オーダーメイド武器という名のロマンの塊

 所長さん。あなたもオタクなら、著作権法無視してでも良いから、何かいい名前を思いつかなかったのか?僕は、画面に浮かぶ虹色の正八面体――もとい、露真太郎ろまたろうを見ながら思った。センスは無かったのだろうか?


「僕、もしくは私の前にいる誰かさん。私と話すときぐらいはタメ口で良いですよ。私の言語設定は所長がしているので、責任は全て所長にあります」

「特に何もされていないはずなのに一番最初に主を売った?!」

「初対面の人にはこのフレーズを放つ設定となっております」

「所長!それはいくら何でもやり過ぎだろう?!」


 ごめんなさい。所長の器を見誤っていました。と、下らない茶番劇はここまでとしよう。本題である僕のオーダーメイド武器の話だが…そう言えば、紅里生物兵器の脅威から急いで逃れるために入ったが為に、ここの説明を何も受けていない。


「露真太郎、僕はここで何をすれば良いんだ?」

「まず、全裸になってください」

「いくらコミュ障の僕だと言えどもそんな要求は受け入れられないぞ?!」

「エラーですね。気にしないでください」


 僕と翻弄するとは、やるな、このAI。それはさておき、こんな、液晶画面とその中にある変な正八面体以外何もない場所で、一体何をやらされるんだ?


「では、全裸になって…」

「やっぱエラーじゃなかった!?」

「…もらうのではなく、画面に自身の身長・体重を記入してください」


 僕は、言われるままに画面に記入していった。確か、最後に身体測定が行われたのが去年の七月あたりだったが、それから殆ど何の身体的変化はない。精神的にも、ない。


「はい…では、この中からお好きな武器を選んでください」

「圧倒的に剣!――と言いたいんだけど、何で選択肢に無いの?お店に並んでなかったっけ」

「お前如きの貧弱野――ゴホン、貴方に剣を扱えるだけの筋力が数値的に無いのと、剣にはそれ相応の技術が無いと厳しいので、練習時間が余りとれない夢喰いの方々には向いていないというだけです」


 前半は兎も角、後半の理由は確かに最もだ。オーダーメイド武器という単語に意識を奪われていたが、手に入れたところで、確かに僕にはそれを扱えるだけの技術は無い。


 …だからと言って、残りに大砲とかミサイルしか出てこないのは何故だ?都市でも攻め落とすのか?


「なぁ、じゃあさ、僕に扱えるのは大砲とミサイルしかないのか?」

「勿論、ライフルとかもありますけど、一番簡単なのはそれらでしょう。なんせ、照準は勝手に機械が合わせてくれるので。貴方がするのは、ボタンをポチるだけですよ。楽勝じゃないですか」

「楽勝って言うか、戦う土俵にすら立っていないだろ…」



 取り合えず、試しに銃をやってみて、徐々に難度を下げていくか。


「試し打ちとかが出来る場所ある?」

「確かに実験場テストルームならありますけど…壊しても、それは全て自分の責任だって誓約書書いてくださいね」

「AIに責任なんて伴わないんじゃないのか?」

「…じょ、冗談ですけど?そんなのも分からないんですか?空気読めないってよく言われません?」

「言い様というものがあるのでは?!」


 空気読めないも何も。会話に参加すらしていない空気に、自分を読めと言われましても。ねぇ?その後、僕は人間であることがほぼほぼ確定したAIにマップを見せてもらい、意気揚々と結局何の部屋なのか聞き忘れた部屋を出た。…あれ、武器受け取って無くね?現地にあるのか?


 僕の疑問は外に出た瞬間吹っ飛んだ。


「なんでよりにもよってあんたらがりあってんだよぉ!?」


 前田さんが近未来的な機械剣を、紅里が普通の西風剣を手に持ち、激しい剣戟を交わしあっていた。紅里がただ豪速で剣を振り回しているのに対し、前田さんは機械剣から展開されるギミックを用いて、芸術的な受け流しを為している。…が、


