第26話 本物の使用人

「ファーレン様は人を楽しませることがお上手ですね。私、お話をしていて、こんなに楽しくて気楽に話せる方はアオちゃんとファーレン様しか知りません」

長い前髪の隙間から、ファーレン様を見上げる。ファーレン様は私を見下ろして、しばらくキョトン顔。数秒遅れて、驚きの声が聞こえた。

「ええ!?」

その声に私も驚いてしまう。

「オレ、誰かにそんなことを言われたの始めてだよ。え、なんでそう思うの?」

照れているのか、本当に驚いていたのか。よくわからないが、少し焦っているように見える。私は、また何か間違えてしまったのだろうか。弁明しなくては。

「いや、その。勘違いかもしれませんが、私が楽しめているのか、すごく観察してくださっているように感じて。話題も、私が困ったり詰まったりしたらすぐに別のお話をしてくださいますし……。私はすごく楽しくお話しできたので、その。すみません」

私が感じたことを話していたら、次第に自信がなくなってきた。私にそんなことを言われても嬉しくないだろう。自意識過剰だったかもしれない。思わず謝罪の言葉を口にしていた。

「なんでキハネが謝るの? オレ、そんなこと言われたの初めてで驚いただけだよ。オレさあ、人懐っこいとか、自然体で話してるとかはよく言われるんだ。実際、オレも楽しんで話してるだけなんだけど、そんなふうに受け取ってくれた人はキハネだけだよ。嬉しかった。ありがとう」

やっぱりファーレン様はすごい。今の言葉も、事実だということがわかる。けれど、端々に私が受け取りやすいような言い回しをしてくれている。

例えば、どこのどんな言葉が嬉しかった、とか。例えば、先ほどの驚いた反応に私が焦ったことをフォローするように反応の理由を付け足したり。

でもファーレン様はそういう気配りを知られることはあまり嬉しくないようだ。

「やっぱり、ファーレン様はすごいです」

それだけ言って、この話題を終わらせた。


お城に入ると、アオちゃんとフェリックス殿下が待っていた。焦って私はすぐに謝罪を口にした。

「遅くなってすみません」

「すみません、フェリックス殿下。オレ、キハネと話してるのが楽しくて遅くなりました」

庇うようにファーレン様が言った。またフォローしてくれた。

「今日はお二人のお部屋の準備が間に合わず、貴賓室を二部屋ご用意させていただきましたので、そちらへご案内いたします」

入ってすぐ、両脇に本物のメイドさんとフットマンが何人も並んでいた。

謝罪の言葉で頭を下げた時に、気がついたのだ。

「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。私、ハウススチュワートのセバスでございます」

先ほど、アオちゃんと私の部屋の説明をした、男性だ。雰囲気はベテランだが、思いの外若い。三十代前半と言われても納得の容姿だ。髭もなく整えられた髪もしっかりオールバックでまとめて、清潔感が漂っている。

「ハウスキーパーのメリダでございます。お二人にはそれぞれ二人のレディースメイドをおそばにおきますので、何かございましたら二人にお申し付けください。本日はご夕食と入浴の予定のみとなりますので、ごゆっくりお過ごしください。明日にはまたレディースメイドから予定をお伝えいたします」

そう言われ、四人が進み出てきた。

「アオノ様付きのレディースメイドのアリーと申します」

「同じく、サリーと申します。お部屋へご案内いたします」

「キハネ様付きのマリーと申します」

「同じく、メリーと申します。どうぞこちらへ」

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