第25話 田んぼ
二日後――。
「この辺り一帯を田んぼにしてもいいかな?」
「田んぼとは?」
農業は彼女の専門外なのだが、俺との窓口役を命じられたのかいつしかどのような件でもメイアが応対するようになっていた。
彼女の迷惑になってなきゃいいのだが……と思ったが俺たちが次に何をするのかワクワクした様子の彼女を見て考えを改める。
彼女は彼女で知的好奇心を満たせる俺たちと接するのは歓迎なのだろう。俺たちとしても彼女が応対してくれた方がやりやすい。
彼女には俺たちの拠点も見せているし、その場で使い魔登録もできちゃうからな。
選んだ場所は完全なる荒野である。カムラットの北西部分は他の都市へと繋がる路もなく、全く使われていない土地だった。
何故この先に都市がないのかは遠くに映る山脈を見て察する。山の向こうは海になっていて、これより先に居住に適した地域がない。
他には人の踏み入らぬ山脈ならモンスターが多量にいるかもしれないものな。
おっと、メイアだけじゃなく作業を手伝いに来てくれた農家……ではなく土木作業専門の人たちにもこのまま説明せずはよろしくないな。
今後、農家の人が増えて行くことを願う。カムラットは農業がてんでダメな状態だから専業農家の人もいないのだ。専業の政府関係の者ならいるけどね。
「田んぼは畑と違って水を張り、そこに苗を植える。種は別で苗まで育てるんだ」
「水を張る……のですますか? この時期だと凍結することはありませんが……井戸を掘るにしても手間がかかりすぎませんですか?」
「そこは任せてくれ。近くに山から続いている川があった」
「近くにメイアの知らない川があったんですか!」
「あれ、さすがに知らないってことはなさそうなんだけど……」
川を見たいオーラを発している彼女には少し待ってもらって土木作業員の人たちに顔を向ける。
「大きな岩とかがあれば取り除いて、といったことのために集まってくれたのだと思うのですが、ここに種を植えてもらえますか?」
桶に土を入れたものがずらりと並んでいる場所を指す。
土地の整備はカムラットの人にやってもらうことも考えたのだが、田んぼができるまでは手作業でやる必要もないだろと思い、「育てる」ところをなるべく人の手を介してやってもらう方針とした。
全て機械でやるより、人の手でやった方がきっとおいしくなる。なんでも手作りってのはいいものだからな。
きっとおいしいご飯になるぞお。
メイアとスパランツァーニを乗せてホバークラウドで移動すること5分ほど。川が見えてきた。
「ほら、すぐ近くだろ?」
「この子の足だと時間はかかりませんが、田んぼの予定地までここから水を運ぶんですますか?」
「いや、運ばないよ。水を引く」
「水を引く?」
「灌漑工事をして水路を作るんだ」
「だ、大工事になりますですよ」
「そこは使い魔たちにやってもらうから心配ないよ。スパランツァーニ、頼んだ」
「畏まりました」
胸に手をあてたスパランツァーニが会釈する。
三日間準備に費やしたのだ。もう土木機械はバッチリ準備できている。
数分後、ババババババと轟音を立てながら輸送用ヘリが到着した。
轟音にメイアは両耳を塞ぎキラキラした目でヘリを見上げる。
「登録してあったよね」
「な、何か言いましたか?」
余りの音に聞こえないらしい。指をさして問題ないかジェスチャーしてみると、通じた。
文化が全然違っても案外ジェスチャーというものは通じるものなのだな。内心感心している間にもヘリが高度を下げ始める。
輸送用ヘリは新たなカムラット近郊の拠点で生産したものだ。結構な大きさで10人ほどの人員を輸送することができる。もっとも、目的は人員輸送ではないが……。
このヘリは戦車一台を持ち上げて運ぶことができるほど馬力があって、今も工作機械を釣り下げていた。
難点はヘリ特有の轟音と風圧で人がいないところじゃないと使い辛い。
カムラットの王城の上空に輸送用ヘリを飛ばしたら騒ぎになるどころか、俺の行動が制限されるかもしれないものな。
便利な機械は使っていくつもりだが、せっかく得た特権を手放さぬようにしなきゃカレーが遠のく。
「輸送用トラックの方がよろしかったのでは?」
「何度も往復するならヘリの方が速いかなと思って」
「そうでもありません。不整地ではありますが、輸送完了までの予想時間はトラックの方が5分早いです」
「同時にやったらもっと早く済むかな?」
「私に計画を全て任せていただけましたら最短でやりますがいかがいたしますか?」
「任せたいところだけど、街の人に配慮したい」
「そこも滞りなく」
輸送用ヘリが工作機械を切り離し、去っていくと順番待ちのように次の輸送用ヘリがやって来た。
前後してトラックも到着し工作機械を降ろして行く。こちらも順番待ち状態になっている。
到着した工作機械はすぐに動き始め、土木工事を開始した。土を掘るだけじゃなくその場で岩を切り出しセメントに石を混ぜコンクリートを作っていく。
原子変換をしなくて済むものは現地調達し、そうでないものはトラックで輸送する。
完璧に計算された質と量で全てが最短で進む様子は圧巻だ。これら全てをスパランツァーニが操作している。
コンクリートは水路になる部分だけに使われ、目に見える箇所は切り出した岩をセメントでつないだ石のブロックになっていた。
それもカムラットの城壁が舗装で使われているようなデザインで。
「配慮のレベルがやべえ……」
「これが水路になるのですますか! あっという間じゃないですか!」
「コンクリートが固まるまで水を流すことはできないけど、速乾性のコンクリートだから明日にはいけるんじゃないかな」
「いえ、今日中です」
「え? 超速乾のを生成してきたのか」
「はい、10分で完全に乾きます。これ以上速く乾燥するものですと工事に支障がでますから」
「となると、石のブロックの方は聞くまでも無いか」
生成するにより複雑な超速乾コンクリートにしたのか。超速乾コンクリートは早く乾くのはよいのだけど、俺が工事を指揮したとしたら持て余すなあ。
乾くのが早すぎると流し込む前のコンクリートを保存できる時間も極端に短くなる。
そんなこんなで、ものの一時間で田んぼ予定地まで水路を引くことができた。
水路が繋がった後、せき止めていた栓を抜き川の水を水路に流し込む。水路の流れた行き先は元の川になるように作ってある。
「水が引けたので次は田を作る。最短お任せでお願いできるかな?」
「配慮も含め、ですね」
今更もう配慮も何も無いと思うのだが……配慮せずとか言うととんでもない機械が出てきそうだから配慮有は崩してはいけない。
彼女のことだ爆薬とか熱線とかを自重せず使いそうなのだもの。工作機械があるんだから、そっちでお願いしたい。
作業員の人たちと昼食をとり一息していたら田んぼが完成した。
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