第9話 報酬

兄さんたちから発せられたのは心配の声だった。


「どうしたんだグラド!」

「少しゴブリンと戦いまして…」


それを聞いた途端、兄さんとハンクの顔が渋る。


「ほうら俺の行ったとおりだ!グラドはもうゴブリンぐらいには負けないんだよ!」


そう言って笑ってみせた団長。


「ゴブリンに勝ったんだろう?討伐報酬がグラドの分も出せるぞ。」


また団長が笑う。


「はぁ…まあ、何はともあれ生きていてくれてよかった。ほら、ハンカチだよ。血を拭いておきな。」


グラド兄さんから渡されたハンカチで血を拭いつつ、森から街へと帰っていった。

道中、視線をやけに感じたが、ゴブリンの襲撃はなかった。


__________


家に帰り、両親にも心配されたが生きて帰ってきてくれたことを喜んでくれていた。

次の日、


「よし。グラド!お前の番だ。」


みんなが報酬の入った袋を渡される中、僕も前へと出る。


「よく頑張ったな。」


団長から手渡しで受け取った袋には、銀貨が十枚ほど入っていた。

この世界は鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨、黒金貨の六種類の貨幣があり、下から十円、百円、千円、一万円、十万円、百万円の価値がある。

一万円ほどの報酬だが、ゴブリン一匹の相場は銀貨一枚程度だ。


「これ、流石に多すぎませんか?」

「ああ。先行投資だ。大人しくもらっておけ。」

「あ、ありがとうございます…」


突如として大金を得た僕だったが、買うものがない。

武器は騎士団支給のもので間に合っているし、その他に使うものも思いつかない。

どうしようかと彷徨っている僕を見て、


「どうしたんだ?使う当てがないなら俺が預かることもできるぞ。」


団長が言う。

前世におけるお年玉問題みたいなことだろうか。


「そうします。」


別に使われても問題ない僕は、団長の提案に乗った。


「そうか。ありがとうな。」


いたずら好きな子供のような顔をして、団長は言う。

流石にないよね…?


__________


街の端にある小さな鍛冶屋。

金属を打つ音、炉の熱気が外まで伝わってくる小屋に、ネフォーク領騎士団長、ゴードンは居た。


「よう爺さん。やってるか?」

「見たらわかるじゃろう。やってないぞ。」

「見るからに営業中だな。」

「それで?世間話をしに来たのか?」

「いいや、今日は注文だ。片手剣を作って欲しい。」

「お主用か?」

「違う。将来有望な若者のためだ。」


街の角で小さな鍛冶屋をやっているドワーフ、ゴルドラはゴードンの注文を聞くと、


「高すぎやしないか?ガキに持たせる分なら鋼でも身に余る。格を落としていいと思うぞ。」

「いや、いいんだ。あいつはいずれその剣に見合うだけの男になる。」

「本当かぁ?お主の目は信用しているが流石に今回は…」

「そんな話はいいんだ。値段と期間は?」


しばらく悩み、ゴルドラはゆっくりと口を開く。


「…黒金貨三十枚と少しだ、制作期間はどれだけ早く集まるかにもよるが早くて数年。素材の相場にも影響を鑑みて金額は少し多めに見積もった。」

「そんなものか。もっとすると思ったんだが…」


ゴードンは近くにあった台にとてつもなく大きい革袋を置いた。

大きな音を立てた袋はかなりの重さがある。


「両替ぐらいしてくれんかのう…」

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