「死ね!ハゲ!」

「言われる相手がもうちょっとイイ感じの肉付きしてたら嬉しいけどなァ!」

「くたばれ変態!生きるな女の敵!」

「俺は変態じゃないしイキってないし!」


 会話の内容ひでぇ。一体僕がいない間に何があったんだ?もしかして、まさか前田さんあの後煽ったのか?尊敬するわ。


「紅里、止まらねぇと所長に武器永遠に預けさせるぞ」

「そ、早急に止めさせていただく所存にてございます」

「息の根止めたらァ――――ぁえ?も、もう休戦なのかい?」


 所長から早く武器取り返したいのか。そうか、じゃ、予定より少し長く滞在するとするか。僕はそう検討しつつも、さっきの戦闘には首を突っ込まず実験場テストルームまで前田さんに案内してもらう事にした。

 …どっちも「さっきまで何をやってたっけ?」みたいな顔をしているのだから、触らぬ神に祟りなし、だろう。


「僕、実験場テストルームではライフルの試し撃ちでもしてみようと思うんですけど、ライフルってあるんですか?」

「ライフル?君は剣とでも言うんじゃないか思ったんだけどね。違うのかい?」

「いや、剣って、扱いとか難しいじゃないですか。まだ、銃の方が使えるかもかな~っと言った感じです」


 まあ、どちらにしろ扱いは難しいだろうけれどもね。そんな事で、いざと言うとき自衛手段がないまま死んだら、悔やんでも悔やみきれない。勿論、僕がね?


「ライフルって言ってもね~。一応、軍用のを所持してちゃあ不味いだろうから、猟銃を魔改造して、原型を分かんないようにしちゃえばいいと思うけど。多分この手段しかないけど、これでも良い?」

「何か悪いような点は?」

「多分、威力が化け物になるけど、反動がおっそろしい事になるよ。最低でも、一発で肩は脱臼するだろうね」


 怖っ?!何それ、もはやそれは銃なのか?人体破壊装置とかそういうのではなく?僕、これから活躍するには、必ず脱臼しなければいかんのか?

 僕は真剣に剣を使おうか迷い始めた。


「んまぁ、剣使って近接戦で殺されるよりは安全だと思うけど」


 無理ですね、余裕で百回は死ねるだろう。僕が剣を使って『ゲヴェーア』と戦えているのが想像できるだろうか?僕はパイナップルの雨が降る方が想像できると思う。


 なんやかんや話している内に、実験場テストルームと呼ばれる場所に僕らはやって来た。と言っても、経営棟と呼ばれていた場所からそこまでは離れていなかったので、割と早く着いた。


「おぉ、なんか、凄い…豆腐に似てますね」

「もしかして、それ誉め言葉だと思ってる?」

「あれが俗に言う豆腐ハウスですね!」

「隠さずに言いやがったなおい。別に事実だから何も言わんが」


 所長が、自身の研究以外に殆ど興味が無いという事は。そして、経営棟と社宅棟は、社員の必死の努力で、今の形になったという事は通じた。

 …そりゃ、自分の家と職場が飾り気がない真っ白な豆腐ハウスだったら嫌だよね。


「前田さん、ところで、ライフルとかは何処に置いてあるんですか?」

「さっき話してた奴っぽいのが格納庫に置いてある。俺はそいつを取ってくるよ。カギは渡すから、二人とも先に入っといて」


 勿論、カギは僕が預かり、今にも舌打ちマシンガンを飛ばしてきそうな紅里をガン無視し、僕らは実験場テストルームに入った。


 ――――ほぼ何もなかった。


 確かにさ、試し撃ちが出来るぐらいの場所なんだから、壊れて困るような物は置かないだろうと思ったけどここまで何もないと、殺風景どころの話じゃなくなってくるな…


「紅里、試し撃ちをするような物がここにあると思うか?」

「チッ、んだよ…あぁ、マスター。一般人以下の虚弱視力の持ち主であるマスターには分からないでしょうが、ずっと先の方にドでかい上にめっちゃ厚い鉄板で作られた的っぽいのがあるので、それを撃つって事なんじゃないですかね?」


 僕に対する好感度が最初に出会った時よりも下がっているのを感じつつ、紅里には見えたという実験場テストルームの端を見ているのだが。


「…無くないか、それ」

「あぁもうそんなに私の事が信じられませんかねぇ!マスターの分際で!気に喰わねぇからこのボタン押したらぁ!」

「何故それを押す?!」


 なんか、凄い逆ギレされた。でもさ、ちょっと僕だって悪かったと思ったさ。自分の半身に等しい存在に対して、そんなに「お前には信用が無い」と言わんばかりの行動をし続ければ、そりゃ誰だって怒るだろう。


