第15話 呼び出し

「高嶺蒼乃、いる?」


いつも予想外の時間に起きてくる貴羽。今日だけはどうしても会いたくなかった。だから明け方も明け方に学校へ向かった。

いつもそうだ。

貴羽は私を大事にしてくれる。いつも何か考えがあって。その考えはいつも私を守るためのものだ。

でも、それでも。今回だけは貴羽と会わないで心の整理をつけたかった。

私のため、そう貴羽は言うが、それは私も同じだ。私だって貴羽を大事に思っている。私だって貴羽を守りたい。

貴羽は、私を守られているだけのお姫様とでも思っているのか。

私は知っている。このクラスにも私を嫌う人がいることを。悪意に気が付かないように、巻き込まれないようにと貴羽が悪意から遠ざけていることを。

昨日、貴羽を殴った言い訳で彼ら彼女らが言っていた陰口は、私を嫌う人たちが流したものだ。貴羽はその噂を私の耳に入らないようにしている。

その事実すら、私には知らせないで。知ったのは本当に最近だ。貴羽が委員会で放課後にいなかった時。高野さんたちも用事があった。

貴羽を待つ間にふらりと立ち寄った図書館で、私を嫌うクラスメイトが陰口を言っているところを見つけたのだ。

「高嶺さんってさあ、絶対に教師に媚び売って評価もらってるよね」

「いつもだったらあの地味女がぐちぐち言いにくるけど、あの地味女は高嶺のどこがいいんだろ? どうせなら私の番犬になってくれれば良いのに」

「それ絶対パシったりするだけじゃん! ウケる」

私の陰口に何かを言ってくれる地味な子なんて、貴羽しかいない。

「私の陰口は構わないけど、貴羽の悪口は許せないなあ」

本人の前では言えない弱い人間。私は自分勝手だ。自分の悪口は傷つかない。今更だ。でも、貴羽の陰口より、貴羽にまた、影で助けられていたこと。守られていたこと。何も言ってくれなかったことに傷ついた。悲しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る