第15話 旅立ち

「なあグラド…もうちょっと兄さんと一緒にいてくれてもいいんだぞ…?」


家の跡継ぎライフ兄さんは若干ブラコンが入っているらしい。


「まあ、兄さん。グラドならきっと大丈夫だ。ね?グラド?」


頼りがいのあるイケメンになったアバン兄さんが言う。


「立派になったなグラド…」


父さんは今にも泣き出しそうだ。


「グラドがこれからどんなふうに育つのか楽しみですね。ただ顔をたまには見せに来てくださいね?」


母さんは静かに、ただ少し寂しそうに言う。


「それじゃ、俺の番だな!ほら、やるよ。」


騎士団長は布で巻かれた剣のようなものを手渡してくれた。

布を取ると、豪華すぎず、それでいて単調すぎない、刀身を見るまでもなく良い剣だとわかった。

長さは今の僕には少し長いが、成長とともにぴったりになりそうだ。


「流石にサイズの調整はできないらしいが、面白い機能がある。それを抜いてみろ。」


言われた通り抜くと、柄頭の部分にはまっている水晶玉のようなものが薄い青紫色に変わった。

きれいで、僕がこの世界で何度も見た慣れ親しんだ色。


「これは?」

「所有者の限定だそうだ。初めに抜いたやつ以外は握れないらしい。…ほらな?」


歩み寄り、柄を握ろうとする団長。

磁石が反発するように距離が縮まらなかった。


「ありがとうございます!こんないい剣を…」

「大丈夫だ。お前から預かった金は多少残しているからな。」


もうそんなことなんて当たり前すぎて忘れていた。

途中から「グラドの分は預かっておく。」とだけ言われて渡されもしなかったし。


「ところで、この剣の名前は?」

「いや、まだないらしい。然るべきときにお前がつけてやれ。」


そんな名付け方があるんだな。知らなかった。

まあ今のところこいつを一言で表せられる言葉が見つからない。

今ではないんだろうな。


「魔力の通りがめちゃくちゃいいらしいから魔力で操ることだって身体強化ものる。身体なのかは別としてな。」


やはり素晴らしい剣だ。ただ、


「駆け出し冒険者が持つにしては目立ちすぎません?」

「それは…確かに…」

「締まらないですね団長…」

「うるさいぞハンク。」

「じゃあグラド。向こうでも頑張ってこいよ。また試合しような。」


アバン兄さんと同い年、しかしタイプの違うイケメンになったハンクは言う。

巷ではどちら派かということで日夜議論が交わされているらしい…


「それじゃ、行ってきます!」


「「「「「「いってらっしゃい!」」」」」」


みんなの声を受けながら、乗合馬車に飛び乗る。

ああ、王都に行ったらまずは冒険者の二人に会いたいな。

朝日も出てきて、紫に染まる空の中、新天地に胸を膨らませる。


異世界に来てから十一年、僕はこの街を飛び出した。

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