無個性男、無属性に転生する。
レモンの幹
第1話 転生
「はぁ…」
これといった個性のない僕、田中太郎はため息をつく。
見た目はいいとこ中の上、テストは平均ちょっと上。
運動がよくできるわけでもなく、趣味もラノベとゲームぐらい。
メガネもかけていないし射撃が上手なわけでもない。
強いて言うなら発想力が強みだ。
だがそれを実現するだけの力はない。
「はぁ…」
ため息をつく。
夕暮れの中、たった1人で住んでいる家が見えてくる。
その時、
ドンッ
自分と同じぐらいの重さのものに勢いよくぶつかられた。
すぐにやってくる燃えるような痛み。
最後に見たのは赤色の水たまりと血の滴るナイフだった。
__________
結局自分は無個性のまま変われなかった。
親のいない自分を支えてくれた人たちに感謝も言えず終い。
そういえばあの人達は『太郎くんは無個性じゃない。』って言ってくれたっけな。
僕はそれにあぐらをかいていたのかもしれない。
暗闇が目の前に広がる中、後悔ばかりが出てくる。
「うむ。グラドは寝てるな。」
?
男の声が聞こえる。
誰のことだろうか。
「貴族にしてはそれほど裕福でもない家に生まれてきてしまったことを後悔しないといいのだが…」
「あなたったらいつも通りその図体に見合わない心配性なんですね。」
女の声も近くから聞こえる。
そういえば揺らされているような感覚がさっきからしている。
「いや、しかし最近の世の中ではそういう子供もいるという話ではないか…」
「この子がそうであるという確証はないですし、私達がそういった子にならないように教えてあげればいいだけのことではないですか。」
「うむ…」
「実際上の二人もそんな様子はないでしょう?」
「確かにそうだが…」
少しずつ目が開くようになってくる。
「ほら、あなたが心配しすぎるからグラドも起きてしまったではないですか。」
目に入ってくるのはぼやけたものだったが、こちらを覗き込んでくる2つの顔。
ああ間違いない。
僕は転生したらしい。
__________
転生したと気づいてから三年、三歳になった僕は、兄でネフォーク男爵家次男のアバンに連れられ、教会に来ていた。
父親のロリアスは執務で忙しい。
母親のサラは家事を手伝っている。
長男のライフは貴族学校に僕が一歳とちょっとのときに入学した。
「どうしたグラド。怖くなった?」
「いや、そんなことないです。」
「そう。ならいいけど。」
アバン兄さんは一言でいうと優男イケメンである。
領地はライフ兄さんが継ぐため、アバン兄さんは騎士として訓練を積み、ネフォーク領を守るのが目標だとか。
金髪碧眼のイケメン兄と教会に来たのは、魔法の訓練をするのに『属性』を見るためである。
実はこの世界、魔法というのが当たり前にあって、貴族ではなくとも生活の中で魔法が使われている。
そして魔法の世界の例に漏れず魔物も生息しており、魔物を狩る冒険者も存在する。
魔法がこの世界にあると知った瞬間から使いたいと言い続けてきてようやくチャンスが巡ってきたのだ。
ガチャッ
「おおアバンくん。弟くんの属性を見に来たんだろう?」
「そうです。この子が使いたいってずっと言うもんでして。」
「はっはっは。いいことじゃないか。魔法は生活を豊かにしてくれるからな。」
「すみません。ぼくのぞくせいがしりたいです。」
「おおそうだったな。にしても小さいのに君は言葉がうまいねぇ。さっ、この水晶に手をかざしてくれるかい?」
神父さんに言われるまま手を水晶にかざす。
すると薄い青紫のモヤが球の中心に出てきた
「っ…!」
アバン兄さんの息を呑む音が聞こえた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます