初任務

ごめんなさい2日遅れました!

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 唐突に依頼が来たと言われても、僕としては混乱せざるを得ない。ついさっきまでライフルに熱中し、それ以外の情報を遮断していたから、読み込みが遅くなっているのかもしれないが。


「依頼って言われても、僕と紅里は何をやれば良いんですか…?」

「それは…説明できないね!」

「なんでやねん」


 思わず真顔になってしまった。でも当然であろう。話題吹っ掛けてきた本人が、その話題について何も知らんんと言い切ったのだから。

 じゃあ何で言ったんだよ!


「いやぁ、今回の依頼って現地で説明を受けるタイプの、周囲の人間にあまり知らされて欲しくないものらしくてさ。電話で依頼が来たから、一応怪しいし迷惑電話って可能性も考えたけど、これはそんな感じじゃあない気がするんだよね」


 隊長は少しバツが悪そうに言うが、僕はそれどころではない。僕は依頼の内容が聞きたいのであって、聞けない理由言い訳を聞きたいのではないのだ。

 …どうか、異世界転生系なろう系のE級冒険者並みの依頼(薬草採集など)であってくれ!


「あと、これは依頼の条件だからしょうがないんだけど、中高生あたりの年齢である事、だってさ。だから今回、僕は付いて行けないよ。こういうのはレアケースだけど、中高生に頼るって辺り、それほど危険じゃないと思うから、まあ大丈夫でしょ」

「そうそう、その代わりと言ったらなんだけど、コレ。杏子ちゃんが作ってくれたクッキーね。杏子はあんな割には菓子作り得意で、ゲロ不味いってことはまずないだろうから、安心して美味しく頂いてくれ。」


 …おっふ。


 練習のし過ぎだったのか眩暈がしてきた。そのせいか、何時もなら信頼性十分の「じゃあ、明日の六時半辺りに食堂で集合ね」という言葉を最後に出て行った隊長の背中に、軽い殺意さえ覚えた。


 説明できないの分かってるんだったら杏子姉さんでも呼んで来いや!


 同じ気持ちを抱く同志がいないかと辺りを探すと、所長が刀を抱えながら消えて行った方角を涎を垂らしながら見つめる変態と、「はぁ、今日は残業かな。あの所長、殺した方が世の為になると思うんだけどな」と言っている社畜がいた。


 ぶっちゃけ紅里と前田さんだった。


「…僕、寝ても良いですかね。なんというか、トドメでも刺された気分です」

「何なら、俺がトドメ刺そっか?」

「謹んでお断りいたします」


 社畜にトドメ刺されるのは上司だけで十分だが。僕は、「じゃあ所長〆に行くわ~」と機械剣を腰に下げ、ちゃっかりクッキー食べながら歩いていく前田さんを見送ると、格納庫から布団を取り出して、適当に敷いた。


「おい涎垂らしてる変態。明日早いらしいんだから寝るぞ」

「いくら私が魅力的だからっていやらしいなんて言わないで下さいよ、マスター」

「今の僕の発言の何処に勘違いする要素あった?!」


 僕が射撃に熱中している間、木の机でだらしなく爆睡をしていた紅里は、どうやら寝ぼけてらしい。

 どうやらまた亀甲縛りをして欲しいらしい。


「あぁ、それとマスター。突然ですが、マスターのマスター呼びってどこが元ネタだと思います?」

「そりゃ、夢中症候群である僕の知識が元ネタだという認識は間違っているのだろうか?」

「ダンまちみたいに言わないでください。って、それは兎も角、多分Fateだと思いますよ。マスターって、一時期恐る恐る始めた名作ゲームで沼った引きこもりでしたから、そうじゃないですかね?」

「仮にそうであったとして、お前のクラスは何だ!」

「え?セイバー以外あると思ってるんですか?勿論、私がメインヒロインのルートですが、何か?」

「こんな英雄なんて嫌だ!」


 ハッ、しまった。僕としたことが紅里の口車に乗せられて、アニメ化が難しくなる程のメタ発言の嵐をかましてしまった。

 嚙ましてしまった?

