新隊員募集中!
「おや、偶然ですね大連さん。突然ではありますが新しい隊員を募集してみてはどうでしょうか?」
始まりは、研究室から出て来た隊長に向けて投げかけられた言葉であった。
所長を引きずり出すのが難航しているのか、中々出てこない隊長を外で待っている事約三十分、非常に疲れた顔をしている隊長達と不満そうな所長が研究室から出て来た。
それを見計らったかのようなタイミングで現れ言葉を放ったのが、先ほど依頼をしたはずの前田さんであった。
「新しい隊員…?僕は現状に特に不満を持っていないし、足りていない役割も無いと思うけど。どうしてそんな事を聞こうと思ったんだい?」
「おい前田、お前最近ずっと滅茶苦茶忙しいっつってる割にはこんな時に顔を出す暇があるのか?だから効率が上がんねぇんだって言ってるだろ」
「俺が忙しいのは誰のせいだか考えて欲しいがな」
新隊員。僕と紅里に適用される言葉であるが、人員を増やさずにずっと続けられて来た第四大隊に、もっと人を増やすような必要性は、確かに感じられない。
それを長い付き合いであろう前田さんは僕たちより遥かに分かっているハズ。なら、何故?
「まぁ、理由を突き詰めてしまうと色々あるのですが、主な理由としては武器のメンテが出来るメンバーが大隊にいた方が良いんじゃないか。という事ですかね」
「…おい、それは、俺らの働きが不十分だって言いたいのか?」
所長が少し剣呑な目で前田さんの事を睨みつける。自分の働きに強い自負を持っていたが故にそう思ったのだろうが、そんな事は前田さんにとってはただの些事、そよ風程度にしか感じなかったようだ。
「所長が実益に繋がる事は殆どないでしょうがね…。話を戻しますが、大連さん達の武器を完璧な形で修繕できるのは俺達だけですけど、連続で依頼が舞い込んでしまい、ここへ来れなくなってしまった場合。ここに大口の依頼が来て動けなくなってしまった場合。そんな時に大連さん達の武器に応急処置的なメンテを施せる者が必要だと思ったので、ね」
「でも、そっちは今大変なんだろう?こっちに割ける人なんているのか?」
今ドリアから人がこれ以上抜けると、所長は別に痛くもかゆくもないだろうが、前田さんが死んでしまうのではないだろうか?恐らく血反吐を吐いて倒れるだろう。
紅里なんか、もう近場の病院を検索し始めている。
「いやいや、そりゃあもう大切な顧客様である‘
「「「あ、逃げた」」」
「前田。逃げるな、所長命令だぞ」
「激務から逃げ出して、何が悪いんだよォおおおおお!」
合掌。所長も僕たちも、前田さんがいないとドリアは回らない事はちゃんと理解できている。ここで前田さんを失ったら、ドリアは緩やかに破滅の道を歩むだろう。
一瞬で所長が崩壊させるかもしれないが。
「この馬鹿弟子は兎も角、先ほどの話についてどう思われましたか?私としては、不覚ながら馬鹿弟子のいう事も一理あるとは感じましたが」
「うん。僕の武器はちょっとやそっとじゃ壊れないし、はやちゃん達の武器は言う程使ってないから需要はなかったけどね。最近回されてくる依頼が段々と凶悪化してきて、武器がちょっと危ない場面があったりしてきたんだ」
「つまり、欲しいと?」
「そっちが無理をしない範囲で。条件は皆がいない所で後で話そう」
僕たちにも後輩が出来る日が来たようだ。コイツはどう思っているのかと紅里を見ると、逃げられない事を悟り項垂れている前田さんに、このあたりのおすすめの病院を紹介していた。
姉さんも一緒になって紹介しないで!あ、前田さんの目から一筋の雫が…。
その水滴はその先の激務に晒された生活を映し、悲しみが凝縮されているようであった。
「じゃあみんなは、翔君について食堂で待っていてくれ。その間に、僕は所長と話を詰めてくる。頼めるかい?」
「…あ、い。おれ、は、大丈夫です」
「じゃ、任せたよ。所長、研究室で話そうか。今開発中のアレと、条件について」
「分かりました」
