年上の同級生に愛されすぎて困ってます。
抑止旗ベル
第1話 鮮烈! ハタチの女子高生 その①
夢を見ていた。
近所の公園で、小さい頃よく一緒に遊んでいた女の子と徒競走をする夢だ。
僕は必死に走った。
だけど、前を行く女の子の背中に追いつくことさえできなかった。
全力疾走の反動で息も絶え絶えになった僕に、先にゴールしていた女の子は言った。
「残念、惜しかったわね」
僕はただ彼女を見上げるだけで何も言わなかった。
女の子は言葉を続ける。
「だけど結果だけがすべてというわけじゃないわ。あなたがどれだけ考え、工夫し、勝とうとしたかという過程が大切なのよ」
そんなの嘘だ、と僕は思った。
次の瞬間、僕は目を覚ましていた。
部屋は明け方の冷たい空気で満たされていて、窓からは朝日が差し込んでいる。
僕は何度かまばたきをした後で枕元の時計を見た。
そして、絶望した。
「遅刻だ……」
※
今朝の夢を引きずるわけじゃないが、僕は小さい頃、家の近所の公園でよく遊んでいた。
その時に一緒に遊んでいた女の子が二人いたのだけれど、何をしてもあの子たちには勝てなかった。かけっこをしても、鬼ごっこをしても、かくれんぼをしても。
どんなに頑張っても、どんなに知恵を絞っても、どんなに汚い手を使っても、勝てない。
かくして僕の心には圧倒的な劣等感と女性に対するトラウマ的な何かが植え付けられ、一切のプライドを失った。
そして、とある結論に至った。
――すべての努力は無駄である、という結論に。
やらない後悔よりやる後悔なんて言葉は嘘である、という結論に。
努力なんてしなくても出来る奴は出来るし、出来ない奴は一生出来ない。
生まれたときから金持ちは金持ちだし、貧乏人は貧乏人だ。
僕がいくら努力しても車より速くは走れないし、太平洋を泳いで渡ることも出来ない。
アニメが好きだからと言って絵が上手いわけでもないし、アニメの評論家になれるわけでもない。
明日いきなり勉強ができるようになるなんてことはないし、空から降ってきたハダカの美少女が僕に最初から惚れているなんて都合のいいことも起こらない。
余談だけど、幼少期に女の子と遊んだという経験が、僕にとって異性と関わった最初で最後の経験でもある。あれ以来女子とまともに話した記憶もない。悲しいね。
とにかく、出来ないことはいくら努力しても出来ないのだから、いっそすべてを諦めて何もしない方が良い。自分は選ばれた人間だとか、頑張れば自分にできないことなんてないだとか、そういう思春期特有の妄想や妙なプライドは捨ててしまった方が良い。
結局世の中、なるようにしかならないのだ。
多分神様的な何者かがいて、そいつがこれから起こることをすべて決めてしまっているのだ。僕一人がそれに抗おうとしても無駄なのだ。
だから僕は遅刻寸前に家を出たからといって、急げば始業のチャイムにギリギリ間に合うかもしれないなんて希望は持たない。
通学路の角を曲がった瞬間食パンを加えた美少女とぶつかって、見慣れないその子が実は転校生で、そこからラブコメ的な展開が始まるなんてことは期待しない。
遅刻者を取り締まる生徒指導の先生がSMもののアダルトビデオに出てきそうな巨乳美人で、僕が遅刻したことをきっかけにピンク色の展開が繰り広げられるなんてこともあり得ない。
多分このまま普通に遅刻して、ラブコメ的なイベントも起こらず、生徒指導のゴツい男の先生に怒られながら反省文を書かされることになるだろう。
確かに反省文は面倒だろう。だけど、それがどうした―――という話だ。
これは僕の予想だけれど、人に怒られたり反省文を書かされたりして最も傷つくのは自分自身の心――つまり、プライドである。
だが。
僕には傷つくべきプライドなんてものはない。失うものが何もない、無敵の人だ。
だから、いくら怒鳴られようが叫ばれようが殴られようが蹴られようが何十枚も反省文を書かされようが、関係ないのだ。
わっはっは。参ったか。
……なんだか虚しくなってきた。
とにかく、遅刻寸前の時間に家を出た僕は遅刻して反省文を書かされるのを覚悟で、だらだらと高校までの道を歩いているのだった。
細い路地を抜けると、ようやく校門が見えて来る。
僕が入学した四月当初のうんざりするような、これから青春が始まるぜ的なオーラも一か月経たずどこかへ消え去ってしまって、五月も終わりに差し掛かる今日この頃は、そろそろ梅雨もやってくるということもあってずいぶんじめじめした雰囲気が漂っている。
今日もまたそんな風にじめじめした一日が始まって終わるんだろうなあ。
はあ、と僕はため息をついた――その瞬間だった。
「危ないわっ!」
「え」
突然聞こえてきた女の人の声に僕は背後を振り返ろうとした。
そんな僕の顔面に通学鞄が直撃した。
意識が遠のく――――と同時に、僕に誰かがぶつかって来た。
不意を突かれた僕は、僕にぶつかってきた誰かと縺れ合うようにして地面に倒れこんだ。
「痛た……」
澄んだ声が聞こえた。
一体何者だろうと体を起こした僕の目には、かわいいクマのイラストがプリントされた白い布が飛び込んできた。
男子ならば一度は見てみたいものトップ3に入っているだろうその布の名前は、パンツという。
僕の目の前には、お尻の部分のスカートが大胆に捲れ上がり、パンツ丸出しで倒れている女子生徒の姿があった。
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