第41話 目いっぱいの祝福を その①
※
生徒会室では、会長があの社長椅子に座って僕らを待ち構えていた。もちろんその傍らには鈴仙さんも立っている。
鈴仙さんの顔を見た瞬間に嫌な汗が背中を伝ったが、向こうは僕のことに気が付いていないようで安心した。
「さて。部の立ち上げには五人の部員が必要だが、どうかな? 集まったかな?」
「……いえ、会長。集まりませんでした」
「集まらなかった⁉」
僕が言うと、会長は素っ頓狂な声をあげながらこちらに身を乗り出した。
「はい、集まりませんでした。ですから、今日は入部届を貰いに来ました。どこかの部に入らないと留年なんですよね?」
「いやまあ、それはそうなんだけど……なあ宇津呂君、まだ誘っていない生徒がいるんじゃないか?」
「いないと思います。会長のメモに書かれていた生徒は全員勧誘しましたし、残っているのはもう別の部活か委員会に入っている人ばかりですよ」
「既に部活や委員会に所属していても、兼部することはできるぞ」
何が言いたいんだろう、この人。
僕をからかっているんだろうか。
「今更そんなことを言われてももうどうしようもありません。期日までに入部希望者が集まらなかった、それだけです」
「そうか。……では、君たちに入部届を渡す前に生徒会長として言っておかなければならないことがある」
「なんでしょう」
「先日の昇降口での一件だ。いくら部員勧誘のためとはいえ、学校の規律を乱すようなことをしてもらっては困る。生徒指導の先生には私から口利きして不問にしてもらったが、二度目はないからな」
「……すみませんでした」
土下座とはいかないまでも、僕は深く頭を下げた。
そんな僕に、会長の声が飛んでくる。
「というわけでだ。君たちは学園の要注意人物として我々生徒会の監視が必要と考えた。よってこの私、七橋奈奈美が君たちの団体に監視役として就任することとなった」
「え?」
思わず僕は声を上げていた。
会長がしてやったりとでも言いたげな笑みを浮かべる。
「おや? これで君たちの団体は五名になったな。ふむ、部活設立の条件を満たしたというわけだ」
いや、でも、まさか、そんな。
「もしかして……会長、あなたが僕らの部活に入ってくれると言うんですか?」
「もしかしなくてもその通りだ! 困ったら相談してくれと言っておいただろう? わっはっはっは」
上半身を仰け反らせながら高らかに笑う会長。
完全に盲点だった。
「それならそうと言ってくださいよ。普通は思いつきませんよ、生徒会長が僕らの部活に入ってくれるなんて」
「そうか? まあ、肩書はともかくこれで私も君たちの一員だ。よろしく頼むよ。あ、それから」
「それから?」
会長は僕ではなく、僕の後ろに並ぶ橘さんを見ていた。
なんだろう?
「……いや、これは言わないでおこう」
「え、気になるじゃないですか」
「気にするな。それより、申請書を出してくれ。私もサインしよう」
「え? ああ、はい」
僕は懐から申請書を取り出して、会長の前に置いた。
会長は可愛らしい丸文字で名前を書く。
「よし、これで君たちの『自由部』は承認された。おめでとう。そして晴れて留年も回避だ!」
満面の笑顔で会長が拍手して、その隣で鈴仙さんも無表情のまま手を叩く。
やったのか?
僕は、やり遂げたのか?
※
ふと気がつくと僕らは再び中庭に居た。
生徒会室を出て、無意識の内にここへ戻ってきていたらしい。
山田さんも美澄さんもなんだか呆然としている。
「あたしたち、部活を作ったのよね? 留年回避よね?」
「うん、多分……」
いまいち僕も実感がない。
ただ、無駄になったと思った努力が実は無駄じゃなかったというか、でもやっぱり余計な努力をやっていたというか……。
一体僕は何をやったんだ?
「とにかく、部は承認されたのよ」
おもむろに橘さんが口を開く。
「とりあえず、SNSでグループでも作っておこうかしら」
橘さんの手にはスマホが握られていた。
……えっ⁉ SNSでグループ⁉
そんなリア充的な活動をやっていいのだろうか?
いや、僕らはもう自由部のメンバーなのだ。
そのくらいやって然るべきだろう。
「え、えーと、とりあえず友達追加からやっときますか?」
僕も恐る恐るスマホを取り出す。
「そ、そうね! で、友達追加ってどうやるの……⁉」
「えーと確か、まずここのアイコンを押すんですよっ!」
山田さんと美澄さんがそれぞれスマホを操作し始める。
そしてSNSアプリと格闘すること数分、僕らの『自由部』グループが僕のスマホに爆誕した。
「お、おお、これが」
急に連絡先が三人も増えた。
そして、グループも出来た。
一気に人としてのレベルが上がったような気がする。
感動だ……!
「それで、部長。今後の活動予定は?」
気づけば橘さんが僕を見ていた。
「……部長? 僕がですか?」
「そうよ。だって、部の発起人はあなただもの」
「え? でも僕、責任感ないですよ? やる気もないですし」
「何もしないことをする部活なのだから、一番やる気がない人が部長になるべきだわ」
「ええ?」
「あたしもそう思う!」
「賛成ですっ!」
山田さんと美澄さんが次々と賛成の声を上げる。
ここまで言われると断りづらい。
まあ、橘さんの言う通り何もしない部活なのだから、部長になっても何もせずに済むだろう。
「分かりました。僕が部長をやりましょう。では、部長として今後の活動予定を言います。よく聞いてください」
僕は十分にタメを作って、それから言った。
「それぞれが自分の自由にすること! 以上、本日は解散!」
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