全然大丈夫じゃなさそう、と言うか今にも血を吐きそうな顔をしている前田さんに良く任せる気に慣れたなと思いつつ、僕は研究室へと再び入っていく隊長達の背を見ていた。
「おいお前達。俺の気が変わらない内に来い、じゃないとお前らを置いて仕事に向かいたくなっちまう」
「ほー、殺したくなるんじゃないんだー」
「クソガキ、お前だけは例外だがな」
「えマジっすか。いやー、私みたいな女の子を持て囃しても得しませんよ?」
そんなポジティブな受け取り方をする奴が居るか!と顔に書いてある前田さんは、すぐに真顔に戻り、無言で食堂まで歩いて行った。
~~~~
「まずは募集の条件から話させてもらうけど、大丈夫かい?」
「全然大丈夫ですよ。あの子達がこの扉の前から去るまでは、どうせあの話は出来ないのですから」
そう言って笑う大学時代の後輩を、僕――大連雄太郎――は眺めていた。今は、茶番なのだから、昔を思い出すような雑談もしよう。
「第一条件として、
「そのぐらいなら、おすすめ出来る候補は30人ぐらいいますかね」
良かった。丹沢がよりにもよって僕に嘘をつくような事がないから、安心していられる。
30人も候補がいれば十分だろう。
「第二条件として、女の子である事」
「…?隊長は、男女差別にはどちらかと言えば反対でしたよね?まさか、邪な目的があるならウチの社員は渡せませんよ?」
「僕はロリコンなんかじゃないからな?」
イケオジを目指す僕として非常に不名誉な称号が付けられてしまう前に、称号の回収そして否定作業を行った。…久しぶりだな、こいつとこんな風に話すの。
「うちの杏子がさ、紅里が入って来る前と比べて格段と活き活きしてるんだよ。例え長年同じ屋根の下で暮らした信頼できる家族で会ったとしても、同性としか理解し得ない事や、楽しめない事があるって気づかされた気がしてさ。僕は彼女に対して、碌な友達も作れなかったっていう負い目があるから、せめて、今からでも遅くないんだとしたら」
「同性の友達を作らせてあげたい、ですか」
親とは称しているものの、大した事も出来ておらず、むしろ彼女に気を遣わせてしまっている始末だ。
そんな僕が心から願った事に対して、ああ、僕ってこんな顔をしているんだ。と真っ直ぐに僕の目を見てくる丹沢を見て理解した。
丹沢も、僕に負けず劣らずイケオジ化してるな。
ん?イケオジだとかそういう類の人間は、自分でそうだと言わない?ごめん、よく聞こえなかったな。僕は難聴なんだ。
「友達、と言えるぐらいの、要するに紅里ちゃんと同年代の子は、残念ながらウチからは出せません。大学受験の為に猛勉強している子達が殆どですから」
「そうか…。それは仕方が無い、な」
「そうだぁーけれども、紅里ちゃんと同じぐらいの年齢で、優秀且つ大隊に入れられそうな娘に覚えがない訳ではないのですが。如何ですか?」
僕は即答した。
「その娘で頼む」
そして僕はこの話題はお終い、とばかりに丹沢に背を向けて言った。
「ありがとう、丹沢。ところで、
「今の所は、副作用が強すぎて使い物になりませんね」
副作用が強すぎて。それはつまり、副作用を度外視してしまえば使えると言う事だろう。
「奴らはアレをお前が作っているという事を嗅ぎつけて、ここに襲撃に来たのか?」
「分かりません。ですが、以前ここに
何故防犯対策を厳重化しなかった、とは言わない。言えない。この研究所は、実は人間一人なんか簡単に消滅させる事が出来るトラップ塗れで、古参の職員全員が普通の警備員より断然強かったからである。
これ以上防犯設備を増やすのは、アレの開発費用があって無理だろうし。
「隠し通す事は出来たようだな」
「当然ですよ。作る度にアレは焼却してますし、製法も効力も僕の頭の中にしか――正確には僕の頭の中のチップにしか無いんですから。僕に接触しない限りはまず不可能です」
自信過剰なようにも見えるが、丹沢は以前襲撃を受けた際にも、完璧に情報を守り切って見せた。だから、僕もその自信の過剰さを信頼できる。
「それは良かった。で、その効果はどの程度の物なんだ?
