【09】
ソパムは整列した300名の部下たちの前に立った。
見渡すと全員の表情に緊張が漲っている。
彼はまず、先程ルンレヨ及びイヨンデュンから聞いた情報を全員に伝えると同時に、内部の危険レベルが当初の予想より遥かに上昇していることを、部下たちに再認識させる。
その上で自身及び所属分隊、そして部隊全体の安全を最優先する行動をとるよう、部下たちに強く命令した。
全員が彼の言葉に、コジェ星外軍正式礼で応える。
続いてルンレヨが全員の前に立った。
「これよりナジノ科学武官から、現在判明している基地内の状況についての説明があります。あなたたちの安全と密接に関係する事柄ですので、疑問の残らないよう積極的に質問しなさい。ではナジノ武官、始めなさい」
ルンレヨに促されて、ナジノは携帯用のタブレット端末を手に、前に進み出た。
「まずは基地内の管理制御システムの稼働状況について説明します。なにぶん到着してから間もないので、非常に限定的な情報ではありますし、ないよりはましという程度の内容ですので、そこは了承してもらいたい」
ナジノの物言いに、ソパムは彼を横目で睨んだが、本人は気にする様子もなく淡々と説明を続ける。
「基地内のすべての管理制御システムは、現在稼働していません。中枢部の機能に障害が発生し、機能がロックされたものと思われます。現在ギルガン武官がシステム中枢部にアクセスして修復作業を行っていますが、もう少し時間が必要と思われます」
ソパムはそう言って、倉庫内で作業に没頭している同僚に目を遣った。
その時、「発言します」と言って、サムソファが挙手した。
「システム修復には、あとどれくらいの時間がかかるのでしょうか。基地内のシステムが復旧してから探索を実施した方が、より安全性を確保しやすいと考えますが」
「復旧までの時間は、現在のところ確定できません。もちろんギルガン武官は最善を尽くしていますが、かなり深刻な障害が発生しているためです」
ナジノの回答を引き取って、ルンレヨが補足する。
「先程ソパム指揮官から説明があったように、基地内の状況はかなり切迫していると思われます。従って、システム復旧と並行しての探索実行を要求します」
ソパムは彼女の要求に、無言で肯いた。
その様子を見て、ナジノは説明を続ける。
「照明も他のシステム同様、この移動機器保管庫内と、もう一か所を除いて、すべてオフになっています。但し、末端からの操作で復旧可能ですので、基地内に入ったら優先的に照明をオンにするよう心掛けて下さい。照明の操作端末の位置は、部隊所有のデバイス端末に転送しておきます」
「もう一か所というのは?」
ソパムが即座に反応したが、ナジノはそれを制する。
「それについては、順を追って説明します。次に各区域、各個室の扉ですが、現時点ですべてロックされています。こちらも末端からの操作ですべて解除可能ですので、その都度開閉を行って下さい」
「扉の開閉時には、中にヨンクムドリや、他の脅威が存在するという前提で、細心の注意を払え」
ナジノの説明に、ソパムが命令を重ねる。
「それでは今から、基地内の各エリアの位置について解説します」
そう言いながらナジノが手に持ったタブレット端末を操作すると、右上部の空間に立体ホログラムが投影された。全員の注目がその映像に集まる。
「1階部分では、メインの通路が2本、中央で交差しています。そして通路を挟んで、4つのブロックに分けられています。そのうち手前左右のブロックが採掘した資源の保管スペースとなっています。奥左右のブロックは入植民の作業スペース及び各種機器類等の保管スペースです。そしてこの移動機器保管庫の扉から続く通路の突き当り部分に、駐留軍の駐屯基地及び各種装備の保管庫が設けられています。さらにその奥には、基地全体へのエネルギー供給プラントが設置されています。こちらの制御システムは、基地の管理制御システムから独立しており、現在基地全体へのエネルギー供給は支障なく行われていることが、既に確認されています」
ナジノはホログラムを操作しながら説明する。
「2階部分は、入植民の居住ブロックです。中央に飲食や娯楽を提供する共用スペースがあり、それを囲むように各入植民の居住スペースが設置されています。1階から2階へのステップは20か所ありますが、全て開放型ですので、上り下りは自由です。そして3階部分が、基地の中枢ブロックです。ここには基地内の管理制御システムが置かれ、基地司令を初めとする、基地の指導層が居住しています。2階から3階へのステップは2か所のみ。いずれもセキュリティ掛かった扉で防御されており、それに加えて常時駐留軍兵士2名によって出入りの管理が行われています。最後に、先程説明した、ここ以外にもう1か所照明がオンになっている箇所ですが、1階奥にある駐留軍の駐屯基地内にあるスペースのようです。」
「つまり駐留軍に生存者がいるということか?しかし3ミーゲル(1ミーゲル=0.73か月)もの間、食料なしで生きていられるだろうか?」
ソパムの疑問にナジノは推定を述べる。
「駐屯基地には、惑星内での遠征などに備えて、携帯用の保存食料の備蓄が相当数あると記録されています。星外軍支給の携帯食料の有効期間は、ソパム指揮官もご存じのように10ゴドル(1ゴドル=2.68年)と規定されていますので、食料の問題はないかと思います。しかし生存者がいるかどうかについては、あくまでもその可能性があるとしか言えませんね。さて。私からの説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
彼の言葉に全員が無言で応える。
それを質問なしと受け取ったナジノは、空中のホログラムを解除した後、ルンレヨの後ろに回った。
それを横目で見ながら、ソパムは部隊に対して命令を出す。
「1階の4ブロックと、駐留軍の駐屯基地については、各々50分隊ずつが探索に当たれ。サムソファは分隊長を集めて、担当分隊と区域を指示せよ」
ソパムの命令に、サムソファが正式礼で応える。
「内部でヨンクムドリを発見した場合は、即座に凍結措置をとること。1階の探索終了後は、中央部分に集合して、2階探索に備えよ。内部は既に戦場と考え、油断するな。各人進入準備に掛かれ」
続くソパムの命令に、部隊全員が正式礼で応えると、一斉に動き出した。
保管庫内が、その活気で満たされる。
彼らの動きを、ルンレヨたちが深刻な表情で見守っていた。
それから0.5サバル(1サバル=1.31時間)後、基地内に向かう扉の前に、進入部隊250名と留守部隊50名が整列した。それを見届けたソパムはサムソファに指令を出す。
「扉のロックを解除。続けて扉を開けろ。その際に内部の敵への対応体制を整えておけ」
指令を受けたサムソファは、指揮下の留守部隊に次々と指示を出す。
そして間もなく、ロックが解除され、扉が開き始めた。ヨンクムドリが隙間から溢れ出してくるような事態は起きなかったが、何故か基地内から淡黄色の霧が漏れ出してくる。
しかしソパムは躊躇せずに、命令を下した。
「速やかに進入開始。留守部隊は探索部隊侵入後、速やかに扉を閉めろ」
その命令に従って、部隊は整然と動き出すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます