第23話 祈りをささげる

 空から一条の光が降り注ぎ、スノーマンが囲んでいる氷の柱を照らす。

 光はスポットライトのように強く、暖色系の電球の光のようだった。


「ムラクモも祈るのだー」

「分かった。俺なりの祈りでいいのかな?」

「ムラクモが祈りたいと思う祈りでいいのだー」

「分かった」


 足元にもこもこっと生えてきて姿を見せたスノーマンからいよいよクライマックスの「祈り」を捧げるよう促される。

 目をつぶり手を合わせてパンパンと。

 祈ろうとした時にメイアから声がかかる。


「どうされたんですか?」

「スノーマンから祈りを捧げてくれって。やり方は自分の好きなようにでいいと」


 彼女は両ひざを地面につけ両手を胸の前で組み目を閉じた。


『マスター。ワタシは捧げるべき祈りはありません。フリだけでよろしいですか?』

『それで頼む』


 スパランツァーニはメイアの動きを正確にトレースして祈りの姿勢を取る。

 邪魔されちゃったけど、俺も祈ることにしよう。

 パンパンと再び柏手を叩き、目を閉じる。

 

『カレーが食べられますように』

『神社じゃないんですから』

『お、おっと。俺の心の声が聞こえてしまったか』

『通信を切ってませんから、聞こえますね』


 ちょいとばかり恥ずかしい。

 とはいえ、祈りは終わった。

 氷の柱にはまだ先ほどのスポットライトのような光が天から降り注いでいる。


「お、おお!」

「向きが変わりました!」


 スポットライトの光が消え、今度は逆に光の柱から天に向け光が照射された!

 空に向かった光は塊を作り、10数秒後に光の塊が弾ける。

 そして光はカーテンのようになり、七色の光となった。


「虹のようでいてもっとはっきりと大規模な光ですます!」

「オーロラのような現象に見える。カムラットではこのような光が真冬に見えることはなかった?」

「初めてです!」

「カムラットも十分北極に近い。それでも見えないのか」

「タツヒコさんの世界でもこのように儀式を行って七色のカーテンを楽しむ祭りがあるのですか?」


 会話の中で彼女は俺たちの世界に同じような現象があると察したようだ。


「似たような事象で別物なのだけど、あの七色のカーテンのことをオーロラと呼んでいるよ」

「異世界のオーロラ。実際に見てみたいですます」

「今はスノーマンの祭りをじっくり観察しよう」

「そうですね!」


 スノーマンたちの祭りはオーロラに似たような現象を起こす儀式だった。

 空はオーロラで明るさを増し、暗視センサー無しでもスノーマンたちの姿がハッキリと見えるほど。

 10分くらいオーロラを眺めていると、光が薄くなりついには消えてしまった。時を同じくして太陽が姿を現し元の明るさを取り戻す。

 

「祭りは終わりなのだー」

「誘ってくれてありがとう」

「太陽が真上に登る日の夜、祭りをするのだ。また来るか? ムラクモ」

「是非、誘って欲しい」

「分かったのだー」

 

 スノーマンたちは地面にズブズブと沈んで行き、俺たちだけが残される。

 

 ◇◇◇


「こんなところかな」

「全て登録しましたです」


 拠点にある主だった機械類はこれで全部かな。念のためスパランツァーニに確認し、メイアに来てもらったお仕事は完了した。

 当たり前であるが、全部が全部の機械類を彼女に見せたわけではない。

 動くものかつ魔王国に持ち込む可能性のあるものに限定している。

 スノーマンたちの「祭り」を見学していたので予定より遅くなったが、彼女に伝えた日数よりは短い。

 祭りの後、寝ずにそのまま作業をしたので時刻はもう深夜になろうとしている。

 何も食べていなかったからか、俺の腹が悲鳴をあげた。その音を聞いてメイアも思い出したかのようにお腹を撫でる。

 じっと俺たちの様子を見守っていたスパランツァーニがメイドのように上品にペコリと頭を下げた。


「栄養をとってお休みください」

「火を使ってもいいですますか?」

「火……ですか、暖めるのですか?」

「お湯をいただきたいなと」

「お湯でしたらこちらをどうぞ」


 ポットのボタンを押すと僅か二秒で熱湯ができあがる。


「そこに手を触れるとここからお湯が出るよ」

「お、おお。細かいところにまで便利な魔道具があるのですね」


 感激したようにポットの給湯センサーに手を触れ、熱湯をコップに注ぐメイア。

 ごういったギミック的なものの方にこそ彼女は興味を示す。

 可愛い物とかにはやはり興味はないらしい。もっとも、この場所にピンク色やらのファンシーな品物は一つたりともないのだけどね。

 

「マスターのお食事も準備ができました」

「普段無表情なのに、こういう時だけ微笑むんだな」

「マスターの好みを計算しております」

「えー」

「さあ、どうぞ」

「今日は疲れたしそのまま寝ようかなっと」

「さあ、どうぞ」

「……」

「さあ、どうぞ」


 結局無理やり灰色ゼリーを食べさせられた。どんだけクソ不味い食べ物でも何度も食べると慣れると言うが、まるで慣れないぞ。

 毎回毎回、吐き気がする。

 ち、ちくしょう。早くカレーを作らねば。

 

 ◇◇◇

 

 そんなこんなで再びカムラット……ではなく、カムラット近郊である。

 大型の航空輸送機は宇宙船に積んでいないので、分解し二回に分けて小型の工作機械をぶら下げて運んできた。

 自由に使ってよいと案内された場所は人っ子一人いない荒地で、岩肌がむき出しになっている。


「カムラットの城壁からどれくらいの距離になるのかな?」


 工作機械を組み立てているスパランツァーニに問いかけると、こちらに見向きもせず脳内に映像が送られてきた。

 映像は上空からカムラットを見下ろしたもので現在地に赤い丸がつけられている。城壁から赤い点線が伸び赤い丸まで引かれており、そこに数字も記載されていた。

 5.28キロと。

 すぐそこだと思ったが5キロもあるなら、音も問題ないか。


「まずは発電設備を作ります」

「全部お任せで。岩を掘って新しい機械を作れるようにして欲しい」

「無論です。原子変換を使いますのでエネルギーを補うため、打ち上げます」

「宇宙空間から送電するの?」

「本当はモノポール炉を作りたいのですが、私たちは魔法に対し未知です。万が一があれば、惑星ごと吹き飛びますから」

「そ、そうだな……」


 何度か出てきているモノポール炉。こいつがあれば灰色ゼリーを加工しどんな料理も作ることができる料理マシンを作ることも夢ではない。

 そもそも料理マシンの作り方は分からないのだが、データベースをあされば設計図は出てくる。

 スパランツァーニなら頼めば作ってくれるだろうけど、動力源であるモノポール炉がないなら意味のない行為になるから動いてくれないだろうな。

 資源がいくらでもあるなら話は別だが、今の俺たちは惑星に不時着した異星人である。

 

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