~~~~
食堂にて、僕らが思い思いにだらけていると、所長を連れた隊長が現れた。
「マスター、所長がいます!」
「うん。いるでしょ。所長はお化けじゃないんだから、何にもおかしくないだろ?」
「殺してきて良いですか?」
「お前さっき病院検索してただろ?行ってこい。安心しろ、金は俺が払わないから」
行ってきま、って、ツッコミどころ多すぎますよー!と叫ぶ紅里。まず自分の発言を顧みてから言って欲しい。自己紹介かと思うじゃないか。
「なんでマスターはそう酷い事ばかり言うんですか?まるで私が精神異常者みたいじゃないですか。あ、自虐ですか?」
「だから僕は自分で自分を痛めつけて悦に浸るマゾじゃないって言ってるだろ!で、何で殺意なんて持つんだよ」
「え、そんなの私の大事な大事な紅剣を爆弾でぶっ飛ばしてくれやがったからに決まってるじゃないですか。頭蓋骨に何詰まってるんですか、マスターは」
まぁ、先ほどは前田の野郎が哀れ過ぎたので忘れていましたが。との事だ。
前田さんが哀れ過ぎたからって忘れるような殺気で所長を殺すな、とはどうしても言えはしなかった。哀愁だけで領域展開出来そうだったし。
「ま、マスターの顔に免じてこの場では許してあげるとしますか。二度目は無いですよ」
「自分から来てその言い草はないだろ…」
頭蓋骨に何詰まってるのかと聞きたいのはこっちだ。
「紅里ちゃん、あんまり優斗を困らせちゃ駄目だぞ?優斗は今思春期真っ只中なんだから、可愛い女の子に弱いんだ」
「紅里ぃ、所長殺して良いぞ。むしろぶっ殺せ」
俄然殺意が沸いてきた。この所長、思春期男児は全員
間違いではないが。
「いやいや、可愛い女の子だなんて。照れますね~」
「都合よく切り取りやがって…!」
「ほら丹沢、僕の隊員をいじめないでやってくれ。楽しいのは分かるから」
救いの手を差し伸べてくれた隊長だった。だが、楽しいのは分かってしまうのか、隊長。
「おーいみんな。さっき前田君の話を聞いただろうけど、やっぱ必要かなってなったから、新しい隊員をここから取ることに決めたよ」
「女の子ですか?ですよね?と言うか他の解答を認める気は無いですが」
「そだよ」
私の時代キタァアアアアアアアアアア!と絶叫している姉さんは置いておく。
「え、唯でさえ人が少ないのに、こっちに人を割けるんですか?前田さんは単純に自分が逃げたいから言っただけで、そこら辺の事はよく考えてないと思ってたんですけど」
「…まぁ、ここで一番優秀な子が手を上げてくれたからね。人が少なくなるのは…言い出しっぺのアイツが悪い。俺は何も知らん」
元から何も知らんでしょうというツッコミはさておき、一番優秀なと言うのはどれ程の腕前何だろうか?少し見てみたい気持ちが出て来た。
「しょちょー、その、‘‘一番優秀な子‘‘ってのは、具体的にはどれくらいの実力なんですか?」
「(ブルッ)…そ、それはね。武器の事は勿論、怪我の処置から実戦での戦い方も知っているよ。なんせ、優斗君達は前田に連れられて
何故か一瞬所長が震えたが、話だけ聞いてると無茶苦茶優秀な完璧超人に見えるのだが。そもそもよくこんな能力を持っておきながらスカウトされなかったなという次元に思える。
僕に比べると、これぞ異次元って感じがするな。
「で、彼女の年齢は?!身長は?!体重は?!性格は?!バストサイズはァ?!」
「姉ちゃん、いくら何でも最後の質問は所長に求めるには酷過ぎると思うよ」
姉さんべったり自他公認シスコンである颯斗も苦言を呈する怒涛の質問マシンガン。しかも偶に強力すぎる弾が飛んでくる。
答えられたら、ロから始まる尊称と刑務所が所長にギフトで付いてくるだろう。
「えーっと、年齢は優斗君と同じ13歳「イイね!」…身長は大体紅里ちゃんと同じくらい「ふんふん」体重は知らん「チッ」…性格は、うん、何というか、アレだ。優しいと定義しましょう「どんな性格をしていても私は受け入れる」なら聞かんでくれへん?ま、そんな感じかな」
流石、貫禄のあるスルースキルだ。何だか姉さんが暴れて自らの胸をさらけ出そうとしているが、颯斗と紅里で止めてくれ。
下手に介入すると颯斗に殺されちまう。眼が光ってるもん。
「残念ながら、肝心の彼女は今ドリアに居ません。恐らく明日ほどには帰って来ると思うのですが、今日は勿論泊まっていきますよね?」
「護衛も兼ねているしね。ところで丹沢、さっき言っていた機械人形とやらは何なんだ?そいつの強さが分からないと、その娘の強さまで測れないんだが」
確かに分からないであろうが、機械人形という言葉のニュアンス的に「つよそーだなー」と思いそうなものであると思わないだろうか?
「では、折角の機会なので戦ってみますか?場所は襲撃を受けてしまった
隊長が機械人形相手に無双したら、そりゃあ職員の人達に勇気を与えられはするだろうけど、周りへの被害相当出ないか?
