第26話 大規模工事は順調に

「水草? なのかねえ」

「さあ、しかし英雄様のお力を見ただろ?」

「とんでもなかったぜ! 大魔法だった」

「魔力がないのは本当だったんだなあ」

「驚いたよ! 特別ってああいう人のことを言うんだぜ」


 和やかな雰囲気で雑談しながら作業員たちが田植えをしてくれている。

 手作業でやるのがいいんだ。きっとおいしくなる。

 ほら、言うだろ。機械生産品より手作業でやりました、な製品の方が値段が極端に高いし、きっとおいしいんだよ。


「マスター」

「そうだな、俺も田植えをしようじゃないか」


 スパランツァーニが俺を呼ぶ声を聞いて、ただ見ているだけじゃダメだとようやく気が付いた。

 自分も作業に参加しなきゃ、何が手作りだよな? うん。

 腕まくりをしたら、スパランツァーニが行く手を遮るかのように俺と田んぼの間に立つ。

 

「マスター」

「スパランツァーニも田植えがしたいの?」

「マスターのお考えが理解できず、お聞きしたいです」

「手作業だよ、手作業」

「田植えの手作業で米の品質は変わりませんが?」

「ほ、ほら、素敵な何かがさ」

「マスターのおっしゃる素敵な何かは米を炊いて作ることなんじゃないですか? そちらでしたら理解できます」

「……」

「人の手で調理をすれば均一にはなりません。そこが素敵な何かなのですよね?」

「…………みんなあ、そろそろ休憩にしようか」


 言われてみれば……そうだな。

 地球では遥かな古代から稲作を行ってきた。古代にはもちろん全て手作業で、田植え用の機械が登場してからは機械化され、精米も機械で行われるようになる。

 当時の資料を見るに釜で炊いたご飯がおいしいなど、調理法に関する記述はあったが、手で植えた稲と機械で植えた稲の味の違いについての言及はなかった。

 稲作につかう水や土、そして品種が異なると味は変わるけど、田植えの方法は味に影響しない。したとしても感じられないほどの極々微量な差なのではないだろうか。

 スパランツァーニの言う通り、均一にならないのが手作業の「おいしい」だとすれば、そもそも工場生産ではなく大自然の中で育てた米は、大自然という乱れがあるから、植え方はどのような方法であっても結果に影響しない……んだよな、きっと。

 手作業なら何でもいいと思っていた自分が……おバカすぎて嫌になってくる。

 この後、全て工作機械で田植えを行ったのであった。


 ◇◇◇

 

 田植えが終わったのであとは成長を待つのみ。

 田の管理は作業員の人たちと協力して進めることになった。正直、管理用のロボットを作った方が楽だが、せっかく集めてくれた人員なので……。

 やることは田植えだけではないのだぜ。

 品種改良によって熱帯の作物や果物でも寒冷地で育てることはできる。食べ物についてはスパランツァーニに頼らず脳内のデータベースで調べたんだよね。

 したらさ、過剰に品種改良をすると味が変質するんだってさ。

 許容量はどこまでか分からない。米は寒い地域でも夏の間なら育てることができるものであっても味の変質は無いのが分かっていた。

 今回使った品種は地球で昔から使っていた寒い地域用の品種だし。広く食べられていたものだった。

 とまあ、そんな事情を加味し、育てるものを決めたんだ。もちろんカレーの材料になるものを。

 お次は畑を作った。水ももちろん引き込んでいる。

 畑に植えたのはじゃがいも、ニンジン、タマネギの三種。これらも植えるところまでは全て機械で行い、管理は作業員の人に任せることにしたんだ。


「あとは成長を待つのみ」

「他の食材はどうされるんですか?」

「小麦も必要だよな」

「小麦も植えますか?」

「そうしようか。だが、カムラットだけじゃ限界がある」

「めんどくさいですね」

「……灰色ゼリーは絶対嫌だからな……」

「マスターの体には最も適しています」


 小麦もついでに作る計画を発動させ、その日のうちに種まきまで終わった。

 カムラットでは新たな畑は必要ないかな。

 その日の夜にメイアを呼び出し、今後のことについて彼女に伝えることにした。


「メイア、一通り準備はできたから、これからちょくちょく遠出するよ」

「遠出、ですますか? 北極ですか?」

「いや、行きたいのは南だ。赤道付近に向かうよ」

「赤道?」

「王国? よりさらに南になると思う」

「他国へとなるとメイアの同行は難しいです。とても残念ですます……」

「そこは仕方ないか」


 国同士のいざこざに彼女を巻き込むわけにはいかないもんな。

 俺は国とか関係ない。ただただカレー目指して突き進むのみ。

 

 ◇◇◇

 

 てんとう虫を着陸させ外に出る。


「いやあ、見事な砂漠だな」

「砂砂漠です」

「俺の砂漠のイメージはこれなんだよ。ラクダの商隊とかが行軍していたりするやつだよ」

「砂砂漠は砂漠のうちほんの僅かです。一般的なのは礫砂漠ですね」


 スパランツァーニに突っ込み返すのはやっちゃあいけないことだった。

 せっかくのセンチメンタルな気持ちが全て吹き飛んでしまったぜ。

 カムラットで生産拠点を構築したことで、たいていの機器は増産することができるようになったんだ。

 そう、精密な観測衛星だってね。

 惑星を観測したところ分かったことがある。この惑星で満足に農業ができている地域は極めて少ない。

 メイアの情報によると王国だったか? 王国の一部だけ豊饒な穀物庫になっていたが、その他の地域では不作が続いている様子に見えた。

 天災も多く、狩猟生活レベルにとどまっていた地域も多い。

 スパランツァーニの計算によると、徐々に人口が減り淘汰されていくことだろうとのことだ。

 人が減ろうが増えようが俺にとってあまり影響のあることではない……と思っていたのだが、各地でカレーの材料を育てるにあたって人は必要だろ。

 それに、一人でカレーを食べきれるわけでもない。

 一人で食べるよりみんなで食卓を囲めばよりおいしくなる。

 赤道付近は海か砂漠しかなかった。ポツポツあるオアシスに集落があり、赤道から少し離れるがオアシス都市もあったんだ。

 ここは一面の砂砂漠。

 さらさらの土に照り付ける太陽が絵になる。


「んじゃま、まずはここを緑地化するか」

「畏まりました」


 砂漠を安易に緑地化すると世界的に環境の変動が起こる見込みだ。

 しかし、元々世界的に農業がうまくいかない惑星だったのでお構いなし。

 むしろ、砂漠を緑地化することで人の居住地域が広がってくれることを期待している。

 次々と降下してくる工作機械を眺めつつ、スパイス畑を想像し目じりがさがる俺であった。

 

 おしまい。


※う、打ち切りエンドです。次回作は最後まで書けております。明日からと記載しておりましたが、準備ができたので投稿開始しました。

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異世界インベーダー~とにかくカレーが食べたい~ うみ @Umi12345

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