第3話 スノーマン
「や、やめろ……俺の腕を不定形にするな……いや、そんな時代遅れの機械の腕もダメだ……え、かえって斬新だって? んなわけあるかあああ!」
「おはようございます」
「う、腕。俺の腕」
「動かしていらっしゃるじゃありませんか」
わなわなと自分の顔を手で覆う。確かに腕がある。うん、腕がある!
ゆっくりと起き上がるとバリバリと地面に流れ出た血液が剥がれ顔をしかめた。
腕を回してみる。よし、ちゃんと動く。さすが我が体内のナノマシンたち。完璧な仕事をしてくれるぜ。
立ち上がって、その場で足踏み、軽くジャンプしてみる。
「問題ないな。すっかり元通りだ」
「服を再構成しますか?」
「そういや、血まみれになっちゃったな。服を再構成って機械は無事なのか?」
「全てではありませんが、それなりに残っています」
それなりに、か。正直、どんな機械があるのか把握していない。
全部スパランツァーニ任せだからな。
服はいつでも着替える……というか繊維に戻して再構成できる。
落ち着いたところで周囲を見渡してみた。
座席が吹き飛び床に転がっている以外は特に傷がついた様子はないな。ここはなんちゃって操縦席風の部屋で、一応外の様子を一望することができるように前方が透明なグラファイトになっている。さすが、ダイヤモンドと変わらぬグラファイトだけにこの衝撃でも平気だった模様。
後方の扉も同じくグラファイト製だけだったため、歪みも無さげ。
「無事なのはこの部屋だけかな?」
「燃料タンク付近と精密機械の一部が大破しております。飛行することはできません」
「修理は可能かな?」
「すぐには難しいです。飛ぶだけならともかく宇宙空間にでることはかないません」
「せっかく着陸したんだ。まずは外に出てみようか」
「推奨されません」
せっかく外を見渡すことができる窓があるというのに、真っ暗闇で何も見えん。
着陸地点を北極にしたはずだけど、大破したからなあ。どこに着陸したやらだよ。
スパランツァーニが「推奨しない」と言っているので、外は極寒の地とかそんなのかもしれない。
「推奨されない理由は気温で合ってる?」
「はい、温度調節さえできれば問題ないかと」
なら部屋の中にあるものだけでいけるか。個人用の温度調節機能を持ったエアコンならそこの棚の中に。
あったあった。安物だから単機能なんだよなあ。
パワーストーンのブレスレットのような個人用エアコンを腕に装着し、準備完了。調節温度はオートに設定し、準備完了である。
服装は上半身血まみれだけど気にしたらいけない。
「なるほど。暗かったのはそういうことか」
宇宙船の後方に移動して状況が見えてきた。
宇宙船の前方が地面に埋まっていて、窓から見える景色が真っ暗闇だったんだ。
そのまま後方部のハッチを開け外に出る。
「ひょええええ! こいつは壮観だな!」
雲一つない晴天に一面氷の世界。地平線の向こうまで平原となっていて、視界良好。
白はアルベドが高く太陽の光が反射し目が痛い。
ま、慣れれば何とかなるだろ。
「現在、気温マイナス25度です」
「生命反応は?」
「あるにはありますが、ネズミより大きな生命反応はありません」
「この寒さじゃあ。海中なら魚とかクジラがいるかもな」
「調査いたしますか?」
「調査機は生きているのだっけ?」
「はい、惑星周回軌道を現在も回っております。海中の調査は別の調査機が必要です」
さすがに俺でもそれは分かる。
調査機と一言で言ってもいろんな種類があるからなあ。乗り物も然り。
ん。
今、風景が動いたような。
じっと目を凝らし真っ白な氷の平原を睨む。
もこっと何か丸いものが動いた?
「え、あ。え、ええええ!」
地面がボコボコと丸いものが多数発生してきた!
丸い物はむくむくと大きくなって、大小二つの球体が縦に連結し、枝のような手が生えてきたじゃないか。
上側が頭で下が胴体?
真ん丸のボタンのような黒目にニンジンを反対向きに突き刺したみたいな鼻、筆を横に引いて描いたのかのような口……。
雪だるま……?
ご丁寧なことに頭にバケツを被っている。
「生命反応はないんだよな?」
「はい。あの物体は動いておりますが、人間の定義する『生命』には該当しません」
だったらあれは何なんだ。いつの間にやら数十体に囲まれてしまったんだけど……。
そのうちの一体がぴょこんぴょこんと跳ねてこちらに寄って来た。
「××××」
何か喋ったぞ!
しかし、言葉が分からない。
「排除しますか?」
「いきなり物騒だな。何か喋りかけてきているんだから、まずは対話を」
「また大怪我をされてもいいのですか?」
「ぐ、あまり良くはないけど、許可なく着陸してきたのは俺たちなわけで……もちろん自分の命が最優先で行く」
「承知いたしまいした。危険レベル3で警告を発します」
大丈夫かなあ。
雪だるまと身振り手振りで会話にならぬ会話を交わすこと10分ほど。
そこでスパランツァーニが動く。彼女は俺の胸に右手を添え見上げてきた。
もちろん無表情で。
「言語解析が完了しました。データを送ります」
「もう終わったのか?」
「はい。十分な会話サンプルを取得できました。以後、翻訳データベースを更新次第送ります」
「うお。いきなりきたな」
視界がフラッシュバックし、倒れ込みそうになるのを彼女が支える。
俺の胸に手を添えたのはこのためでもあったのか。体のどこかに触れれば体内のナノマシンにデータ送信ができるからな。
医療用はともかく、こういった体内に記憶媒体を導入したり、なんてことは過去にかなり揉めたそうだ。便利でいいと思うんだけどね。
人間の記憶域なんて曖昧なもんだし。データをもらったからといって即活用できるわけもなし。
その点、翻訳システムにデータを流せば自動的に翻訳され脳内に日本語で聞こえてくる方が格段に利便性が高い。
今みたいに倒れ込みそうになるのが難点ではある。
「では、改めて。俺は
「タツヒコ? ぼくらはスノーマンなのだ」
「お、おお。通じた。さすが翻訳システム」
「どうしたのだ?」
「こっちの話……。ええと、スノーマンさん」
うお。全員がこっちを向いた。
スノーマンというのは種族名か何かなんだろうか。全員同じ名前ってことはないよな?
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