され、今日は流石のアオちゃんも先に帰っただろうと思っていたが、教室でしっかり待っていた。

無言で帰り道を歩く。夕ご飯の買い出しも私が後ろをついて歩き、アオちゃんが黙って食材を選んでカゴに入れていく。

いつもは私に食べたいものを聞いてくれるのに。相当、怒らせてしまった。

夕ご飯を食べ始めた時に、ようやくアオちゃんは声を発した。

「貴羽。前にも言ったよね。約束、覚えてる?」

私は頷く。こういうアオちゃんには逆らえない。アオちゃんを傷つけた私に、ついに呆れて友達をやめるのかもしれない。いや、アオちゃんは優しいから、きっと私を見捨てることはない。でも怖いものは怖いし、浮かんでしまった“もしも”はわかっていても不安にさせる。

「何かあったらアオちゃんを頼れ」

呟いた私に、アオちゃんの表情がみるみる変わる。アオちゃんは私が殴られた時より悲しげな顔になった。

「覚えてたのに! どうして私を頼ってくれないの! どうせこの一回だけでもないんでしょ!?」

悔しそうに顔を歪めて、ポロポロと涙を流した。その顔すら美しく、儚さと切なさと、今にも壊れてしまいそうな雰囲気が、私の罪悪感を煽る。

「いつも私が助けられてばかりで、私が助けないといけない状況なんて起きない方がいい。でも! せめて私が原因の時くらい、頼ってよ……」

「アオちゃんのせいじゃ」

ようやく出た私の本音は、アオちゃんには豆鉄砲程度の効果しかない。

「じゃあ誰のせいだっていうの!」

いや、むしろ怒らせてしまった。

「わ、私の、せいで」

「そんなはずない! もしそうでも、頼って欲しかった……」

私はこれ以上何も言えなくなった。私はアオちゃんを悲しませたくなかった。アオちゃんを困らせたくなかった。それだけだった。けれどアオちゃんが言っているのはそういうことではない。

中学生の時も、こんな話になった。あの時はーー。

「何かあったら私を頼ってね」

そう約束をして仲直りをしたのだった。約束を破ってしまった以上、同じ解決の仕方はできない。きっと何度約束をしても私はアオちゃんを頼らなかっただろう。アオちゃんは知らなくてもいい。こんな底辺の人間の醜い争いなんて。

「アオちゃんのせいじゃないです。アオちゃんにこれ以上迷惑はかけられません」

アオちゃんは口を開いて、何も言わないで閉じた。

「ご馳走様」

そのまま椅子を立って食器をシンクに置いた。

私も急いで食べて片付ける。

「アオちゃん、お風呂」

声をかけても無視してお風呂場へ行ってしまう。

私はアオちゃんにこんな顔をしてほしいわけではなかった。アオちゃんに笑っていて欲しかっただけだった。何を間違えたのか。私にはわからない。

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