【06】
ソパム率いるコジェム星外軍重装備部隊は、4機の輸送機に分乗し、ネッツピアにある植民基幹基地を目指していた。
念のためにということで、2機の戦闘機が護衛についている。
部隊の人数に対して、4機による輸送はかなり余裕のある編成だったのだが、現地に要救助者がいた場合への配慮だった。
輸送機がネッツピアの大気圏に入り、水平飛行に移った時、ソパムは漫然と輸送機の外に広がる風景を見ていた。
ネッツピアは、<霧の星>と呼ばれるように、大地全体を淡黄色の蒸気が包んでいる星だった。
ネッツピアの地上には水系がなく、地中から湧き出す蒸気によって、生物がはぐくまれていることが、初期調査で報告されていた。
大地から湧き出るその黄色い靄の中から、背の高い植物や、植物に覆われた山らしき突起があちこちで顔を出している。
その風景はある意味幻想的で、ソパムを含む隊員たちが初めて目にするものだった。
今回の遠征に参加したソパムの麾下は、コジェ星外軍の中でも精鋭中の精鋭とされていたが、中には他星での活動が初めてという者も、若干ではあるが混じっていた。
それら経験の浅い兵たちからは、かなりの緊張が伝わってくる。
もちろんヴェテラン兵にも緊張がない訳ではない。
特に今回は、現地の状況が殆ど不明のままでの出動だったため、常にない緊張感が部隊全体を包んでいたのだ。
水平飛行に移ってから2サバル(1サバル=1.31時間)後、護衛機から通信が入る。
「前方に基幹基地確認。護衛機は周辺の探索飛行を行います。輸送機はそのまま上空で待機されたし」
その通信を聞いたソパムは、部隊の専用通信回線を使って指令を出した。
「全員着陸に備えて待機せよ。着陸後は、各輸送機周辺に展開して次の指令を待て。着陸に際しては、各機、外部の状況を慎重に確認した上で、外部に展開すること。以上」
その指令を受けて、機内にさらなる緊張が走った。
暫くして護衛機から次の通信が入った。
「基地周辺、半径5コーネ(1コーネ=0.91キロメートル)内に、現状で異常は確認されません。輸送機は基地周辺の指定区域に着陸されたし。護衛機は引き続き周辺の警戒にあたります」
その通信を受けてソパムが即座に指令を出す。
「全機、指定区域に着陸せよ。着陸後パイロットは、指令があるまで離陸体制をとったまま待機。乗員は装備を最終点検し、先程の指令通り、機外への展開に備えよ」
兵士たちは指令に従い、自身の装備の最終点検を始める。
間もなく乗機が着地する振動が、機内に伝わって来た。
「各自、自席の安全システム解除。パイロットは乗降扉を開放せよ。乗降扉解放後、最寄りの分隊より降機。先頭分隊による安全確認後、順次機外に展開せよ」
ソパムは部隊専用通信を使って、続けざまに指令を発する。
指令を受けた部下たちは、機敏な動作で行動を開始した。
先頭分隊が機から降りて周辺の安全確認を行った後、続々と機外へと展開する部隊の最後尾で、ソパムはネッツピアの大地を踏んだ。
部下たちは彼の指令通り、輸送機周辺に展開して警戒態勢に入っている。
彼らの周囲を淡黄色の霧が包んでいた。
そのせいで視界は悪く、基地周辺の森林の様子を目視で確認することは出来なかった。
しかし警戒機器が周辺に異常を感知していなかったため、ソパムは次の行動に移ることを決断した。
「これより探索行動に入る。今後も必ず分隊5名単位で行動しろ。各分隊長は、専用通信を常時オンにして、異常を認識した場合には即座に報告せよ。各人、携行する火器の安全装置を解除し、事態に即応できる体制を採れ。ただしむやみに発砲することは禁止する」
ここまで一気に指令を出したソパムは、部下たちの出動態勢が整うのを待った。そして体制が整ったことを確認すると、次の指令を発する。
「第1分隊から第10分隊は基地内の探索に当たる。第1分隊から基地内への進入を開始し、進入後はその場で内部への警戒態勢を敷いたまま待機せよ。残りの10分隊は基地外の警戒に当たれ。俺は基地内の探索に同行するので、基地外の部隊指揮は、副官に委任する。サムソファ、よいか」
ソパムの隣に立つサムソファが、コジェ星外軍正式礼でその指令に応える。
彼女は長年ソパムを支えてきた、最も信頼の厚い部下だった。
等級はソパムと同じ8等級であったが、彼が何故か昇級を拒んでいることを知っており、上官としてだけではなく、階級上も上の指揮官として彼に接していた。
「各隊、行動開始」
ソパムの号令の下、部下たちは一斉に行動を開始した。
第1分隊の5名が、基幹基地の扉に接近すると、機器を接続してロックを解除する。そして開扉システムを操作して、頑丈な造りの扉を開け、基地内へと進入した。暫くして1名の隊員が外に出てくると、
「扉内、異常ありません」
と、ソパムに報告する。それを受けてソパムは、全探索隊の基地内進入を命令した。
命令に従って、部隊は続々と基地内に入り、ソパムは最後尾からそれに続いた。彼らと共に、淡黄色の霧も基地内に入っていく。
基地内は照明が落ちていて、薄暗い空間に、兵士たちが身に着けている携行照明の灯りが交錯している。
ソパムは照明のスウィッチを探して、オンにするよう命じた。
暫くしてスウィッチが探し当てられたらしく、内部は一気に明るくなる。そして基地内の状況が明らかになった。
ソパムたちが現在いる場所は、陸上移動機器の格納庫らしく、広い空間の両側に、大小様々な機器が整列していた。しかしそこには人の気配がない。
ソパムは部下たちに、各車両の内部の確認を命じる。命令を受けた兵士たちは、分隊毎にそれぞれの方向に散っていった。
やがて保管庫奥から、
「ソパム指揮官」
と呼ぶ声がする。
ソパムがその声の方に移動すると、大型の移動機器の前で直立していた兵士が、
「内部に異変があります。ご確認下さい」
と、緊張した声で報告した。
その声色が、内部で起こっている事態の異常さを物語っている。
ソパムは躊躇なく、開け放たれた機器の扉から、内部を覗いた。
そこには変わり果てた同胞の姿があった。
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