 嚙ましてしまった!


「本題ですが、何で私って寝なくちゃいけないんですか?」


 お前は駄々を捏ねる小学生か、と言いかけた所で僕は思い留まる。紅里もそこまで精神年齢が幼いわけでもない。もしかしたら、自分は『夢』だから寝る必要はないのでは?という単なる疑問を聞いているのかもしれない。

 だが、僕がここまで思考のフラグを建てたのだ。一級フラグ回収士(そんなアホみたいな職業と資格はありません)である紅里は見事に回収してくれるのかもしれない。


「確かに。お前は『夢』だしな。睡眠の必要があるかないかは微妙なところだ。何なら、僕から隊長に聞いてみようか?」

「あ、いえいえ。そんな本気になって考えてくれなくて大丈夫ですよ。単に哲学対話したくて、それっぽい話題振っただけなので。マスターだって好きでしょう?哲学対話」

「少しでも真剣になってしまった数分前の自分を憎んだよ!」


 流石紅里!僕には思いつかなかった意味不明な理由を平然として言ってのける!だが、あえて言わせてもらうが、僕はそこに痺れねぇし憧れねぇし、むしろ使えるネタが減るんだから口を慎めこの野郎!

 僕の十三年間貯めてきたネタの貯蔵庫が!


「寝るぞ(意味深)マスター。ネタの貯蔵は十分か!」

「若干ニュアンスがおかしい単語がある気がするが、そんな事より何故お前はそんなにネタに縋り付く!」

「そんな提案だが断る」

「お前もう単に寝たくないだけだろ」


 そろそろ紅里の目的が時間稼ぎだと気づいた僕は、ぶつくさ不平不満を垂れる紅里を布団にぶち込み、僕自身もそのまま寝る…のではなく、汗水垂らした身に染みる熱いのシャワーを浴びてから、僕は布団に潜り込み、不安と好奇、そして幾分かの期待を抱えながら、寝た。




「おはようございますマスター。ここは軽トラの荷台のテントの中、あなたは生きているのが恥ずかしいぐらいのクソ野郎です」

「なるほど、ここは荷台のテントの中で、僕は生きているのが恥ずかしいくらいのクソ野郎・・・て信じると思うかバカが!」

「チッ。マスターのサボテンよりも低いIQなら金も巻き上げられると思ったけど無理か」

「お巡りさん、こいつです」


 仮にお巡りさんを呼んだとしても、逆に「年下の女の子に誘拐されて、お金巻き上げられかけるなんてあり得ないでしょ」で終わるのが関の山だろう。

 それは置いておいて


「なぁ紅里、なんで僕は、布団から起きたら走行中のガタガタ揺れる最悪に近い睡眠環境にあったんだ?」

「そりゃあ私が誘拐したからですよ」

「よし、警察署でもう一回言ってこい」


 やはり僕は誘拐されたらしい。それも、寝たまま。

 引きこもり時の人間疑心暗鬼期に戻りそうだからやめていただきたいのだがね。

 僕の心は水羊羹みずようかんより柔いんだ。


「で、本当はどうなんだ?僕は一体何をすれば良いんだ?」

「う〜ん。社会的な面から見れば、通報するのが最適解なんですけれども」

「どんどん自分の首絞めてんのわかんねぇのか?」


 確かに僕を誘拐したのが一寸も知らない赤の他人だったら通報するだろうけど。


 紅里だしなぁ。


 半身紅里が、よりにもよって僕を裏切るとは思わない。・・・無理心中とかの可能性は、流石に無いはず。

 無理心中とかという、IFルートから現実にシフトしてきそうな結果に遅すぎながらも気づき、若干冷や汗をかき始めた僕を置いて、紅里は語り始める。


「優しい私がマスターを叩いたり蹴ったり首を締めたりしても予定時刻に起きなかったので、美味しい朝飯だけ頂いてマスターは軽トラの荷台に突っ込んでおいた、と言ったところですかね」

