現代の武器屋
昨日は色々あった。姉さんが三回目になる床とのディープキスをしてから、
…色々あり過ぎて、逆に何があったのかを忘れてしまうぐらいには。
「おーい、優斗!荷物用意し終わったか?焦らなくて大丈夫だからなー!」
「了解です!」
今日から僕は、引きニートから『特務課・夢喰い』第四大隊の一隊員となったのだ。隊長に語ったように、全てを変える決意をしていたが、決意だけで変われるんだったら人間、そんな苦労はしない。
当日から寝坊してしまった。
勿論、朝食の時間までには間に合ったが、危うく復讐を果たすための時間が足りなくなる所だった。…僕の半身である紅里は、僕よりも惰眠を貪っていたとだけ言っておこう。
「体力って、一朝一夕じゃ身につかないって言うけど、何朝も何夕も一応生きてきたんだから、ちょっとは体力僕にも身につかなかったのかなぁ!?」
たかが荷物だと言って侮ってはいけない。この大隊内で一番体力と筋力がない僕に、隊長が荷物をほぼ全て任せたのだ。これは苛めとかではなく、僕の引きニート生活で衰えまくっている体力と筋力を蘇生させるためのモノだ。それに、僕が持っているのは、自分の荷物と、謎の袋が二つ程だけだ。なのだが。
「何入ってるんだよぉおおおお!鉄か?鉄鋼なのか?!」
重い。僕が持つ関係なしに物凄く重いのだ。腕がそろそろ引きちぎれるかと思った時、ようやく僕は隊長達の待つ軽トラまで辿り着いた。
手で荷物を地面に置くと、代えがたい解放感が体を走った。フリィイイイイイーダム!
「だ、大丈夫かい?顔色結構青いぞ?」
「ぜぇ、だ、大丈夫です、普通の人はこれぐらい余裕で持てるんですよね…。この大隊の基準にならなくとも、普通の人ぐらいにはなってみせま、す」
「目がヤバい事になってるから早く乗りな。荷物は僕が乗せるから…。あれ?これ、こんなに重かったっけかな?」
目だけが常人からかけ離れてしまっているらしいので、僕は大人しく紅里がいる後ろの席に着かせてもらった。
「おやおやマスター、どうやらお疲れのようですね。何か良い事でもあったんですか?」
「僕は自分を疲れさせて喜ぶマゾヒストなんかじゃない!第一、何でお前はそんなに機嫌が良いんだ?お前こそ何か良い事でもあったのか?」
「いや、非力なくせして私を亀甲縛りにしてくれやがった何者かが、今どこかで死にそうな顔しながら疲れていると思うので、ざまぁって思ってます」
「悪かったのは僕です、すみませんでした」
僕もやってから気づいた。あれ、やり過ぎたかと。でも、あんまりにもコイツがぐーすか寝てるもんだから、バレなきゃ犯罪じゃないの理念で動いてしまった。
…この言葉、便利だよなぁー。
「マスター、バレなきゃ犯罪じゃないって言葉ありますよね?」
「…ああ、それがどうした?」
「バレても揉み消せば犯罪じゃないんだと私は思うんですよ。だから脅迫って良いよなぁって」
「朝の僕を圧倒的に上回る危険思想の持ち主が!」
暴君という言葉は紅里にぴったりだろう。しかしおかしいな、一応、暴君の割には僕の事をマスターと呼んでいるのだが。本音と建て前と言った所か?
「なぁ、そう言えばお前は何で僕の事をマスターって呼ぶんだ?」
「それ、私がマスターに向かって「生きるってどういう事ですか?」って聞いてるのと同じですよ?漠然とそういう感じってのは分かっても、何故そうかと言われてしまうと分からないって奴ですよ」
「ふーん、そういうもんなのか」
明確な答えが無い、というものか。人間、何で生きてるのかって具体性を持って言える奴は、確かに少ないだろう。
「…まぁ、敢えて言うなら、マスターが私みたいな超絶美少女に無意識的にそう呼ばれたかったんでしょうね(ぼそっ)」
「聞き捨てならん事が聞こえた気がするなぁ?」
僕が潜在的なメイド趣味の変態とでも勘違いされてしまいそうな言葉は慎んでもらわんとなぁ!まあ、メイド趣味が一ミリだって無いかと言われたら肯定できかねますがね!
