第13話 ゴーレム
「ゴーレムですか? このようなゴーレム初めて見るです」
「俺にとっては君たちの使い魔の方が驚きだよ」
「世界が異なると、使い魔もまるで仕組みが異なるのですね」
「こいつはロケットワンダーという。スパランツァーニはこいつを何体も同時に操ることができるんだ」
「使い魔を何体も、ですか! 使い魔を専門としている魔術師でも五体がせいぜいですます」
部屋に到着するなり、唯一ここまで持ってきたロケットワンダーをメイアに見せる。
彼女が客室まで案内してくれたのでちょうど良かった。
馬の形に変化したスパランツァーニに騎乗してきたので、荷物を余り持てなかったんだよね。
「もう使い魔を飛ばしても大丈夫かな?」
「はい、ご自由にどうぞ、です」
「ありがとう」
「あ、一つだけお約束があります。覗き見は禁止です」
「王城の中を見るとか、民家の中を見る、とかかな?」
「はい、概ねそのようなところです。水晶が警告を発しますので、ご注意くださいです」
「警告されたらすぐ分かるの?」
「これをお持ちくださいです」
メイアが小さな手を開くと、直径3センチほどの水色のスーパーボールのようなものが乗っていた。
触れてみたらスーパーボールのように柔らかくはなくて、石っぽい触り心地? に思える。
蛍光グリーンでいかにもな見た目だったから、スーパーボールと錯覚しただけだったようだ。
宇宙を放浪し始めてから長く訪れていないけど、商業施設に行くとエスカレーターがある。エスカレーターは黒い階段状になっていて、黒の周囲の淵に黄色い枠があるだろ?
この色合いに慣れ親しんでいると、エスカレーターが止まっている時に登ろうとしたらふわっとした変な気持ちになったことはないかな?
ふわっとした変な気持ちは体がエスカレーターの階段の色合いを覚えていて、「動くもの」だと認識していることから起こる錯覚なのだという。
他にも辛い食べ物をみると唾液が出るとか例を挙げると枚挙にいとまがない。
色味と大きさ、形から俺はこの蛍光グリーンの石をスーパーボールと錯覚したというわけさ。
「この石? が知らせてくれるのかな?」
「警告を発する時にピンク色に代わります」
「なるほど……気を付けないと色が変わったことに気が付かないケースもありそうだ」
「ご注意くださいですます」
俺なら見逃すが、スパランツァーニなら問題ない。機械のような正確さで反応してくれるさ。
俺なんぞ比べ物にならないほどの処理速度を誇る彼女なら、ついでに石の色を見るなんてわけはないぜ。
「頼む」
「畏まりました」
ポイっとぞんざいに石を投げ、スパランツァーニがキャッチする。
「では、失礼いたします。ごゆっくりおくつろぎください」
ペコリと頭を下げ、部屋を辞すオリビア。
魔王に農業に詳しい人を呼んで欲しいとお願いしているので、そのうち誰か来るはず。
その前にまずは部屋のチェックからはじめるとしますか。
部屋は宇宙船に比べると広い。広すぎる。俺とスパランツァーニ二人の広さとしても、大盤振る舞い過ぎないか?
部屋の広さはざっと25畳~30畳はある。ベッドが二つに衣装タンス。ソファーにテーブルと書き物をするための文机と椅子のセットが二つ。
部屋の形は長方形になっていて、長い辺の方に出窓が二つ、短い方に一つあった。
この部屋は角部屋で窓の無いところは廊下に繋がる箇所と、隣室と隔てる壁である。
「さっそくロケットワンダーを飛ばしてくれるか?」
「畏まりました。映像はいかがいたしますか?」
「ナノマシンに送信しても……いや、農場と牧場の様子を何枚か静止画で送ってもらえるか?」
「農場を探索し、発見後、静止画をマスターに送信しますね」
窓を開けロケットワンダー発進。
レストランもチェックしたかったのだけど、「覗き禁止」とメイアが言ってたので避けることにしたんだ。
必要に応じてギリギリを攻めてみるかもだが、今はまだいいだろ。
「うお」
ロケットワンダーが発進したばかりだというのに、もう映像が届いた。
脳内映像と自分の目で見た視界が重なるのはどうも苦手で、これが動画となると目をつぶっていないと酔ってしまう。
静止画でも目を瞑った方が見やすい。
『今は真夏だよな?』
『日本の季節感でたとえますと、6月中旬ごろです』
『初夏ってところか。それにしては中々厳しそうな農場だな』
『牧場らしき箇所の映像も送ります』
『う、うーん』
誰が聞いているか分からないので念のため脳内会話にしてみた。
農場は植え付けしてからそう時間が経っていないのだろうか? それとも、収穫後に雑草が生えてきている状態なのかも?
農場は一面の緑というわけじゃなく、まばらな緑で茶色くなっているところまである。
牧場も大型の家畜はおらず鶏を一回りくらい大きくした鳥がウロウロしていた。
鳥も数が多くない。王都ではあまり農業も畜産業も盛んではなく、他の都市から仕入れているのかもしれないよな。
静止画だけで判断するのは尚早か。
コンコン。
ちょうどいいところで扉がノックされた。
「農業担当のジャイルでござります」
「待っておりました」
顔が見えないのでまずは丁寧な言葉遣いで対応する。
この辺りの線引きが難しいよなあ。今のところ、魔王、それぞれの大臣クラスに対しては丁寧な言葉遣いで行こうと思っている。
メイアは担当者レベルなので普通に喋り、オリビアは騎士でありながら王女なので大臣クラスに当たるのか難しいところなのだけど、もう今更訂正しなくてもいいや。
扉の前に立っていたのは白い髭を長く伸ばした壮年の魔族だった。
魔術師長と同じ髭の形にドキリとしたが、いきなり語り始めることはなくホッとする。
「はじめまして村雲竜彦です。こちらはスパランツァーニ。どうぞ、かけてください」
「スパランツァーニです」
順番に握手を交わし、俺たちが座るのを待ってから農業担当のジャイルが腰かけた。
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