「体中痛いのはそのせいかよ!」


 そうだよね。紅里に無理心中とかに走るような理由も緊張感も無いよね。と言うか、無理心中するんだったら僕を寝ている間に殺してるか。

 人を信用して無さすぎて嫌になる。


 閑話休題それはともかく


 僕の体中が痛いのは単に荷代で寝ていたからじゃないのかよ。確かに、普通に寝ていたらいた痛くならない部分が痛くはなっているが。


「今、この軽トラは何処に向かってるんだ?」

「それはで「私が説明するよー。紅里ちゃんだと相手が格下に思え過ぎるかもしれないしね!」分かりました!」

「もう可愛ければ何でもよく思えてきた」


 そう言いながら頭をテントの穴から突っ込んできたのは紅里姉さん…と、未だに僕に向ける目線が海を凍らせそうな寒さの颯斗君だ。

 最初に乗った時はいっぱいいっぱいで気づかなかったが、このテント冬場恐ろしい事になるな。

 氷像になるのはのび太君所有の猫型ロボットだけで十分だ。

 そう言えば、あれ面白かったよなー。


「何だか私達を置いて回想に浸っていそうなとこ悪いけど、依頼の詳細内容さっき電話で分かったから教えるね。あ、隊長にも部外秘らしいから言わないように」


「依頼人は中学校の女性教師で、依頼内容は「校内にいる男子生徒及び男性教師の様子がおかしい。それと同時期に女子生徒一名が崇拝のようなものをされ始めているので、その関連性を調べて欲しい」って事らしいね」


 要約すると、校内の男性の様子がおかしくなって、学内で宗教団体のようなものが生成されている、と。


 怖っ。

 依頼なんて出さずに自分で調べろや!


「それとだけど、私達に頼んだ理由としては、過去にこの関連性を調べようとした人達は次々に様子がおかしくなって、怖くなって手が出せなかったんだってさ」

「それどっちかって言うと、夢喰いの仕事じゃなくてゴーストバスターとかそういうのの領分では?」

「藁にもすがる思いって奴なんじゃないかな?まぁ、声音から結構精神的に参ってそうだったけど、藁に縋れないって事はちゃんと分かってる。だから、依頼主はよ」


 だから、で何故依頼主がそこまで危険ではないに直結するのか分からない。

 そもそも助けを求める側の依頼主に襲われる事なんてあるのか?それじゃあまるで、僕たちが悪いみたいじゃないか。


「いやぁ、偶にいるのよね。依頼が上手く進まなかったり、ちょっとでも理想の結末に沿わない結果になると、逆上して襲い掛かってくる人たち。そういうのは、元々精神状態が不安定な人たちが大半だから、今回の人は比較的安全だねって感じかな」


 えー…。自分から依頼を出しておいて、結果に沿わなかったら逆上するとか何様だよ。でも、確かに自分の力ではどうにも出来ないものがあればストレスは溜まるか。

 人間だれしもそうだと思うんだけど。


「まあ、不敬にも姉ちゃんと我に狂気を持って襲い掛かった輩は、全て我が返り討ちにしてくれたがな。八ッ、身の丈に合わぬ物事を無理に通そうとするからこうなるのだ、バカ共が」

「…確かに、そうかもしれないね。はやちゃん」


 颯斗君が最後、吐き捨てるかのように呟き、姉さんもその後は、しばらくの間黙り込んだ。僕らが知らない、だが、とても大事で、とても重い物語があるのだとは感じ取れた。

 紅里ですら、真剣な顔で黙り込んでいた。


「…ま!こんな暗い話はやめやめぇい!私達にはもっと楽しい未来が待ち受けているんだから、この依頼も、その未来のためのスパイスって考えちゃおう。空腹は最高のスパイスって言うでしょ?」

