第2話 大破!
スパランツァーニの指示に従い宇宙船が大気圏に突入する。
順調に行くかに見えたその時、突如アラートが鳴り響く!
ブウウン、ブウウン!
「突如、隕石が出現いたしました」
「隕石だって? どこから?」
「進行方向です」
「有り得ん。隕石は上から降って来るものだろおおお」
ディスプレイに「下から上に直進する」岩の塊が映し出された。
何なんだよあれ! 惑星には重力がある。それ故、物体は惑星に引っ張られるのだ。
それが、それが……岩の塊なんて重い物が重力と逆向きに直進するなんて有り得えないことだ。
ファンタジー風な惑星と喜んでいたけど、物理法則までファンタジーなんて聞いてねえ。
スパランツァーニの無機質な声が響く。
「2秒後に衝突します。いかがいたしますか?」
「躱すことは不可能だよな。なるべく多くの機材を護ってくれ。重要度の高いものから順にできる限り」
「承知しました」
スパランツァーニが頭から溶け、不定形のブヨブヨしたスライム状の塊となる。
隙間にスライムが染み込み、この場から姿を消した。
「あ、しまった……」
機材を護れと指示を出したら、俺を護ってくれないじゃないかああ!
マ、マズイ。
ドガアアアアアアン!
隕石が宇宙船に衝突し風穴が空く。内熱機関が炎を上げ宇宙船が墜落し始める。
炎は自動的に消し止められたようだったが、制御系が復活したわけではない。
『
「分かってる! 分かってる!」
体内のナノマシンが警告を発する。
対する俺は網膜に映り込んだ警告メッセージと脳内に響くアラートに声を荒げた。
宇宙船が自由落下しているのだ。危ないことは言われなくても分かってるってば。
『警告、警告。危険を感知しました。危機的状況の為、体の制御を委ねてください』
そうだな。体内のナノマシンに俺の体の操作を任せよう。
俺の体内には多数のナノマシンとピコマシンが蠢いている。さっきからこいつらが俺に警告を発していた。
意思でスイッチを押すだけで、体内のナノマシンたちが俺の肉体を生かすべく最善の行動をしてくれる。
俺が下手に動くよりはマシだろう……。後は生き残ることを祈るのみ。
すると何故か俺の体が勝手に座席のシートベルトを外す。
『痛覚を遮断します』
そして、衝撃が走った。
真上に投げ出されようとする俺であったが座席に腕を絡め骨の折れる嫌な音が響く。
それでも衝撃を殺すことが出来なかったらしく、両腕が千切れ飛ぶ。
首を前に曲げ、天井に背中を強打。
ゴボッと口から血が溢れ出た。背骨もやったかもしれない。
「スパランツァーニ……」
声を出すが信じられないくらいか細く弱々しい。
ナノマシンを導入する前の人類なら致命傷だ。しかし、現代の技術を舐めちゃいけない。
それでも彼女が来てくれないと、このまま死ぬかも。
◇◇◇
『修復を開始します』
脳へ酸素を行きわたらせるためか、まず肺の修復から始まった。
と同時に傷ついた血管をナノマシンが束になって強引に塞ぐ。
ゴボゴボと肺から音がするものの、ようやく呼吸をすることができるようになった。
「はあはあ……」
急激な修復のため体内の膨大なカロリーを消費し、体温が高くなってきたみたいだ。
『気道確保。生存時間延長に成功しました』
応急処置が完了したメッセージが網膜に表示される。本来なら脳内に音として認識されるメッセージも発するのだけど、最低限の表示モードに切り替わっているみたいだな。
……冷静に分析しているが、内心気が気じゃない。
といっても、体はナノマシンに委ねているわけで、両腕は無いしで……立ち上がることもままならない。
口以外は動かん。痛覚も遮断されているから現実味がないと言うか、それで変に達観してこんな感じに。
『警告。エネルギーが枯渇しております。3分後に生命維持を優先し「切り離し」を行います』
「ま、待って……スパランツァーニ……」
「切り離し」とは脳みそだけを何が何でも維持するモードである。こんな設備も何もないところで脳みそだけになったらツミだ。
しかし、無情にもカウントダウンが始まる。
機械ってこっちの心情とかまるで考慮しないから泣けてくるよね。
天井からエメラルドグリーンの液体が染み出してきて同じ色の髪をした少女に姿を変える。
「お待たせいたしました。失礼します……残り2分03秒……」
「点滴を思う存分ぶっ刺してくれ……」
俺の額に指を当てた彼女が平坦な声で返す。
「間に合いません。許可を頂けますか? マイマスター」
「何でもいいから頼む。あ、あああ、時間が」
「では、入らせて頂きます。右か左どちらがよろしいですか」
「ど、どっちでも……」
一体何をするんだ……なんて考えていたら、スパランツァーニの右腕が不定形に変わる。
不定形は触手のような管のようなものに変化した。
そいつが、止血されたばかりのぱっかり開いた右の肩口へズブズブと差し込まれる。
『修復を開始します』
どうやら間に合ったらしい。管からどんどこ栄養分を流してくれているんだな。
点滴やアンプルじゃ間に合わないから傷口から血管へ直接管を通すというわけか……。気分の良いものじゃないけど、緊急事態につき四の五の言っている場合じゃない。
「腕、腕も頼む」
「腕は生存に必要ありません。内臓器官、神経系から修復しております」
「そ、そうか。腕が動くといいなあって」
「腕の前に足。その前に座骨とその神経を修復しなければ足が動きませんよ?」
「お、おう……むぐ」
「それと、口は閉じさせて頂きます。発声はエネルギーを消費しますので」
口を閉じれと言うなら口を閉じるから。左手を俺の口に添えたまではいい。
だがしかし、わざわざドロッとなって口内に侵入する必要はないんじゃないか。これじゃあ、息が……。
「ご安心を。酸素吸入を行っております。許可を頂けましたので最善を尽くします」
「……」
呼吸もエネルギーを使う、という事ね。
呼吸ができないとなれば、本来苦しくなる。だがしかし、そこは既に感覚を遮断しているから問題ない。
『意識レベル低下』
「ゆっくりお休みください。15分32秒後にまたお会いしましょう」
痛みや苦しみが無くとも、自発呼吸を止めたら意識が遠のくことを避けられず……。
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