第7話 インベーダー

 街の人々は人間に似た種族だった。頭からヤギのような角が生え、細い鞭のような尻尾を持つこと以外は。

 服装は革鎧を着ている者やローブ、街娘風など様々だった。髪の毛の色も赤や青、それに金色から黒まで人間じゃ持ちえない髪色をした者もいる。

 俺の髪の毛の色は黒色で角と尻尾はないが、フード付きローブを着れば誤魔化せるだろう。たぶん。

 観測機のおかげで北極から街までの地形も把握することが出来た。詳細は把握できないものの、世界地図も観測衛星によって作成済みだ。

 この惑星は大きく二つの大陸に別れている。赤道地域に陸地が少なく、北半球は北極が陸地になっていて、細長い地峡によって繋がっている。

 地形からすると地球の南極ほど氷の体積が多くないのかもしれない。地球の南極は他の陸地から切り離され、陸を通じて暖かい海流が流れ込むことがなく、極地であることと地形的なことが重なり氷の大地となっている。一方、この惑星の北極は陸続きなので……北極の話はこの辺にしておこうか。

 街へ行くためには北極から移動しなければならないのだが、距離は凡そ550キロ程度ある。

 東京から大阪より少し遠いくらいなのだけど、空から行くのは迎撃されるので避けなきゃならない。

 といっても彼れの索敵範囲は凡そ30キロ四方とそう広くはないので、城から50キロくらいで地上に降りて進むのが良いかなとも思った。

 安易に考えていたところ、スパランツァーニから攻撃距離が30キロなだけで、より遠くまで「見えている」可能性を指摘されもういっそのこと地上から進もうとなったのだ。

 

 そんなわけで、不整地走行用ホバーを準備した。

 不整地走行用ホバーは知的生命体がいない自然のままの惑星であっても走行できるように作られた二人用のバイクみたいなものだ。

 見た目は原付バイクに近い。原付バイクとの違いは車輪がなく、地上から1メートルほど浮いて進むこと。

 浮くのでどんな悪路でも平気ってわけさ。やろうと思えば海だって進むことができちゃう。個人的には海を進むのは勘弁願いたいのだけどね。

 波の動きによって上下に揺れまくるから酔う。

 ホバーのハンドルを掴み、後ろにスパランツァーニが座る。外は一面の氷の世界。雲一つない晴天だ。

 

「では、異星人『村雲竜彦』、これよりインベーダーを開始しまあす」

「大袈裟ですね。侵略者インベーダーとは」

「たはは。街ならカレーの材料もあるかと思ってね。無いにしても食べられるものくらいあるだろ」

「栄養価が適切ではありません。消化ができるかもわかりませんし、未知の病原菌も含まれている可能性がありますので推奨されません」

「成分調査してから食べれば平気だって」

「ですから推奨されません。ご安心ください。ちゃんと食事をお持ちしております」


 クーラーボックスみたいなものを肩から下げたスパランツァーニがにこりともせず聞きたくないことを聞かせてくれた。

 あの中には灰色ゼリーが満載しているのだろうか。今朝も食べたんだって、マジでやめて欲しい。

 アレを食べるくらいならアンプルの注射や錠剤サプリメントの方が全然マシだよ!

 しかし、サプリメントの製造機は修理中でいつ修理が完了するのか目途が立っていない……。

 

「色んな機械の稼働や修理のためには太陽光発電装置だけじゃ足らないよな?」

「規模にもよるかと。発電用の衛星を打ち上げる、のも良いかもしれません」


 今すぐには無理だよなあ。

 おっと、ぼやきはここまでにして行くか。

 ハンドルは原付のように握りのところが回転するようになっていて自分から見て奥側に回すとエンジンがかかり動き始める。加速も同じくだ。

 グイっと握りを回すとみるみるうちにホバーが速度をあげていく。

 ずっと氷の世界だからどれだけ速度が出ているのかイマイチ分かり辛いが、速度メーターによると現在時速120キロらしい。

 氷の割れ目だろうが気にせず突っ切れるのがよいところ。波だとカックンカックンするのに、クレパスの場合は無視して高度を保つ。

 この辺りの判断をどう制御しているのか俺には分からん。だがしかし、どんな地形だろうが進むことができるのは確かである。

 

「もっと速度をあげるぞ」

「でしたら、体の制御をナノマシンに預けた方がよろしいのでは?」

「ハンドル操作ができなくなっちゃうぞ」

「そうでした。このホバーは手動操作でしたね。でしたら、ワタシがマスターを支えておきます」

「助かる」


 さあ、振り切るぜ!

 時速300キロの世界へなあ!

 

「マスター」

「んあ? せっかく乗って来たのに」

「ポイントが近くなりましたらアラートをあげます」

「あ、そうね。頼む」


 街から50キロ地点で一旦停止しようという話になっていたのを忘れていた。

 城の監視の目が届くかもしれない距離になったらホバーを置いて進もうってスパランツァーニと相談してたんだよね。

 ホバーは少なくとも目的の街には無いものだから、見せない方がいいと判断したんだ。

 

 ◇◇◇

 

 50キロ地点まで来ると氷の世界ではなく、針葉樹林がうっそうと生い茂る森になっていた。

 季節は夏だからか、この辺りは雪も積もっていない。探せば万年雪はあるだろうけど。

 この地に至る直前に見た海岸線では氷山も見えたので、寒冷な地域であることは間違いない。地球のシベリア……はどんな気候だったか……俺は考えるのをやめた。


「それではマスター。形態変化します」


 美少女の姿であったスパランツァーニの体がドロリと溶け、影を切り取ったかのような馬の形に変わる。

 

『ここからは脳内通話に切り替えますね』

『そうしよう。馬っぽい形になってもらったし』

『影絵の馬です』

『仕方ない。馬の姿になるなんて想定してなかったからさ』


 馬なら街にもいたので、誤魔化すにはちょうどいいと思ったまでは良かった。

 のだけど、スパランツァーニの形態変化の中に馬はなかったんだよね。急ぎ記録しようとしたのだけど、専用の機械も無かったのでこれが限界だった。

 ホバーを使うよりはマシだろってことでスパランツァーニの影馬状態でここからしばらく進む計画にしたんだ。

 

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