紅里が超絶美少女という部分は全力で否定させていただきますが。
「優斗ー?後ろ大丈夫か?結構窮屈だとは思うが、コレばかりはどうしようもないんだ、済まない。あともう少しで着くから、それまでの辛抱だ」
「わかりましたー」
この軽トラ、市場で一般的に売られている物なので、当然の如く二人乗りなのだ。なので、新人の僕らは後ろの荷台にテントを立てて乗ることになったのだ。
勿論、僕らは新人だからという理由だけで後ろに乗ったのではない。まず、今のこの現状そのものがおかしいのである。
姉さんの膝の上に小さい颯斗君が座っている。このおかげで何とか一つの席に二人座ることが出来て、車内に居れたのだ。
そこで現れた僕らは、スペース的にも一人席は無理だし、何より颯斗君の殺人的な視線が怖かったので、後ろの荷台に収まっているのだ。
「なあ、紅里。武器屋って、どんな所だろうな」
「寂しいからって振る話題それしかなかったんですか?これだから凡夫…マスターは」
「お前、自分の主人に対する態度ってもんがあるんじゃないのか?」
「まあ私がマスターの事を主人と思っているかどうかは置いといて、武器屋って言うぐらいなんですから、銃とか刀とかがずらっと並んでる感じなんじゃないですかね」
悲報、マスター呼びは本当に上辺だけのようだった。っと、それはともかく、やはり武器屋は某ハンターさん達がお世話になった所みたいな感じじゃなくて、既製品の銃とかを売っているのだろうか。
流石に、安全第一な現代社会で時代錯誤な武器なんて売っていないと思うけれど。
「着いたぞー。荷台の荷物は僕が持ってくから、杏子姉ちゃんに付いて先に行ってて。僕も直ぐに行くから」
「隊長!荷物って勿論私のマスターも含まれますよね?!」
「じゃあ、僕はちょっとこっちだけで手いっぱいだから、君のマスターは自分で背負ってもらおうか」
「ごめんなさい出しゃばった私がバカでした」
大の男を背負うのにしては、嫌悪感凄くないか?一瞬にして意見をひっくり返しやがった。まあそれを出来る隊長も凄いな。
「はい、じゃあ私について来てねー。遅かったら置いてくぞー。」
「遅い奴は我がぶっ潰す」
月花姉弟の小さい方の言動の物騒さはどうにかならないのだろうか。その言葉が嘘ではなく真実だという事を、僕は不幸にも身を持って知ってしまっているので、恐怖倍増だ。
「そいえばさ、優斗君が夢中症候群になったのってどのくらい前なの?」
「えーっと、大体二か月前ぐらいか、な」
「つまり私は生後二か月のお肌ぷにぷにな子という事でーす!」
お前はその代わりに心がドロドロに腐ってやがんなという、僕の正直な感想は「なるほど、これが絶対零度か」って思うぐらいの眼光によって、喉元で凍らされた。い、息が出来ない。
「今更だけど、優斗君と紅里ちゃん、ここで何をするのか知らされてるんだっけ?」
「いや、全く」
「秀才を自称しているのですが、悔しい事に知りませんでした!」
秀才とかいう戯言は道に捨てといて、確かに僕らは武器屋に何故来ているのかは知らされていない。いや、まあ、流石に武器を買うためって事は分かるけどさ。
ほぼ一般人な僕にも武器が必要なのだろうか?
「この武器屋はね、夢喰いの、それも第四大隊と契約を結んでいる所なの。ここの所長はうちの隊長に恩があってね。色々と優遇させてもらってるんだ」
「我と姉ちゃんの武器はここで製作してもらったのだ。無論、隊長もな」
「夢中症候群の人の特性に合った、完全なオーダーメイド製品を作ってくれるからね。ここの人達には頭が上がらないよ」
ほぉー。オーダーメイドの、武器ねぇ…。ハッ、
「杏子ちゃん、久しぶりだね。お!遂に新しい隊員が入ったのか!おめでと~!」
「ありがとうございます、
そんな欲望塗れの僕の頭を冷やしてくれたのは、言ってしまえば薄毛の、割と何処にでもいそうな、気の良い感じがするおっさんだった。
「どうも、俺は
「あ…はい。僕は
「
あぁ、そういえば、マスター呼びによる変態疑惑をまた解かなきゃいけないのか。人と会うごとにこれはキツイな。…丹沢さんの様子がおかしいぞ?
