第2話 属性

「もう一度、かざしてくれるかい?」


アバン兄さんの言う通りにもう一度かざす。

さっきと同じように水晶の中には薄い青紫のモヤが出ている。

なにかおかしなことでもあるのかとアバン兄さんと神父さんを見るとどちらも眉間にシワを寄せ、難しい顔をしている。


「君はなんというのかね?」

「ぐらどです。」

「よし。グラドくん。君の属性は『無』だ。」


神父さんは言う。

属性が『無』、つまり僕は無属性らしい。

無属性といえば抜群の汎用性。身体強化も無属性だろうか。

夢が広がっていく。

バリアを張ったりものを飛ばしたり衝撃波も出せるのだろうか。

ただ、無属性に関する魔法の情報は本になかったような気がする。


「あまり気を落とさないでね。無属性でも使える魔法はあるはずだから。」



「魔法一本で戦うのは相当な訓練が必要でしょうなぁ。」

「幸い魔力はそれなりにあるし訓練で更に伸ばせる。」



「むぞくせいってからだをきょうかできないんですか?」

「いや…できるけどどちらかといえば技術だよ。」

「かべをつくったりは?」

「土属性なら聞いたことがあるけど…」


いまいち話が噛み合わない。


「むぞくせいはぞくせいのひとつなのですよね?」

「いや……」

「私が言いましょう。グラドくん。無属性は属性が無いという意味です。」


えっ


「そ、そうですか…」

「グラド、属性とはなにかわかるか?」

「ほんでよんだのでしってます!」


この世界における属性とは魔力を通すフィルターのようなものだ。

おおまかに炎、水、風、土の四種で、体内に宿る魔力を外に放出するときに、体の属性によって効果が変わる。

炎属性なら炎が出るし、水属性なら水が出る。

そして体外に出した魔力を操作することで魔法になる。

稀に二つの属性を生まれ持つ人もいるようだが、その人達は魔法を使うのにかなりの魔力を使うので苦労するらしい。

見習い魔法使い用の本にはそう書いてあった。


「そうか。ちゃんと勉強してて偉いな。グラドにはその属性がないんだ。」

「はい…」

「ただ魔力が出せないわけじゃないんだろう?このまま魔法使いになることだってできる。だけど使い手が少なすぎる。ほとんど独学になっちゃうけどそれでもいいかい?」

「うーんと…」

「まあすぐには難しいか。帰って父さんに相談しよう。」


__________


「なに?グラドは無属性だったのか?」

「はい。珍しいですがいないわけじゃありません。ただ無属性の魔法使いなどはいるのでしょうか。」

「いや…聞いたことがないな。無属性はイメージが掴みづらいらしいからな。それも関係しているのだろう。」


この世界の魔法は術に沿って正確に作動するシステム的なものではなく、イメージが物を言うタイプだ。炎を例に上げると、3メートル先ぐらいに高い炎の柱を作ろうと思い魔力を操作する感じ。プログラムより粘土あそびの方が近いかもしれない。

ただ大体は体系化されており、誰かの魔法を見て、真似て、教えてもらってという感じで修行を積むらしい。

そして属性がない場合は出せるのは魔力のみ。魔力のみでどうイメージしろとといった感じなので使い手もいないのだろう。


「とうさん。ぼくにまほうをおしえてくれませんか?」


だけど、この程度で諦める訳にはいかない。


「もちろんいいが、私の属性は風だぞ?使い勝手もかなり違うだろう。」

「それでもです。」


貴族の三男、魔法のある世界、珍しい無属性。

無個性な自分を変えるなら今しかない。




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