第20話 アンデッド?

 メイアに機械類を見せていくことで意志を持ってるかのように動く機械類は使い魔、そうじゃない装置は魔道具として認識されていることを改めて確認できた。。

 拠点には大量の機械類があるからな……見せるだけでも大変だったぜ。空を飛び拠点まで来るのにそう時間はかからなかったが、機械類を見せていたら夕方を過ぎ夜になろうとしていたのだった。


「これで、終わりですますか……?」

「ありがとう。まだまだ使い魔を産み出したいのだけど……」


 いくら初めて見るものばかりで知識欲を刺激されようとも数が数だ。彼女にも疲労の色が見える。

 しかし、俺の最後の方の言葉で彼女の目付きが変わった。


「スパランツァーニさんは錬金術を極められているのですか!!」

「俺たちの呼ぶ使い魔は魔道具に意思を吹き込むやり方なんだ。生命を創造するわけじゃないよ」


 彼女にしては大きな声だったので、こちらが困惑してしまう。

 俺の説明に益々彼女は興奮した様子だった。


「異世界……恐るべしですます! 魔道具の究極形が今目の前にある使い魔たちなのですね」


 学者肌な彼女にしてみると、魔道具が意志を持って動き出すことに対しては激しく知的好奇心が刺激されるのだろう。

 もしかしたら彼女の研究分野が魔道具なのかもしれない。

 俺のファンタジー知識よると、生命を想像する錬金術ってものがあった。ホムンクルスだっけ、瓶の中のコビトとか言われるあれだ。


「魔道具に意思を吹き込むことと、生命を創造することは魔法の世界でも異なるの?」


 今度は逆に俺から彼女に質問してみた。完全なる俺の興味本位である。

 俺の問いかけに対し、彼女は迷うこともなく首を縦に振った。


「はい。生命の創造は禁忌です。幾人もが多くの命を使い挑戦しついには叶いませんでした。絶望した一部の魔法使いは自らの生命を捨て生きる屍に転じた、とも聞きますです」

「アンデッドってやつ?」

「そうですます。リッチとかノーライフキングと呼ばれる今となっては伝説のモンスターです」

「ん、俺のことをそう呼んでいた人がいたような……」

「つ、通常、心臓を貫かれて生きている人はいませんから」

「そうだよな、は、はは」

「え、えへへ」


 最後は微妙な流れになってしまい、お互いに愛想笑いをして誤魔化す。

 いやあ、魔法のことがますます分からなくなってきたぞ。生命創造より死者が意思を保ち動くとか意味が分からない……。

 知識としてはファンタジーな物語を読んで知っているけど、あれは本の中のフィクションだから受け入れることができた。

 現実にゾンビとかリッチがいるなんて信じられないよ。メイアからすると俺たちの持つ機械類がそれにあたるんだろうけど。

 コホンと俺がわざとらしく咳をすると、彼女も微妙な笑みを戻しぎゅっと拳を握りしめる。


「幾つもの使い魔をお持ちの理由が分かりました! もう一つ聞かせてください。魔道具の元になる素材はいろいろなのですか?」

「そのことなのだけど……崖や山肌、どこでも良いから採掘の許可をもらいたい」

「一応、魔王様にお聞きいたします。ですが、不許可になることはないと思いますです」

「もちろん、農場からも離れたところのつもりだよ」


 街中じゃないことも併せて伝えた。

 対する彼女は壁の外側を想像してか、口元に指先をあてながら口を開く。


「使おうにも使われていない場所ですし、モンスターの危険もありますが……」

「そこは問題ないよ」


 もう使わせてもらう前提で彼女と話を進める。宇宙船に搭載している機械類はそう多くはない。積める量に限界があるし、現地で作るための工作機械はある。

 プラント設営にも素材が必要だし、氷からじゃ難しいのだよね。氷から作れたとしても運ぶのが大変で効率が悪い。

 現場に近いところで作るのがベストだよ。

 しかし……惑星で生活するための機械類について数が減ったものの温存されていたのに、料理マシンだけ無いとか悪意としか思えん……。確かに料理マシンは生存に関して重要度が低いから、予備機もなかった。重要度が高い機械類に関しては予備までちゃんと準備されている。

 宇宙船の墜落で予備機の幾つかを失っているものね。正確には把握していないけど……。

 ん、待てよ。機械類を作るってことは。


「灰色ゼリーを加工する料理マシンも作れるんじゃ?」

「推奨しません」


 まあ大丈夫だろ、という気持ちでスパランツァーニに問いかけたが、即答されてしまい膝が落ちそうになった。


「難しいのかな?」

「現状予定しているエネルギー供給量ではご希望の生成機を含んでおりません」

「作ることは作ることができるの?」

「畑からカレーを作るのではなかったのですか?」


 そ、そうだけどお。

 うお。スパランツァーニから料理マシンの概要データが脳内に送り付けられてきた。

 えええ、料理マシンはこんなにエネルギーを使うの!?

 これじゃ太陽光発電だと不足する。しかもモノポール炉までいるのかよ。モノポール炉は太陽光発電より遥かに発電量が多い。しかし、太陽光発電のように単純な設備ではないのだ。料理マシンは灰色ゼリーを組み替えてどんな料理メニューでも作り出す。この組み替え部分に繊細かつ膨大なエネルギーが必要になるらしい……。

 モノポール炉を作ればよいが……ええい、現地でカレーを作ると決めたじゃないか。

 これから畑を作るんだ。ほんの少し我慢すれば手作りカレーを食すことができる。

 我慢は最高のスパイスだ……。

 気を取り直して今度はメイアにパワーストーンのようなブレスレットを手渡す。


「メイア、明日朝出るから今日はここで休んでね。と、その前にこいつを」

「これは?」


 手渡されたパワーストーンブレスレットのようなものをじっと見つめるメイア。


「それを付けていれば、どこにいてもこの部屋くらいの暖かさになる。極寒の氷の世界でもね」

「ものすごい魔道具ですね!」

「細かい調整はできないからその点注意してくれ。あと炎に焼かれたりしたら耐え切れない。あくまで寒いとか暑いを調整してくれるものと思ってくれ」

「お借りします! 試しに外に出てみてもいいですか?」


 「もちろん」と返し、エレベーターを操作する俺なのであった。

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