第24話 太陽光発電

「太陽光発電設備も作ります。あれば何かと便利ですから」

「岩から他の元素に変換できないと何も作れないよね?」

「その通りです。ですので、ここまで運んできたじゃないですか」

「あ、工作機械と思っていたら、そっちか」

「工作機械もあります。モノポール炉ならばもっと簡略化できるのですが、致し方ありません」

「そうだな……惑星が無くなったらカレーも食べられないもの」


 発電設備にも色々あり、古くから愛され今も尚使われている太陽光発電は太陽光パネルさえあれば大した技術がなくとも作ることができるのが強みだ。

 発電量は日常生活を営むに支障はない。同時に蓄電設備も必要であるけど、他の発電方式でも蓄電設備は必要だ。

 太陽光発電はその名の通り、太陽エネルギーを電気に変換して利用する。地上に降り注ぐ太陽の光エネルギーのうち凡そ98%をエネルギーに変えることはできる。

 しかし、地上に降り注ぐ太陽エネルギーは大気などに阻まれ相当減衰しているのだ。

 そこで宇宙空間に太陽光パネルを打ち上げることでもっと効率良くエネルギーを取り込もうとしているのが、今からやろうとしている衛星軌道上発電である。

 衛星軌道上では重力の関係から地上の太陽光パネルより大型のものでも平気だし、宇宙空間だと24時間太陽光を取り込むことができ地上の太陽光発電設備より遥かに効率がいい。

 発電したエネルギーはレーザーで地上に送り専用の設備でエネルギーを取り込む。

 衛星軌道上発電は地上の太陽光発電の100倍以上の電力を発電することが可能だ。そもそも規模が違うからね。

 これらと一線を画すのがモノポール炉で、段違いのエネルギーを取り出すことができる。

 古代の著名な学者で今も尚誰もが知るアインシュタインの方程式を覚えているだろうか?

 彼の公式「E = mc2」……質量とエネルギーの等価性。あまり数字に興味がない俺でも美しい公式だと思う。

 モノポール炉は一言でいうと質量を全てエネルギーに変換できる炉である。もっとも扱い易い質量は水で、大抵の場合はモノポール炉に水を入れて発電する。

 どういった仕組みだったか覚えてないのだけど、質量をエネルギーに変える仕組みがモノポール炉の中にあって、こいつが暴走すると大爆発を起こす。

 規模は惑星を破壊するに十分なものになる。

 通常、幾重にも対応策がとられているので故障したとしても爆発することはない。

 そう、「通常」有り得ない。

 のだが、魔法は「通常」ではないからな……。


「ん、モノポール炉はそもそも作るのが難しいって言ってなかったっけ?」

「モノポール炉の話題が出たのは今が初めてかと記憶しておりますが、どこかで話題にしましたか?」

「あ、ああ。俺が料理マシンを調べてた時だった」

「加工品ではなく実物を調理する、とおっしゃっていたじゃないですか」

「そうね、そうだね」


 まあいい。とっとと作業を進めようではないか。


「マスター、どいて、そこ動かせない」

「あ、うん」


 スパランツァーニの口調が砕けたものになった。こんな時は何かのセリフなのだろうけど、何だったっけなあ。どこかで聞いたような。

 あ、邪魔だから動いてくれ、だった。

 彼女の作業の邪魔にならぬよう、数歩進み岩の上に腰かける。

 「さあ、準備するぞ」と言っても俺にできることはほぼない。全てはスパランツァーニと小型自立ロボットが頑張ってくれている。

 小型自立ロボットはコントローラーで動かす旧式のものなのだが、こちらの方がスパランツァーニが扱うなら都合が良い。

 彼女の処理能力なら同時に数百体でも手足のように動かすことができるからな。

 俺でもナノマシンの力を使うと数体程度なら思うように動かすことができる。しかしだな、どうも多重処理は苦手で、一体に集中すると他がおろそかになってしまう。

 ダメよね、人間って。

 そして発電用の衛星が打ち上げられ、豊富な電力が供給されるようになった。

 原子変換装置を作る前にスパランツァーニは小型自立ロボットを大量生産し、一度に作業できる量を増やす。

 こうなれば後は早い。小型自立ロボットを量産しつつ工作機械や原子変換装置、太陽光発電パネルなどを同時並行で作っていく。


「だいたい準備ができました。次は種をつくりましょうか」

「小麦の種をもらってきてる」


 麻の小袋に入った種を彼女に手渡し、お次は品種改良に乗り出す。

 ここまでほんの数時間しか経過していない。彼女の凄まじい処理能力に戦慄する。


「どうかされましたか?」

「ものすごい演算能力を使っているけど、リソースは大丈夫なの?」

「問題ありません。まだ10パーセントも占有してません」

「ひええ」

「マスターが選んでくださったスパランツァーニです。当然のことです」

「何とも言い難い表現だな……」

「マスターはそこでゼリーでも食べていてください」

「水でいいよ……」


 カムラット産の水はどんな味わいかなあ。

 飲もうとしたらスパランツァーニの触手が伸びて来て水袋を弾く。

 皮の水袋とか初めてでワクワクしていたったのに。

 

「その水は解析しておりません、正確には解析できません」

「いや、水だろ。カムラットの人はみんな飲んでいるし」

「そうでしょうか。魔力がマスターの体にどのような影響を及ぼすか分かりかねます」

「それを言い始めたら空気中にも魔力ってやつが含まれているんだろ?」

「成分量が異なるのでは?」

「う、うーん。それを言い始めたら畑で育てた作物も同じことじゃないか」

「確かにそうですね。メイア様からもう少し情報を集めてからでも遅くありません。水でしたらこれを」


 そう言って渡されたものは作りたてほやほやの水だった。

 完全に交じりっ気なしのH2Oである。こいつも生成した後に魔力が混じりそうなのであるが、作られてから時間がたっていないので魔力の吸収量も少ない……はず。

 正直、魔力が含まれた飲み物や食べ物の話は今更だよなあ。

 俺の見解としては答えが出ている。メイアは言っていたじゃないか。

 完全に魔力を含まない俺たちにはナイトサイトの魔法の効果が及ばないって。

 この惑星のありとあらゆる生命体は密度や量の差があれど、魔力を体内に保持している。

 外からやってきた俺やスパランツァーニは体内に魔力を一切含んでいない。その場合、魔力を引っかける魔力がなく、全て素通りする。

 これが俺の見解だ。メイアに聞けばハッキリするだろうから、今は石橋を叩きたいスパランツァーニの意を汲みこの水を飲んでおくことにしよう。

 細かい話だけど、灰色ゼリーにも魔力が含まれているかもしれないからな。

 今のところ空気を吸っても灰色ゼリーや水を飲んでも平気だから、科学分析の結果毒じゃないと判断できれば何を口にしても問題ないはず。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る