 だからって、「押すなよ?押すんじゃないぞ?押したら辛いぞ、苦しいぞ?絶対に押すなよ?マジで、絶対に押すなよ?フリじゃないぞ?」って書かれてるボタンを押すことは無いんじゃないだろうか。


「優斗くーん、取ってきたz…テメェなんてもの押しやがった!それ本当に一回終わらせるの面倒くさいんだからな!」

「マスターが私を怒らせたのが悪い。私は生物兵器なんでしょう?生物兵器と言えば恐怖の象徴。つまりマスターは私をもっと畏れ敬うべきだ」

「ライフル下さい。コイツの脳天ぶち抜くんで」


 僕は珍しく少し焦っていた。勿論、元凶はあのボタンだ。あのボタンは何のボタンだったかというと…


 ――――ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ


「訓練用機械兵かよ!俺に対する嫌がらせか?!そうなんだな!?」


 僕も少しずつ見えてきた。紅里が言っていた的とやらの近くから、メタリックな人影が近づいてくるのが。

 その人影は、店頭に並んでいたような剣ではなく、大きな木刀のようなものをそれぞれ構えていた。それも一種類だけではなく、二刀使いがいたり盾使いがいたりとバリエーションが豊かだ。


「おい、こいつらは一定のダメージを一定の量の機械兵に与えないと引かないから、取り合えずボコるぞ!優斗はライフルやるから撃て!紅里は――――拳?」

「なんで疑問形なんですか?まあ、私ともなると拳で戦えま…」


 それお前だけだから。そんな感想を唾と共に喉に押し込み、僕は投げ渡されたライフルをキャッチした。そして、ライフルを構える…はずないよ?

 説明してくれる人いないの?

 ゲームでさえ初心者応援パックあるというのに!


「これってどうやって使うかの説明は無いんですか!?」

「あの木偶の坊にリンチされたいんだったらいいぜ!」

「そんな無茶な!」


 現実はゲーム程優しくなかったらしい。僕はやけくそ気味にライフルを構えると、そのスコープ(?)で機械兵に照準を合わせ、それっぽそうなポーズを取った。

 …いや、格好つけてるんじゃないよ?


「ふぅ、初めての射撃が、こんな事になるなんてな…」

「マスター!感慨に耽ってないで早く援護射撃してください!こちとら何体相手取ってると思ってるんですか?!」


 そう言う紅里の方を見てみると、人間の何倍の重さもありそうなメタリックな機械兵が、まるでゴミの様に吹き飛ばされていた。紅里一人に任せておけば良いのでは?という考えが頭を過ったが、前田さんはあまりの数の暴力に、少しずつ押され始めている。

 第一、この数に対応できている時点で相当なのだが。


 僕は、周りに誰もいない事を確認すると、人生初の銃弾を放った。


 ――――ばこぉおおおおん


 機械兵の頭が、。いや、音も威力もおかし過ぎるでしょ。この威力の割には反動は思っていたより少なく、肩を殴られた程度で済んでいた。


「優斗!そのままじゃんじゃん撃って撃って撃ちまくれ!所長の備品なんて全部ぶっ壊れちまえば良いんだ!」

「おぅらぁあああああああああ!ぶっとべぶっとべぶっとべぶっとべぶっとべぇえええええええ!」


 前田さんがキレ、紅里が野蛮人化してから数分後、僕も銃を撃つ快楽に目覚め、それでも僅かな理性を保っていた。

 最初はヒットさえすれば良いと思っていたが、僕はあまりの爽快感に、段々と頭や胸などの急所を狙うようになった。ま、狙ったとしてもあまり当たりはしなかったが。


「ぜぇ、ぜぇ。こ、こいつで最後、か。き、きつかった」

「いやいや私はまだイケますよ?お肌には良くないと思いますけどね」

「木刀を手刀で両断できる奴が言うセリフじゃねぇな」

「ハァ、乙女にそんな事言っちゃだめですよ?マスター」


 アホ抜かしている奴は置いておいて、僕はそのまま後ろにぶっ倒れた。機械兵を撃つのに快楽を覚え始めたので少しは中和されていたが、やはり誤射の恐怖はあったのだ。…二人とも、誤射しても死ななさそうだけどね。


