第8話 即バレ!

 街の近くまで来たがまだ入場の時ではない。

 街に至るまでには街道や獣道もあった。街道といっても土が踏み固められた道が殆どで、街から10キロの範囲内にしかなかった。

 街から1キロ手前くらいからは石畳の街道もあったが、遠目に見ただけだ。

 俺とスパランツァーニは道なき道を進んだ。敢えて傾斜のきつい斜面や木の上なんかも通ったりして誰にも会わぬよう注意したのだけど……後からスパランツァーニより無情な一言がクリティカルヒットしてへこんだ。

 いやほら、スパランツァーニのセンサーを使えば1キロ先の人影も感知できてしまうのだよね。人影を避けて進めばよかっただけで、何も悪路を通る必要はなかった。

 大木の中ほどまで登り、街を見るが堅牢な作りをしている。高さ5メートルほどの城壁がそそり立ち、入場門は大きな鉄の扉が取り付けられている。

 現在、夜間のため扉は閉じられ城壁から突き出た監視塔から衛兵が周囲を警戒しているといったところ。

 それにしても街中でこれほど暗い夜ってのも興味深い。ネオンの灯りなどなく、監視塔から見えるオレンジ色の光だけが妙に明るく見える。

 城壁の中はまだ民家や居酒屋の灯りがあるのだろうけど、ここからじゃ見えないんだよな。


「スパランツァーニ。頼む」


 夜の方がより安全だろうってことで、夜間にとある活動をすることにしたんだ。

 俺の合図を受け、スパランツァーニがハツカネズミを足もとに放つ。

 うんうん、動きはどこからどうみてもネズミそのものだよ。こいつはネズミ型の調査機「ネネズミ」である。

 スパランツァーニの視覚・聴覚とリンクすることができる優れもので、彼女の意思によって自由に動かすことができるのだ。

 こいつを城壁の隙間から侵入させ、街の中の様子を探る。

 目的は街の人の会話なのだよ。朝までかからないのだろうけど、朝になるまで門は開かないだろうから今晩はこのままここですごすことにしよう。

 

 ◇◇◇


「ようこそ、王都カムラットへ」

「久しぶりに宿で眠ることができるよ。二人分、これで」

「旅人か。10キリングちょうど、いただくよ」

「ありがとう。オススメの宿とレストランを教えてくれないかな?」

「もちろんさ」

 

 門番を前にして完璧な会話。まさにイメージ通りである。「ネネズミ」をあらかじめ街に侵入させたのは言語習得のためだった。

 スパランツァーニの言語解析が終わった後、しかと俺に言語データをインプットしたので彼らの言葉は全て理解できる。

 灰色の足もとまであるフード付きローブを目深に被り、革靴に綿の薄汚れた紺色の服。

 フード付きローブを着ている者は少なかったが、一番多かった色にしたし、ローブの下は最も見た服の形と色をチョイスした。

 いかにも旅人です、という格好に我ながらほれぼれする。

 影馬の姿から元の美少女形態に戻ったスパランツァーニもスカートにフード付きローブというよく見る出で立ちであった。

 正直理解できないのが、何故短いスカートなのかってところだな。

 長ズボンにロングブーツのスタイルの方が草や枝で怪我をすることもないだろうに。 

 しかもこの地域は寒冷なんだぞ。夏でも朝晩は肌寒い。

 ……いや、習慣や文化ってのは効率だけでは推し量れないものなのだ。足を見せるスカートが好まれるのだろう。

 スパランツァーニの場合、服を含めての変化なので見た目どんな服装であっても彼女にとっては変わらない。

 更に彼女は優れた温度管理機能を持っているので極寒でも酷暑でも彼女の活動を妨げないのだけどね。

 ふふ、全てが完璧。俺たちがまさかこの世界の外からやって来たインベーダーなど誰も思うまい。

 

 と思っていた時が僕にもありました。

 先ほどまで笑顔を見せていた門番の顔が急に曇る。このまま街へ入場しようとしていた俺たちを引き止め、他の門番に声をかけていた。

 何やらただ事じゃない雰囲気だが、原因は俺たちであることに間違いない。

 何かやらかしたのか? 言葉も服装も、そして貨幣についても完璧だったはず。どこにも綻びはなかったと断言できる。

 

「お前たち、いや、あなた方は一体何者なのですか?」

「ただの旅人なのだけど……」

「旅人なのは確かなのだとしても、『ただの』ではありません。あなた方は魔力が一切ない」

「魔力……」


 困惑する門番に対し、俺の頭ははてなマークが浮かぶ。


『スパランツァーニ。魔力ってなんだ?』

『マスターのすきなえっちな物語に出てきました』


 脳内会話に切り替えスパランツァーニに語り掛けるも、何ら有益な情報を得ることができなかった。

 失礼な、別に好きなわけじゃないんだって。

 いつ終わるか分からぬ宇宙を漂流する旅となれば、暇を持て余すだろ。書庫データベースには膨大な数の電子書籍があるのでいくら読んでも終わりが来ない。

 色々読んでいたら「たまたま」そんな物語もあるだろうて。

 しかし、魔力か。架空の物語の中でしか見ないワードを出されてもどうにもこうにも対処のしようがないぞ。

 魔力がないから怪しいと言われれば、そうですねとしか言いようがない。

 魔力をどうやって体内に蓄積するのか教えてもらうと俺にもできたりするのかな?

 それはそれで夢が広がりまくる。まあ、カレーの次の次くらいだけどね。

 

『どうしましたマスター? 思い出せないのでしょうか? 魔法で服を脱がせて』

『それはもういいから!』


 思わず声に出して突っ込みそうになったじゃないかよ。

 どうする? 逃げ出そうと思えば逃げることはできる。しかし、門番の言葉遣いが急に丁寧になったということは悪い方向ではないはず。

 もうしばらく様子を見てから考えてみるとするか。


「王城へお連れします」

「王城へ?」

「あなた方は我らの待ち焦がれる伝説の英雄なのではないかと」

「ど、どういうこと?」

「詳しくは王城でお聞きください」


 急展開過ぎて門番の話についていけない。兵に囲まれながら王城まで向かう事になってしまった。

 いずれにしろ王城に用があったので、状況次第で「空の安全」を確保するよう動きを変えてもいい。

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