第22話 祭りなのだー
「一体何がはじまるんでしょうか」
「何も無かったとしてもこれはこれで良いものが見れた」
沢山の雪だるまが氷の柱を囲み木の棒のような腕を上下にパタパタと振っている。
ゆるキャラアニメの一膜のようで個人的には満足感があった。
CGで似たような画像を作り出すことはできるけど、CGを生成するのも発想力ってのが必要でね。自分が思いつかないような風景をCGで再現することはできない?
え? ランダム生成したら考えてもみなかった景色ができるんじゃないかって?
確かにそうなのだけど、出てきた画像に自分で声なり文字なりで希望を追加していくと結局自分の発想内のものになるんだよね。
一つ残念なことをあげるとしたら、北極の夏なので太陽が沈まないことかな。
星空の下で雪だるまが集まってパタパタしていた方が絵になる……と思う。
俺の想いとは裏腹にメイアはあまり感情が揺さぶられた様子はない。スパランツァーニにいたっては完全無欠の無表情である。
彼女はいつも無表情だけど、いつも以上に色がないように感じた。
「可愛いですが……」
「特段得るものはありませんね。スノーマンの動く仕組みを解明するため、捕獲しませんか?」
二人とも全く興味がないらしい。可愛いとか言ってきゃっきゃするところが見たかったわけではないけど、素っけなさ過ぎる。
アンドロイドであるスパランツァーニには期待してなかったけど、生身のヒューマノイドで豊かな感情を持つメイアならと思ったが俺だけがはしゃぐ形になってしまった。
メイアは見た目こそ幼く見えるが学者気質な彼女の興味は別のところにあった……のかな?
ずっと驚き続けていたのも、知的好奇心を刺激するものだけだった気がする。
仕方ない。俺だけでもアニメのような景色を楽しむとするか。
お、おお。空が暗くなっていく。一体どういった仕組みだ?
空を見ているというのに両側から袖を引かれる。
「どんな大魔法なんでしょうか?」
「マスター。環境的に太陽が隠れることは有り得ません。未知の技術が使用されています」
「あ、うん……」
勝手に分析してくれよお。
俺はもうありのままを見るだけにすることにしたんだ。さっきまでまるで興味を示していなかったってのに、いいところになったら邪魔してくるとは。
こういう時は片方でも別のことをしてもらうに限る。
……単にお願いするのを忘れていただけとか言ったらいけないぞ。
『映像を録画してもらえるか?』
『畏まりましたマスター』
『周囲の温度その他、観測できるものは観測して記録もよいかな?』
『既に行っております』
脳内通信と肉声を使い分けているとたまにどっちがどっちかわからなくなってくる。
今のところ誤爆はしたことないけど、肝心な場面で間違ってしまうのが俺ってやつだ。気を付けなきゃな。
こういう何気ないところでも使っていくことで慣れていかなきゃ、と思っている。
空が真夜中のように暗くなり、太陽が完全に遮られた。いや、太陽の姿が見えない。
なのに星は空に瞬いており、これが自然現象ではないと如実に語っている。
一体どのような術理で本事象を起こしているのかまるで見当がつかないな。一つだけ分かっていることはこの事象を起こしているのは魔力によるものということだけ。
メイアが見せてくれたいくつかの魔法のうち、俺が最も衝撃を受けたのはインビジブルの魔法だ。
科学では実現不可能な事象を魔法はやすやすと実現する。
不可解な隕石で攻撃された時からこの惑星には何か俺たちの知らない術理があると確信していた。
なので、俺にしてはこれまで慎重に行動したつもりだ。俺はカレーを得るために努力を惜しまない。
工作機械でヒャッハーすれば最速でカレーの材料を揃えることはできるかもしれないが、それは最短ではないのだ。
未知の魔法や魔力というものに対し、俺はもちろんスパランツァーニでも対策が取れない可能性がある。
さて、スノーマンたちであるが変わらず木の棒のような腕をパタパタと上下に振っていた。
太陽の光が消え夜になったのだけど、思った以上に暗いな。
「あ、太陽だけじゃなく月も無いのか」
一人呟いたのだが、これにメイアが反応する。
と同時にスパランツァーニからも脳内会話が届く。
『月が消失していなかったとしても、地球の月ほど明るくはありません。暗視センサーを推奨します』
「暗くてスノーマンさんたちが見えなくなってしまいました。魔法を使ってもよいですますか?」
『今切り換えたよ。明るくなると自動で元に戻す設定も忘れずにね』
「スノーマンの邪魔をしないなら良いと思う」
や、ややこしい。間違えずにちゃんと会話したぞ。
暗視センサーはともかく魔法のことはよくわからない。
スノーマンが起こした事象は魔力や魔法の範疇なので俺には判断できないからメイアにお任せだ。
「そこは問題ありません。メイアの名において命じます。ナイトサイト」
「おお、それはどういった魔法なの?」
「暗いところでも昼のように見えるようになります」
「突然明るくなった時はどうするの?」
「? どうもしません。明るいところでも暗いところで変わらず見えます」
な、なんと。超高性能じゃないか。一体どんな仕組みなのだろう。
「魔法って他者にかけることもできるのかな?」
「できます。が、お二人には効果がありませんです」
「そいつは残念だ……。俺もナイトサイトをかけて欲しかった」
「ナイトサイトのような対象の助けになるような魔法を補助魔法やバフと呼んでいます。これらは対象の体内にある魔力に働きかけます」
「魔力が一切無い俺たちには効果が無い、うん、分かりやすい」
「わ、悪いことばかりじゃないです。体内魔力に働きかける悪意ある魔法もお二人には効果が及びませんです」
分かりやすい説明で理解が進んだ。体内魔力が無きゃ魔法を使うことはできなさそうだな。
疑似的に何かに魔力を溜め、俺の体に接続することで魔法が使えるようになったりしないだろうか?
うーん、難しいだろうなあ。目に見えず、機械類でも計測できない魔力とやらをどうやって集めるのか。集まったとして計測できないのでどれくらいの量が集まったのかも分からに。
まずは魔力を何らかの形で見えるようにするところからか。
スパランツァーニに相談してみよう。
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