第8話 貴羽から見た出会い

――貴羽ちゃん。私とお友達になってください!

両親に笑ってもらえるように。少しでも気が引けるように。一人で頑張っていた私に、初めてできた謎の“トモダチ”。

――友達はね、お互いを守って、遊んで、一緒にいるものなんだよ。

家族以外の関係があるのだ、と初めて知った。

私がしっかりしていると、帰ってきた両親が褒めてくれる。だから、ルールを守って、家をきれいにして、自分のことは自分で。そう思っていた。

「貴羽、今日もテストはいい成績だね。お利口さん」

穏やかに微笑む父は、そう言って頭を撫でてくれる。

「今日も家事をしてくれたの? 家政婦の君江さんに任せればいいのに。頑張ったんだね。ありがとう」

そう言って母も頭を撫でる。家事の時間を少しだけ私との会話の時間にしてくれる。

頭を撫でて欲しくて頑張り出したのは、果たして何歳からだったか。

家族のために。家族に褒められるために。

それが私の行動原理であり、存在意義だった。

アオちゃんの言った“トモダチ”がどれだけの衝撃だったか。きっとアオちゃんには想像もできないだろう。

その言葉から、私の人生が変わった。

家政婦さんが幼稚園に送ってくれた時から、家政婦さんが迎えにくるまで。昼間の私の行動の目的が変わった。

――お互いを守って。

そう言われたから、アオちゃんをいじめる子から守った。

――遊んで。

遊ぶ、の意味はわからなかった。けれどアオちゃんは人形を持って話しかけてくれた。

「ルービックキューブはダメなの?」

「誰かと遊ぶなら、みんなでできることをやらないと」

そう言われてから、私は周りを見回した。みんな、ルービックキューブはやっていない。

――そうか。他の遊びもあるんだ。

私が初めて両親から貰ったおもちゃはこのルービックキューブだ。それ以外にも遊ぶものがあるとは思わなかった。

追いかけっこ、かくれんぼ、おままごと、お絵描き。

見るもの触るもの全てが新鮮だった。

――一緒にいるものなんだよ。

本当に私とアオちゃんは一緒だった。次第に私は“友達”の意味を理解したのかもしれない。

友達の反応を見て、周りの反応を観察して。変わっていた私は、そこから“普通”を理解していったのだろう。未だにアオちゃんに変わっていると言われるけれど。

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