「おぉ、人型の夢か。噂には聞いていたけど、人間とほぼ遜色ないね。紅里ちゃんって言うのかい?これからよろしくね」
「…?よ、よろしくお願いします!」
余りにも普通の反応だったッ!言うならば、近所の夫婦に子供がいて、その子供に初めて会った時みたいな感じだ!流石の紅里も困惑している!
…という事は、コイツ、姉さんに初めて会った時の如く、僕に風評被害を掛けようとしていたのか。
「で、君が紅里ちゃんの主の夢咲優斗君か。君とは気が合いそうな気がするんだ。後で俺の工房を見においで」
「それなら、僕も一緒に行かせてもらおうか」
流れに流され、ハイと首を縦に振る前に、隊長の声がそれを遮った。隊長に気づいた丹沢さんは、少年に戻ったかのように楽し気な笑みを浮かべた。
「待ちくたびれましたよ、大連さん。この武器屋一同で作った傑作が、貴方を待っているというのに。まあ、残念ながら今は職員全員が昼食の時間なので渡すことが出来ません。なので、そこの大隊の子達も連れて飯でも食いません?」
「これ、君が無理言わせて時間調整したんじゃないだろうね?」
「あはは、そんな事はないですよ。私は無理は言いませんので」
何だか良く分からない。隊長と丹沢さんは、唯のビジネスパートナーにはない友情や絆がある気がする。
…ま、元コミュ障が何考えても意味ないな。それはさておき、ご食事にありつけそうなので、喜んで頂きますか。
「では、いつもの経営棟じゃなくて、隣の社宅棟の方に行きましょう。一階に食堂があるんですよ」
気づかなかった空腹が一気に襲い掛かり、僕は使うエネルギーを最小限にしようと努力だけはしながら丹沢さんの後に付いて行った。
武器屋は、かなり大きい平屋の建物で、その横にビルが建っている。これが社宅なのだろうが、武器屋の大きさの割にはデカい。
「たのもー!野郎ども、大切な顧客である第四大隊様方が来たぞ!道開けて席開けてついでに器も開けろ!あれの最終点検を早くすっぞ!最高の状態で差し上げるんだ!」
「「「「「「「「「「おう!分かったぜクソ所長!」」」」」」」」」」」
何故か、防犯設備が全く見当たらない両開きのドアを開けると、むわっと美味しそうな匂いが流れ出てきた。
…それと同時に、丹沢さんが豹変した。流石に第四大隊を持ち上げ過ぎじゃないか?即答し、一気に慌ただしくなった食堂を見て、若干だが隊長達の頬が引き攣っているのを僕は見逃したわけじゃない。
「そ、そんなに歓迎してくれなくても良いんだよ?」
「何を言っているんですか。あなたは私の命の恩人ですよ?今もあなた達には経営的にも随分とお世話になっているのに、私たちは大した恩返しも出来ていません。せめて、これぐらいはさせてくださいよ」
「…君の部下が苦労してないんだったら、僕は別に大丈夫だけどね」
どうやら、丹沢さんは何だかんだあって隊長に救われてるらしい。まあ、分からんでもない。隊長、少しの付き合いでも分かるぐらいお人よしだし。
でも隊長、職員の人達、さっき所長の事クソって言ってませんでした?
