第16話 魔法……こいつは危険だぜ

「種を植えられるのですな。魔素の汚染の原因は分かったのですか?」

「試してみなきゃ分からないってところですね」


 一度戻り「さあ行くぜ」ってっところでジャイルに出会い、雑談となったんだ。

 「とりあえず種を撒く」と伝えたところ、「魔素は?」という話になった。

 彼は真剣に農業へ取り組んでおり、種を撒き、育てることを何度も繰り返している。いきなり種を撒いたところで成果があがなないことを身をもって知っているのだ。

 彼のセリフは純粋な心配から来たもの。種を撒いて全滅した畑に種を撒いてもがっかりするだけ。先に原因調査をした方が良いのでは? と彼なりの助言なのである。

 しかし、彼は俺の想いを汲み取ってくれ、言葉を続ける。

 

「でしたら、人手を出しましょう」

「ありがとうございます」


 種まきだったら工作機械に任せようかなと思ったが、人力でやってくれるならそれはそれでいい。

 要らぬ波風も立たないだろうから。

 機械類で何か言われても「魔法です」で押し切るつもりだったけどね。

 観測機が使い魔で問題ないなら、動く機会なら何でも使い魔で通る……よね。

 懸念したことは、俺たちが機械を使うことによって領民たちが寄ってたかって「悪魔だー」みたいなことになり「追い出せ追い出せ」にならないかなってところだな。

 そうなればせっかく「英雄」として魔王からやりたいことをやっていい、協力してくれる、というおいしい状況を手放してしまう。

 

「指を土に差し込んで、種を置いてくだされば大丈夫です」

「了解です!」


 作業をしてくれるみなさんにスパランツァーニが指示を出してくれている。

 ここはこれで大丈夫そうだな。

 畑が3面あるので、ジャガイモ、ニンジン、タマネギの種を撒いてもらった。

 米はまだだ。

 先にメイアに会いに行かねばならぬ。

 後はジャイルと作業員にお任せして、王宮へ向かう。

 

 ◇◇◇

 

 街の城壁の外へ行き、街道から少し離れたところへメイアを連れ出す。


「ここに使い魔がいるのですますか?」

「そそ。スパランツァーニ、頼む」


 すると、何も無かったところに車輪の無い車が姿を現す。

 古代のアメリカにあったような車に似たフォルムで、その昔ミュージックビデオなんかでラッパーが乗っかりながら歌っていた時に見たような車である。

 違いは車輪がないので、地面に接する部分がまっ平になっていることだ。


「と、突然、これほど大きな使い魔が出て来るとはです……」


 ペタンとお尻をつけ、あわあわと車へ向け指をさすメイア。

 誰か通りかかって壊されたりするとたまらないから隠していたんだよね。

 この車……ホバークラウドは単純な光学迷彩機能しかついていない。人間の視界からは消えるけど、レーダーには反応するし触れると見えないにしてもあることは分かる。

 短時間隠すには有効だと考えているが、ずっと隠し通すことができると思っていない。

 俺は魔族を科学力が低いからといって甘く見てはいないんだ。

 彼らにとって俺たちの科学力は未知なのと同じように、俺たちにとっても彼らの魔法は未知だろ。

 視界以外の感覚を付与できる魔法があればホバークラウドを一発で発見できる。あとは、そうだな。「姿暴き」みたいな謎の力で光学迷彩が無効化されたりするかもしれない。

 

「俺たちの世界では色んな使い魔を使うんだ」

「それほど沢山の使い魔を操ることができるのですますか?」

「魔力とは違う術理で使うから、やろうと思えばメイアに使えるようにすることもできる」

「そ、そのようなことが……世界が異なるとこれほどまでに違うのですね! 面白いです」

「俺たちにとっても同じことだよ」

「確かにです!」

「魔法でも姿を隠したりできるのかな?」

「はいです。やってみせます。メイアの名において念じます。インビジブル」


 メイアが身の丈ほどある杖を振るう。

 すると彼女の姿が忽然と消えた。

 本当に魔法で消えるんだ。魔法すげええ! じゃなくて、スパランツァーニ!

 口に出さずとも彼女なら分析してくれているはず。

 

『高度なステルスです。赤外線、ソナーにも反応しません』

『熱、匂い、光、音、全て透過するのか』

『本当にそこに在るのか観測できません』

『すげえな』


 高度な科学は魔法のようである。と言われるが、本物の魔法は高度な科学でも再現できんぞ。


「メイア、そこに本当にいるのか?」

「はいです」

「うお!」

「インビジブルの魔法は喋ると解けてしまいますです」

「隠れたまま動くことは?」

「歩くと解けます」


 制約もあるのか。何で声を出すと解けるのかとか理屈で考えても分からない。

 それが魔法である、と納得するべし。科学の外にあることに対し考えても仕方ないものね。


「メイア、魔法を見せてくれてありがとう」

「いえ、メイアもスパランツァーニ様の使い魔を見せていただきました」

「こいつはホバークラウド。登録しておいてもらえるか?」

「はい!」

「それで、他にも登録したい使い魔がいるのだけど……遠出しても大丈夫かな?」

「英雄様の願いとなれば、お仕事を休むことはできますです。旅の準備も必要です」

「旅の準備は……二食分くらい必要かな。後は必要ないこちらで準備するよ」


 メイアに灰色ゼリーを食べさせるわけにはいかないだろ。

 下手したら三日ほどトラウマで何も食べれなくなってしまうぞ。

 俺? 今朝も食べたよ、こんちくしょう。

 

「旅装と食糧を取ってきますです。ここでお待ちいただけますか?」

「分かった」


 どこまで俺たちの手の内を見せるのか悩ましいところだが、自重する必要もないかとも考えている。

 全ての機械はスパランツァーニの認証が無きゃ動かないからね。道具類はそうではないが、「使い魔」じゃないものは見せる必要がない。

 拠点と往復するのも今のままだと面倒だし、使い魔登録さえしてりゃ全て素通りになる。

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