「も、もう夜ですね」

「マスター。もしかして、口火切るの苦手なんですか?無理しなくても良いんですよ?」

「格納庫に布団でも敷いて雑魚寝するかい?みんな、疲れただろ?」

「え、ヘタレチキンなマスターは兎も角、前田さん。襲ったりしませんよね?」

「安心しろよ。お前みたいなちんまいのに興味ねぇから」

「死ねくそじじい」


 じゃあお前は外で寝とれや、という言葉を最後に、前田さんは格納庫に布団を取りに向かった。…妙に疲れた一日だった。

 オーダーメイドの武器を手に入れられると知ってハイテンションになり、カツ丼食って飛んで、店内を見てハイテンションになって。挙句の果てに変なAIに会い、ライフルで説明も無しに乱射した。


 うん。我ながら生涯で一番意味の分からない一日だったな。


 前田さんが格納庫から布団をきちんと三人分配達し、「あ、でも私マスターと寝ましょうかね?」なんて脳内麻薬がまだ抜けきっていない発言をしたアホを蹴り飛ばし、僕らは布団を敷いた瞬間、疲労やらなんやらで気絶し、布団にぶっ倒れた。


 後日、僕らは帰ってこない事を心配した隊長によって発見された――――が、隊長曰く、手遅れだったらしい。


「ちょっと、アニメ化するのが厳しい絵面だったよ。男同士のツイスターゲームなんて誰得だ…」


 とは、隊長の言葉だ。

 ちなみに、諸君。ツイスターゲームとは、四色のサークルマットの上でスピナーと呼ばれる指示板に従って、両手足の部位をマットの上のマークに置き、倒れないように体勢を崩さないようにするパーティーゲームである。


 小学生までならば、男女問わずに楽しめるゲームであろう。だが、多感な中学生ともなれば話は別だ――――という展開になれれば僕的には悪くなかったのだが。

 起きた時、全身が大人の男にバッキバキに極められている状況を考えてみて欲しい。やっている側は幸せ「読者に先入観を埋め込むな!by前田」かもしれないが、やられている側は全く幸せなどではないのだ。


 僕は勿論、何故起こしてくれなかったのかと聞いた。


「あんな汚――――失礼、悍まし――――違う、清浄じゃない空間に長居したくなかったんだよ」


 いや、いくら何でもその言い草は酷いのではないだろうか。今時、社会は多様性の時代だ。それをまるで化け物みたいにたとえないで欲しい。

 僕が隊長の立場だったら一目散に逃げますけどね!


「ふぁあ。おはようございます、マスター。朝っぱらからこんなにうるさいとは。何かいいことでもあったんですか?」

「今の疲れ切った顔をしている僕を見てもう一度言ってみろ」

「良い事でもあったんですね」

「勝手に断定するな!」


 ここでの生活(単に時間だけだとまだ一日も経っていない)は慣れる事が不可能なくらい刺激的だが、せめてコイツぐらいには慣れれないだろうか?


「あ、そう言えば、前田さんが情欲に駆られて私を襲ったりしてませんでしたよね?」

「しとらんわガキが!」


 格納庫へと繋がる扉の隙間から僕の髪の毛数本を散らし飛来したナイフと、それを平然と躱した上にキャッチした紅里を見た。

 ――――慣れれるかだって?誰だよ、そんな血迷った事を考えたのは。まだ学校中の人間を洗脳しようとする方が正常だな。


「はぁ、取り合えず朝ごはんは作っておいたからみんなで食おうか」

「へぇ、前田さんって朝ごはんとか作れるんですか。媚薬とか下剤とか入れてませんよね?」

「お前俺の事を欲に塗れた獣かなんかと勘違いしてないか?」

「私の主食は下世話な話なので」


 栄養が偏ってはいけないので、朝ごはんは頂きますがね、と、紅里が言う。下世話な話からは何の栄養分が取れるんだよとは思うが、それは今は置いておこう。


 殺風景な実験場テストルームの中で、何故か存在している木の温もりが感じられる机の上に並べられた、いかにもオーソドックスな感じのフレンチトーストをもぐもぐと頂きながら、僕は本日の予定を聞くことにした。


