【21】

戦艦チルトクローテ所属末端AIアーカイブ保管記録No********

記録開始:コジェ新歴*******

記録終了:コジェ新歴*******

記録者:ネッツピア派遣部隊所属ソパム8等級指揮官

記録概要:惑星ネッツピア原生生物ヒクシンとの交信記録


<記録詳細>

ソパム:交信を開始する

ヒクシン:了承、了承


ソパム:お前の名前は『ヒクシン』で間違いないか

ヒクシン:ヒクシン、個体識別記号、正しい


ソパム:それはお前の個体名か?あるいは種族名か?

ヒクシン:種族、理解不能


ソパム:お前と同じような個体が存在するか

ヒクシン:ヒクシン、唯一


ソパム:つまりお前は、この惑星で1個体しか存在しないということか

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:お前が我々を攻撃した理由は何か

ヒクシン:危険、我々


ソパム:我々の何が危険なのか

ヒクシン:新生物、危険


ソパム:新生物とは我々コジェム(コジェ人の総称)のことか

ヒクシン:誤り、認識、新生物、コジェム以外


ソパム:それは何か

ヒクシン:小生物、小生物


ソパム:何故その新生物が危険なのか

ヒクシン:異常、スクァ、異常、デュゥ


ソパム:スクァ、デュゥとは何か

ヒクシン:生物、ここ


ソパム:この惑星の生物が、小生物によって異常を来たしたということか

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:どのような異常が起きたのか

ヒクシン:異常、生物捕食


ソパム:他の生物を捕食するようになったということか

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:それはいつ頃始まったのか

ヒクシン:来た、コジェム、ここ、来た、新生物、ここ


ソパム:つまり我々がこの惑星に来る際に、新生物も同時にもたらしたということか

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:その新生物によって、従来の惑星生物に異常が発生したということか

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:新生物は今でも惑星上で活動しているのか

ヒクシン:増加、新生物、増加、危険


ソパム:質問を変える。お前は我々の1人を操作して、植民基地の扉を開けたか

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:扉を開けた目的は何だ

ヒクシン:必要、コジェム、排除


ソパム:我々をこの惑星から排除する目的ということか

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:何故、我々を排除するのか

ヒクシン:危険、コジェム、排除


ソパム:我々がこの惑星に、小生物を持ち込んだからか

ヒクシン:コジェム、危険、ここ


ソパム:我々自身が、この惑星にとって危険だという意味か

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:何故我々は危険なのだ。小生物以外にも危険があるのか

ヒクシン:破壊、ここ、コジェム


ソパム:我々がこの惑星を破壊しているということか

ヒクシン:正しい、認識


ソパム:お前はこの惑星の何なのだ

ヒクシン:唯一、ヒクシン、ここ


ソパム:お前はこの惑星で生まれたのか

ヒクシン:ヒクシン、デュゥ、小生物


ソパム:それはお前が、小生物によってデュゥから変化したという意味か

ヒクシン:正しい、認識


***

『限界だ。交信を一旦中止する』

『了承、了承』


***

チルトクローテ艦橋のオペレーションルームには、艦長のルクテロを始めとする主要メンバーが集合していた。

ソパムが同時記録している、惑星生物ヒクシンとの交信内容を確認するためだった。


ヒクシンとの交信には、かなりの集中を必要とするようで、ソパムは徐々に疲弊し始め、限界に達したところで、交信を中止した。

しかし短い交信の中でも、かなり重大な情報が得られていた。


ルクテロはソパムに休息を命じたが、万が一の事態に備えて、彼の拘束は解かなかった。

そしてオペレーションルームに集まった幹部隊員たちと、交信内容の検討を始める。


「ヒクシンが言う<小生物>は、<ミソ>を指すと思われます」

科学武官のルンレヨが、議論の口火を切った。


<ミソ>とは、微生物に対する生体防御機構として、コジェムが作成した人工の微生物で、コジェムの体構成物質との高い親和性を付与されていた。

また<ミソ>からは、変異原性が完全に除去されていたので、突然変異によってコジェムに危害を及ぼす可能性がないことが、AIによって確認されていた。


そして<ミソ>の最大の特徴は、他の微生物に対する絶対的優位性であった。

<ミソ>は自身のテリトリーを侵犯する他の微生物に対して、圧倒的な捕食力を持って制圧する能力を付与されていたのだ。


その結果、コジェムは<ミソ>との共生によって、他の微生物に対する、完璧と言える防御機構を獲得することができたのだ。

この機構は、ネッツピアに存在する微小生物にも有効であることが、植民前の調査段階で確認されていた。


その<ミソ>が、ネッツピアの原生動物たちに悪影響を及ぼして、他の生物を捕食する性質を付与したというのだ。

その結果、ネッツピア入植民たちが襲撃され、2名の生存者を残して、全滅させられたのだ。


「<ミソ>については、常時形質がオートモニタリングされているはずです。何か変化が認められていますか?」

ルクテロの質問に対して、ルンレヨが答える。

「いえ、艦内及び周辺の<ミソ>については、形質変化などの結果は出ておりません」


「では、<ミソ>によって、この惑星の生物が変質した原因は、何だと考えられますか」

「それにつきましては、検討が必要です。しかし<ミソ>自体に変化がなくても、惑星生物の形質変化に作用したことは、可能性として十分考えられます」


「つまり我々が持ち込んだ<ミソ>が、偶然この惑星の生物との相性によって、形質を変化させてしまったということですか。最悪の結果ですね」

ルクテロはそう言って考え込んだ。


その時オペレーションルームに、緊急連絡が入ってきた。

「ルクテロ指令。<ソミョル>設置地点の偵察隊から、緊急通信が入っております」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る