【12】

戦艦チルトクローテが惑星ネッツピアへの着陸準備を行っている頃。

ネッツピアの植民基幹基地では、ソパム率いる部隊が、基地内の探索再開準備に追われていた。


多くの死傷者を出したクァンジョン麾下の基地外警戒部隊は、探索部隊50名と合流して移動機器保管庫の警備と、負傷者の治療補助に当たることとなった。

部隊の指揮はサムソファに代わって、クァンジョンの副官だったユラック8等級指揮官が執ることになる。

彼自身もヨランゲタリとの戦闘で負傷していたからだ。


ソパムは100名の部下を率いて、基地の1階奥、駐留軍駐屯ブロックの探索に当たり、サムソファは残りの150名を率いて2階の住民居住ブロックと、3階の中枢ブロックの探索を担当することとなった。


部隊が出発する時点では、ギルガン科学武官の懸命の作業によって、基地の管理制御システムが復旧されていた。

しかし探索部隊の安全確保のため、基地内の照明及び排気システムなどの内部環境制御システムのみを稼働させることとし、扉の開閉はその都度、末端操作で行うこととなった。


そして部隊は基地外での戦闘経験を踏まえ、重火器の携行を余儀なくされた。

そのことが兵士たちの緊張感をいやが上にも高める。

基地外での戦闘は、コジェ星外軍史上例を見ない数の死傷者を出していたからだ。

自分たちが容易ならざる敵を相手にしており、さらに未知なる脅威が存在するかも知れないという不安が、彼ら全員の脳裏に浮かんでいた。


「これまで以上の緊張感をもって任務に臨め。決して油断せず、いかなる状況でも、互いに助け合いながら対処しろ。いいか」

ソパムの檄に、整列した兵士全員がコジェ星外軍正式礼で応える。

それを見届けたソパムは、基地内侵入を命じた。

「サムソファ隊から侵入開始。1階探索隊は、俺の命令を待て」


命令を受けて、部隊が整然と動き出す。

扉が解放され、150名が続々と基地内に入って行った。

最後尾のサムソファが振り返ってソパムに目礼し、扉の向こうに消えた。


それを見届けたソパムは、続けて自身が率いる部隊に命令する。

「1階探索部隊は侵入開始。通路奥の駐屯ブロック扉前で待機。行け」

彼の命令に麾下は一斉に動き出した。

そしてソパムも部隊の最後尾から基地内に入る。


広い通路をまっすぐに進んだソパムは、駐屯ブロック扉前に2列で整列した兵士たちの間を通り、シルバーメタルの大きな扉の前に立った。

「扉のロックを解除しろ。先頭部隊は進入準備」

彼の命令で、即座にロックが解除され、先発の5分隊が中型火器を構えて侵入に備える。


「開扉」

ソパムの短い命令に、開閉システムが操作され、静かに扉が開いた。

間髪入れず5分隊が戦闘態勢をとったまま侵入し、扉の向こうで即座に迎撃シフトを敷く。

そして後続部隊が、続々とブロック内に侵入した。


最後に入ったソパムは、ゆっくりと内部を見まわした。

駐屯ブロック内は静まり返っていた。

中央には部隊整列のための広いスペースが設けられており、左右と正面に2階建ての建物があった。

事前情報では左右の建物が兵舎、正面が駐留軍指令部である。


中央のスペースには植民基地ブロック内と同様に、兵士や入植民の死体があちこちに横たわっていた。

そして5体のヨランゲタリの死体も散在している。

入植民たちはヨランゲタリに追われて逃げ込んだと思われるが、その死体は、やはりヨンクムドリによって食い荒らされていた。

ソパムは、まだ死なずに蠢いているヨンクムドリの凍結措置を、部下たちに命じた。


ソパムは考える。

ネッツピア駐留軍は指揮官5名と兵員200名の構成で、規模としては適正であった。それだけの規模の軍を全滅させる状況とは、一体どのようなものだったのだろう。

ギルガンによると、基地の管理制御システム復旧により、その当時の状況を記録した映像も閲覧が可能になっているということだった。

彼らがその画像の解析を行うことになるのだろうが、やはり戦闘部隊の指揮官としては気にかかることであった。


中央スペース内の探索と、ヨンクムドリの凍結措置が完了したことを確認したソパムは、部隊を3チームに分け、左右と正面の建物内の探索に当たらせることにした。

左右の弊社は各7分隊35名ずつ、そして正面は彼自身が率いる30名が探索を行う。

ソパムの指揮の元、兵士たちは一斉に動き出す。


30名を率いて司令部棟に入ったソパムは、凄惨な光景を目にすることになった。

通路には、足の踏み場もないほど兵士たちの死骸が散乱しており、ことごとくヨンクムドリに食い荒らされている。

壁には兵士たちが発射した火器の痕跡と共に、あちこちに大きく抉られたような疵が刻まれていた。


おそらくヨランゲタリの最大肢によってつけられたものだろう。

兵士たちはヨランゲタリによって殺傷された後、ヨンクムドリに食われたということになる。

まるで知能のない2種類の原生動物が、連携して襲ってきているようだ。


ソパムは30人をさらに15人ずつの部隊に分け、1階の各スペースと2階の探索に当たらせることにした。

2階の探索部隊は、昇降ステップを駆け上がって行き、1階の部隊は分隊毎に各部屋の探索を開始する。

「ソパム指揮官!!」

暫くすると、2階から緊張した部下の声が聞こえた。


ソパムはステップに散乱する兵士たちの死体を避けながら、急いで2階に駆け上がる。

すると通路奥の部屋の扉が開いており、その前に立った兵士たちが立っていた。

ソパムが近づくと、部下たちは道を開けて彼を部屋の前に導く。


ソパムが部屋の中を見ると、2人の兵士が立ち上がってこちらを見ている。

1人は下級指揮官のようだ。

その男がソパムに向かって言った。

「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」


その態度と物言いは不遜で、自分より上級の指揮官に対するものではなかった。

もう1人は兵士のようで、何かに怯えるように無言でこちらを見ている。

「俺はソパム8等級指揮官だ。名前と階級を申告せよ」

ソパムの命令に指揮官らしい男は少し鼻白んだようだが、

「ウジョン駐留軍指揮官だ。等級は10等級」

と、傲慢な物言いで申告する。一方兵士の方は、

「ビャンヒョン15等級兵士であります」

と言って、ソパムに向かい、媚びるような目つきをした。


「2名から事情聴取を行うので、移動機器保管庫まで連行しろ」

ソパムは2人のその態度に不信感を覚え、部下に命令した。

ウジョンがそれに即座に反発する。

「連行とはどういうことだ。俺たちは、3ミーゲル(1ミーゲル=0.73か月)もの間、ここに閉じ込められて、救援を待っていたんだぞ!」


「俺は今回の派遣部隊指令から、探索に関する全責任と権限を持たされている。抵抗する場合は、拘束して連行することになるぞ」

ソパムはウジョンを睨んで、そう宣言すると、部下に命じて2人を連行させた。

その後姿を見ながら、彼の心に言い知れない不快感が沸き起こって来た。

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