 本当に、昨日みたいな目には会いたくないんだ。


「今日って、何をやるんですか?」

「え?殺る?誰をだい?いくら僕でも、所長以外のやってしまうのは心が痛むし、捕まりたくないから遠慮させて頂きたいのだが…」

「ちょっと脳内物騒過ぎて話になりませんね」


 てか、所長はやっちまって良いのかよ!非常に大きなツッコミどころだが、前田さんがどうやら本気で言っているっぽいので、突っ込めない。というか、そんな殺意の坩堝に突っ込みたくない。


「性じ――――ゴホン、前田さん。マスターが言いたいのは、今日の予定の事だと思いますよ?」

「紅里ちゃん、君がやりたい事は、俺を性犯罪者に仕立て上げる事だと思うのだが」


 間違っていなさそうな回答を得て、「いやまさにその通りでござる」とでも言いだしそうな紅里は置いておいてスルーして前田さんは告げた。


「特に何もやる事ないし、俺も今日は定休日だから、ゴロゴロして過ごそうか」

「僕はここでニート生活に戻ろうとしていたわけではないのだが?!」

「お、元ニートか。俺の同類じゃないか。いっその事、俺とニートに戻らないか?今この瞬間も、数多のゲームが俺たちを呼んでるぞ?」


 元引きニートに何もしなくていい日なんてあげちゃダメ絶対だ。手が自然にゲーム機に、スマホのアプリストアに、そのボタンから発せられる魔力に、目が奪われかけるが、ダメだ。

 思い返せばだが、決意してからまだ一週間と少ししか経っていない。三日坊主にはなっていないと心の悪性腫瘍がささやくが、僕はそんな屁理屈をささやく悪性腫瘍にアッパーを極めた。


 というか、紅里にアッパーを極めた。


「いや、遠慮しておきます。ちゃんと、決意して来てるので。もう引きニートには戻りたくないって」

「…oh。決意ガン決まりしてるのかー。良いね、俺には今まで出来た事が無いよ。そういう決意。大抵、三日坊主で終わるんだけどね。その決意が続くように、僕は応援しとくよ」


 ありがとうございます、と誠意を込めて言う僕の隣で芋虫の如く蠢いている紅里であった。

 正直、自分でぶっ飛ばしておきながら気色悪かった。


「という事で、今日はライフルの撃ち方でも教えてください。どうせ、暇なんですよね?」

「ま、否定はしないさ。俺は一応現代式の機械剣が専門なんだけれども、ライフルとかだって扱えない事は無いから、教えてやるよ。生憎、今日は定休日だからね。僕は私用で知人に教えるという事になる。それでいいかい?」

「!…それで、よろしいのなら」


 そこまで考えていたのか。朝っぱらからナイフを飛ばしてたりと、流石はあの所長の一番弟子だなと思っていたけれど。


「やっぱ根は優しいんですね」

「俺は根も葉も優しいつもりなんだがな」

「お二人とも何ご冗談を。一番優しいのはこの私――――」


 ――――論外。そう結論を出して、紅里を会話から締め出すと、僕はその後、ずっと実験場テストルームでライフルを教えてもらった。


 少しずつ、ほんの少しずつ的への命中率が上がり、その喜びを心にくべて、隊長が来たと紅里が知らせて来た時には、もう夕暮れだった。


「どうしたんですか、隊長?」

「どうも?ただ単に、優斗達は何をやってるのかってさ…って言えたら幸せなんだけどね」


 フラグ立てるの止めてもらっても良いですか?やめて、せっかく今何かを掴めそうだった気がしたというのに――――!


「熱中してるとこ悪いけど、明日の早朝にはここを出るよ。もう杏子達には伝えてある」

「え、確かに明日で武器は貰えますけど、そんなに急ぐことですかね?」


 僕は、正直言って、『夢喰い』というのは学校の部活動の延長線上がこういうのなのか。とでも思っていた。何せ、不登校なのだから、部活動が何なのかさえ理解できていなかったからな。


 だから、この頃の僕は危機感が薄かったと言わざるを得ない。


「依頼が来たんだ。初任務だから、気を引き締めて行こう」


『夢喰い』の、任務に――――

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