第13話 幸運
ガキンッ
ドガッッ
ザシュッ
「さっさと殺してグラドを助けなきゃ、ねぇっ”!」
「ああ!そうだっ、な!」
息も切れかけのサックとルドー。
「うおぉぉぉぉぉっ!」
声を荒げ、剣を振る兄さん。
「ハァッ!グッッ!」
傷が深いのか、苦悶の声を上げながら戦うハンク。
ぼやけた視界でそれを見ながら、考える。
ああ、僕はこの世界でも人に恵まれたのか。
前世の父と母は社交的な人だった。
明るく、それでいて優しい。
近所の人にも好かれていたが、僕が高校に上る直前、交通事故で二人とも死んでしまった。
それからは親戚、近所の人、高校の先生に支えられて生きてきた。
だけど、前世では恩返しができていない。
僕が強くなったら、今世では恩返しができると考えて、個性を、強さを求めていたのかもしれない。
だけど、このざまだ。
「諦めるには早いがな。ガキ。」
団長が目の前に立っている。
「今なら俺がゴブリンを殺してもいい。どうする?」
団長も人が悪い。
そんなことを言われたら。
また立ち上がらざるを得ない。
「なら、行くといい。」
ああ、やっぱり僕は運がいい。
使っていた剣は折れている。
もうこいつらは使えない
懐かしさすら感じる短剣状の魔弾を二本作り出す。
身体強化をまた全力で回す。
だが、足がふらついてしまう。
即興で脚全体を補強するように密度を高めた魔力で覆っておく。
残量的にももって二分、戦えばもっと少なくなる。
なら速攻しかない。
左手の短剣を手に持ったまま射出し、最速でゴブリンに近づいていく。
勢いのまま顔を突こうとしたが間一髪で突き自体は躱されてしまう。だがそれはわかっている。そのまま脚にまとった魔力を剣状に伸ばし、魔法を射出する要領で蹴りつける。
ザンッッッ
浅くない傷を顔につける事ができた。
右手の短剣を魔力操作で空中に固定し、空中で反転。
後頭部を狙い、魔槍を放つ!
ドパァンッッッッ
轟音を立て飛んでいく魔槍。
ゴブリンの左肩をえぐり取り、骨を露出させる。
これで左手は使えない。
ならあの丸太攻撃も来ることはない!
予想通り丸太を兄さんたちの方向に投げ、振り返るゴブリン。
濃度を透けない程度に高めた魔壁を使い、相手の目を遮る。
もう一度魔壁を生成。しかし、今回は丸い。
イメージは前世の電動のこぎり。
丸いのこぎりの刃を高速回転!
キィィィィィィィィィィンンッッッッッ
空気と擦れ、高い音を鳴らす魔壁、いや、『魔斬』を前に放つ!
バリィィィン
ガラスのような音を立て目隠しが割れる。
ゴブリンの眉間に吸い込まれるように飛んでいった刃。
「ハハハッ」
ゴブリンの首を刈り取り、魔斬は消え去った。
最後に見せたゴブリンの間抜け面が、妙に笑えた。
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