どうやら随分と苦労しているようだ、がんばれ。
「今日の定食でも食いながら話しましょう」
「分かった。ちなみに、今日の定食は何なんだ?」
「もしかして、カツ丼じゃないと思ったんですか?」
「…当時の再現度高すぎない?」
知られざる過去っぽいのが非常に気になるが、僕らは席についてカツ丼を頂いた。
隣で話している隊長の声が聞こえなくなるくらい美味しかったと言っておこう。
「げ、マスター。食べるの早すぎやしませんかね?何で私がカツ取ろうと思った瞬間に食べ終わるんですか?」
「食事の時にそんな文句の付けられ方されたの初めてだよ!」
僕の事を主人ではなく、カツ丼のおかわりだと認識しているようだな。半周程回って僕は冷静になった。そして、冷静になってくると周りの会話も聞こえてきた。
「最近は、君がどれだけ働いてくれているかが良く分かったよ。本当、武器のあるなしで随分とやり易さが違う」
「それはそれは。職人冥利に尽きるお言葉ですね。今回は、もっとパワーアップしているのでご期待ください」
何だか凄そうだなー、大砲でも使ってるのかな?とでもぼーっと考えている内に全員が食べ終わり、僕らは武器が安置されている経営棟に向かった。
「突然で申し訳ないんだが、優斗君の武器も作ってもらって構わないか?流石に、任務が来た時に丸腰じゃ困るから。勿論、報酬は弾むよ」
「はい…。今すぐにでも用意したいんですけれど、出来合いのモノを用意するのなら兎も角、オーダーメイドのモノともなると少々時間が掛かってしまいます。それでも大丈夫でしょうか?」
「じゃあ今日オーダーメイドの物を設計して、それが出来るまでの繋ぎとして出来合いの物を買っていって良いか?」
「分かりました」
どうやら話の流れ的に、僕は今日、自分の武器を手に入れるらしい。いやぁ、最初に自分の武器を持ってみたいと思い始め、諦めたのは何時だろうか。アニメで見て憧れて、現実を見て諦めた。まさかその夢が、夢中症候群になって叶うとは。
今の僕は興奮しまくりだ。
「じゃ、皆さん入ってください」
「「おぉ~!」」
いつでもどこでもおちゃらけているような紅里も、このロマン溢れる光景を見て、感嘆の念を禁じ得なかったらしい。流石僕の半身。
白い壁一面に天井の柔らかな橙色のライトを受けて輝く銃や剣などの武器たちが並び、その奥には赤い火花が散り、鉄が打たれている金属音が聞こえる。
現代では中々お目にかかれないような光景を前にし、幸福の赤い液体が流れ出そうになったが、鏡越しに、軽く隊長が引いている顔を見た。
すみません、ティッシュ貰えませんか?
「良い反応をしてくれるね、君たち。やっぱり俺と気が合いそうだ。大連さん、こんな良い子達を何処から拾ってきたんですか?」
「聞いてくださいよ丹沢さん。隊長がですね、昨日突然拾ってきたんですよ。猫じゃないのに、どうもこう簡単に掬い上げちゃうんでしょうね」
「まあ、猫みたいな可愛さに惹かれちゃったんじゃないのかな?」
「ですよネ?」
「…肯定はしないが否定もしない」
三人がかりの言葉攻めに、流石の隊長も少したじろいでいた。…僕、そう言えば話題に出てないな。そんなに気にかけられてない?もしかして。
「貴様、湿気た顔をするな。この雰囲気を壊すことは我が許さん」
「ひっ?!いや、壊さないからね?!」
どうやら僕は湿気た顔をしていたらしい。そのせいで、僕の首元には刃が添えられている。いくら何でもこれは理不尽過ぎないか?
「こらこら、人にそれを向けちゃあかんって言ったろ?はやちゃん、それ俺に貸してみ」
「…我は、正当な目的があって「困らせちゃ駄目だよ?」――姉ちゃんが言うなら」
姉さんの言う事には驚くほどすんなり従う、ちょろいシスコンであった。出来れば僕の言葉にも、一考の価値を付けて頂きたい。
「我ながらいい出来だよな、この『影刃』。ネーミングも…ありゃ?結構派手に欠けてるな。大連さん、これ修理しちゃっても大丈夫ですか?報酬はいらないので」
「大丈夫だよ。…さっきまで僕が持ってたのに、はやちゃんはいつの間に取ったんだ?」
颯斗君が使っている猟〇具に、『影刃』というめちゃくそかっこいい銘があったとは。まさか、ハンターな訳じゃないだろうな?
「それにしてもはやちゃん、どんな使い方したらこんな壊れ方すんのさ?『影刃』は相当頑丈に作ったつもりなんだけどな~」
「いや、丹沢。そんなにはやちゃんを責めないでやってくれ。その…相手が刀の夢だったからさ」
「そうなんですか!で、どんな刀だったんですか?切れ味はどうだったんですか?私が作ったこの『影刃』はどれだけ役に立ったんですか教えてください!」
結論から言おう。丹沢彰洋、この男はオタクだった。それも、極度の。仕事熱心って良い事だよね!