「そうですね!ちなみに、具体的にはどのような未来が?」

「まぁ、報酬使って焼肉は確定かな?」

「「「ヒャッハー!」」」


 先ほどの暗い空気から一転し、みんながヒーハーなヤンキーみたいな声(なんか一人おじさんが混じっていた気がry)を出し、各々の楽し気な未来を思い描く事1時間程。


 僕たちは、僕と紅里にとって忘れられない場所となる、初任務の中学校へと着いた。


「優斗、紅里。僕は、最初の任務に君たちを先達として教えてやれない自分を酷く恨むよ。だが、そんな僕から一つだけ先達としてのメッセージを送ろう」


「死ぬな、生きて必ず戻って来い」


 軽トラを下りて、窓ガラス沿いに見えた隊長の顔は、もう二度と同じ失敗は繰り返さないという、覚悟の決まりきった顔だった。


「隊長、僕らが死ぬのはあり得ませんよ?慢心じゃなくて、事実です」

「優斗、そういう気持ちの事を社会一般では慢心だと――――」

「だって僕には、姉さんや颯斗、紅里だって付いてるじゃないですか。隊長は、みんなの強さを疑うんですか?僕一人くらいなら、容易く守れるその強さを」


 僕だって分かってる。この依頼は隊長が僕たちに任せられると判断した上で任せているだろうと。だけど、だからと言って、気軽に任せたなんて、言えないのだ。


 多分、隊長は過去にそうして後悔したと思う。だから、こんな未来を恐れるような顔をしている。


 でも、だからこそ言う。


「もし僕が死ぬとして、それは何でですか?」

「それは、君が弱くて、圧倒的に経験不足だからだよ」

「非常に耳が痛い話ですけど、それはまあ、ありえないと思いますよ」

「僕はそうやって死んできた人たちを、何人も見てきた。それでも君はそう言うのかい?」


 本心をぶっちゃけると全く否定できませんが。


「一人なら兎も角、四人ですよ?それに、その道のプロ二人と核へ…紅里がいるんですよ。僕に足手まといの自覚はあるんですから、そんなに出しゃばって行動することはないから、安心してくださいよ」


 …そうかい


 隊長はそう言うと、「じゃあ、一緒に焼肉を食べに行く時を楽しみにしているよ」と言い残し、軽トラで去って行った。


「何というか、アレですね」

「懐かしい…って言っちゃあなんだけど、私と颯斗の時も本人ご同伴の上だったけどそうだったからね」

「「「心配性だ」」」


「我からすれば、隊長はそうあるべくしてそうあるという感じではあるがな」


 長々と名言(笑)のようなモノを語ってみたが、案外記憶には残らないモノなのだろうか。少し早めの中二病にかかった引きこもり時代に作った小説の一つで、自分でも「良いこと言ったな」という名言っぽいセリフを量産したが、今では殆ど覚えていないのと同じように。


 単純に僕の頭が悪いという可能性もあるが。


「そう言えばマスター、さっき私の事さらっと核兵器って言いかけましたよね?」

「ん?何のことだ?僕みたいな清らかな人間がそんな人を貶すような発言をするわけないじゃないか」

「どうせ『お前は夢だから人じゃない~』とか屁理屈言うんでしょう?」

「僕はお前に基本的人権と言うものを認めていない」

「想像していたのより断然酷かった!」


 僕らは、何が面白いのか分からないが、取り合えず笑った。口角が僅かに上がる程度の笑顔だが、それくらいでいい。僕には、それくらいで。


「じゃ、死なない程度に依頼完遂でもしましょうか!」

「「「おー!」」」


 こうして、僕らは歩き出した。




「ああ、来てくれて本当にありがとう。突然で申し訳ないのだけれど、君たちには制服を着てもらう」


 どうやら、僕はせっか中学校とおさらばしたというのに、また制服を着て登校しなければいけないらしい。

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