それ以前に僕、隊長が戦っている姿見たことがない気が…。
「マスター。私達って、何気に隊長が戦ってる所見た事がない気がするんですけど。若年性認知症ですかね?」
「零歳児に認知症も何もないだろ」
「お、大連さん。カッコつけて勇気づけないといけない人が二人程増えましたけど、大丈夫ですかね?」
勿論、ザ・主人公の隊長が返すセリフはただ一つ。
「余裕だよ?」
~~~~
本来の目的地である
外壁には全て焼け焦げたような跡が付いており、まるでハニカムの様に穴だらけになっている。流石に穴は正六角形ではなかったが。
中へ入ると壁や天井が一部崩れ落ちており、余程自分の力でも知らしめたかったのか、床が何かの斬撃を受けたかのように、パックリ割れていた。
少なくとも僕にその力の誇示は効果てきめんだった。
全てが立方体で出来ているサンドボックス型ゲームで散々爆破を繰り返してきた僕が言うんだから間違いない。
「…こらぁ酷いね」
「でしょう?これでも少しは片付いた方なんですけどね」
常々思うけど、所長は引きこもっている割に何でそんな事を知っているんだろうか?
当て勘か?
「おーいお前らァ!お得意様が訓練用の機械人形とやりあうようだ!早く逃げろ死ぬぞ!俺は責任取らねぇからな!観戦してぇんだったら盾は準備するんだな!」
「お得意様を大切に思うなら機械人形とやりあわせんな!」「テメェが責任取った事なんて一度でもあったか!」「死ね!」「だが観戦する」
何故、所長は部下を前にすると言葉遣いが荒くなるのだろうか?部下の人達もそうだが。この人たちなりのコミュニケーションなんだろうか?
もうちょっと平和にできないものだろうか。
「じゃ、引き続きボタンはこの私が押させてもらいますので、隊長は武器を構えて待っていてくださーい」
「ちょい待って武器はここにはないから軽トラに積んであるんだけどちょっと何で指がゆっくり動いている?!」
「えい」
――――ガシャガシャガシャガシャ
あの恐怖の機械人形が姿を現した、次の瞬間。
後ろに立てかけてあった一本の剣が、姿を消した。
正確には、飛んだ。
翼が生えたかと思うような豪速で低空飛行をし、機械人形の胸に触れたと思うとその鉄の肉を喰い、突き破る事約三十回。
たったの一撃で三十体以上もの機械人形がリタイアしてしまった。
「えぇ…、メインウェポンじゃなくてもこの威力ってどゆこと?僕らの隊長強すぎないか?」
「マスター、私、自信失いそうなんですけど。何で戦闘特化している夢よりも断然強いんですか?ハッ、これこそが夢?」
「いや、コレが隊長の普通の攻撃だよ?」
さも当然と言わんばかりの顔で姉さんが頷き、颯斗もそれに続く。
だが、二人とも目が若干遠かった。
ですよねー。
「うっしゃあ!武器は持ったし、いっくらでもかかって来いやぁああああああああ!」
突然空から何かが降って来たと思ったら、バッカデカいハンマー?みたいなのを背負った隊長だった。何のギミックも無さそうな、紅里の剣よりも断然鉄の塊っぽい鈍色のハンマー。
だが威力は凄まじかった。
「よっこら、せやぁっふぁいあああああああああああ!」
一回振るうごとに機械人形が何体も吹き飛び、粉々に砕いていく。
何だか所長まで遠い目をし始めた。
「アレ、あそこまで壊されても自己修復できるのかな…?」
取り合えず、経営費が
それから約十五分後。戦場にはただ一人、隊長のみが立っていた。
「いや、一体一体は弱かったけど、全方位から襲い掛かられるのは結構厄介だったね。これを倒せるってのは、そこそこ期待できそうだね」
「…あの人形、人間よりも遥かに高い身体スペックなハズなんだけどな。武装させてたはずなんだけどな」
「ん?何だい?」
「…何でもないです」
今にも所長の声が消え入りそうだ。隊長が出禁になるのはそう遠くない未来だろう。
「――――――――ッッッッッッっやっほぉおおおおおおおおおおい!」
――――キィイイイイイン
金属と金属が激しく擦れ合う音が響き、今丁度、隊長の肩目掛けて投げられた剣に全員の目が吸い寄せられる。
一体、誰が投げたのかと。
答えは調べずとも自ずとやって来た。
「あれ、襲撃じゃないんですか?」
もし相手が隊長だったとしたら僕は死ぬ気で逃げるが、と言う言葉を喉に押し込み、正体の疑問を解こうとした。
次の瞬間解かれてしまったが。
「…はい。アイツが、今回入る予定のウチの職員。
波乱の予感しかしなかった。
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