「…紅里ちゃん、刀、出してくれる?」
「全然良いですよ~」
そして、紅里が胸から赤い煙のようなエフェクト(?)を発生させ、刀をスッと引き抜いた。安心の意味の分からん輝きと登場方法を持ったその刀は、魅せた。
「な、何だその輝きは…。こんな真紅の鉱石は見たことが無い。しかもこれで『影刃』に押し勝ったんだから、武器としての頑丈さも兼ね備えている。その上、出し入れが出来るようだし、更には傷一つ無い。…何なんだ!これは?!」
「いや、私の武器だとしか言えないのですが…」
「ちょっとだけ!一週間…いや、三日で良い!これを私に貸してくれ!この研究は必ずや第四大隊の為になるだろう!」
「ま、まあ別に良いで「ありがとぉう!お、重い?!」――隊長、私の武器、連れ去られちゃいました!どうすれば良いのでしょうか?」
ノリでオーケーを出してしまった紅里には、武器が最低三日は失われるという代償を背負ってしまった。武器を失っても、僕とかの凡人は、こんな人型決戦兵器には絶対勝てないがな。汎用できない。
「クソ所長が!大切な顧客だっつったのはあんただろうが…」
「…はぁ、済まない、八割方分かってはいるが、丹沢君は何処に行ったんだ?」
丹沢さんが刀を抱えながら走り去っていった方向とは逆方向、つまり僕たちが入ってきた入り口から、ここの職員らしき人が入ってきた。
「あぁ、あなたが大連さんですね。私は所長から連絡を受けて来ました。あのクソ…所長の一番弟子、
「…そうしたいのも山々だけど、彼は彼なりの情熱と理念を持っているからね。あまり蔑ろには出来ないよ。それにしても、僕らは後三日間、ここに居なければならないのかい?」
「武器は無きゃ困るでしょうし、修理期間なのでそう早くもできません。それに、何より所長が、ここの職員と少し交流を持って欲しいと思っているので」
丹沢さん、オタクとしての情熱に狂ってしまっただけの人かと思っていたが、ちゃんと芯が通っている立派な人だった。
「刀とやらを取り上げられたくないだけだろうがな!(ぼそっ)」
小さく怒鳴って悪口を言うという、世にも要らない妙技を披露してくれた前田さんによって、人は上辺に因らないものだと分かった。
勿論、良い意味で言っている。
「じゃあ隊長はそこのおっさん「誰がおっさんだ!」に、はやちゃんと杏子さんはそのチビ助「私はチビじゃないし!」に、君たちはこのイケメン「「異議あり!」」について来てくれ」
職員内の絆の深さが良く分かった。ちなみに、おっさんと呼ばれていた人は、異世界の鍛冶屋によくいそうな、前掛けを掛けたいかにもと言った感じの人だった。もう一人の子は、僕と同じような年齢の、可愛い子だった。
べ、別に、コロッと行きそうになったわけじゃないし?
「マスター、もしかして照れちゃってるんですかぁ~?中二にもなって初心ですね」
「ぶっ殺すぞ零歳児」
心にもない言葉が出てきてしまった。どれもこれも、心をささくれ立たせた存在、つまり紅里のせいだ。僕の心の最高裁はそう判決を下した。
「そうそう、あいつは
「いや、別に僕惚れてませんからね?」
僕、初対面の人からも惚れていると確信されたんだが。僕、そんな表情してたっけ?僕が自分の表情を確認すべく、自分の顔をぺたぺたと触っていると、ようやく真面目な号令が前田さんからかかった。
「じゃ、この着替え室(?)に入ってくれ。紅里ちゃんは…武器、必要ないよね?」
「いやぁ、私だってか弱い乙女なんですから、身を守るための武器は必要――」
「乙女?笑わせんな。生物兵器の間違いだろう?前田さん、そいつ殴ったら、手の方が痛むぐらいですよ。そいつ自体が兵器なので、武器なんてものは必要ありません」
「…」
そう、そういう目で紅里を見てくれる同志を探していた。「いや、流石にそれはおかしいだろう」みたいな目で、ドン引きする同志を。
通常、そろそろ言葉と目線のショックで俯いて落ち込んでいた紅里から、ほのかに殺意が混じったオーラが噴出し始める。
僕は、その前に正気に戻った前田さんとアイコンタクトを取り、無言で着替え室(?)に入った。入ると自動的にドアが閉まり、普通なら鏡があるべきであろう場所が光った。何かの画面だろうか?
そこで僕が目にしたものとは――
「コンニチワ。所長作のロマン詰まったAI、
――ネーミングが雑にも程がある、AIだった。
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